編集部の「そういえば、」2023年5月

編集部の「そういえば、」2023年5月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

「ぬいぐるみとしゃべる」若者たちを描いた映画作品

そういえば、先月から公開がスタートしている映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を観ました。タイトルにもある「ぬいぐるみ」の存在が最近ちょっと気になっていたからです。

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい ポスター写真

JDNでもお世話になっているグラフィック社さんの『てづくり推しぬいBOOK』は、キャラクターやアイドルを模したぬいぐるみ、通称「ぬい」の作り方を紹介する本ですが、これが累計5万部のヒットとなったニュースも耳に入っていましたし、SNSではぬいぐるみを外に連れ出し、カフェや旅先で撮影を楽しむ「ぬい撮り」も見かけます。もはやぬいぐるみは小さな子どもだけが愛でるものではないのだと、認識を改めはじめていました。

そんな「ぬいぐるみ」がたくさん登場する映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、大前栗生さんによる同名の小説を原作とした、京都の大学が舞台の物語です。主人公は入学したばかりの大学1年生。友人に誘われて「ぬいサー」と呼ばれるぬいぐるみサークルに入ることになります。その活動内容こそ、ぬいぐるみとしゃべることでした。

タイトルにある通り、作中でぬいぐるみとしゃべる学生たちはやさしく、同時に「弱い人」としても表現されます。それは「繊細さ」や「打たれ弱さ」ともつながるもの。そんな彼らは、「自分の言葉が人を傷つけてしまうかもしれない」と思うがゆえに、内に秘めた思いをぬいぐるみに話しかけるのです。

自分自身を振り返ってみると、大人になるにつれて、話し相手の反応をみながら言葉を飲み込む機会が増えていったように思います。同時に、言葉で人を傷つけたことも何度もありました。人間関係のなかで、繊細な人、弱い人、やさしすぎる人は自分自身をうまく表現できず生きづらさを感じてしまう。

でも、言葉は必ずしも人に向ける必要はありません。「もう大人なんだから」なんて思わず、人に言えない・言いづらい思いや違和感、悩みはぬいぐるみに聞いてもらえばいい。この作品は、そんなふうに思わせてくれます。

すでに公開終了となってしまった映画館もありますが、まだ公開中・公開予定の館もあります。人の心を癒やしてくれる愛おしいぬいぐるみたちを覗きに、ぜひ映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

(萩原あとり)

機械と私のあいだに佇む

そういえば、茅ヶ崎市美術館で開催中の企画展「渉るあいだに佇む-美術館があるということ」に行ってきました。

茅ヶ崎市美術館

茅ヶ崎市美術館 入口

開館25周年記念展となる本展は、「茅ヶ崎」をキーワードに、まちのシンボルをモチーフにした作品や、美術館を訪れる人々・地域の人の声を集めた作品など茅ヶ崎市美術館のために制作された作品とともに、美術史に残る作家の作品が展示されています。

Webサイトの企画展ステートメントには、以下のように書かれています。

ふと立ち止まり、自分や他者の考えの中に身を置いてみる。美術館は、多くの物事が急速に変化する時代のはざまで、佇むことができる空間なのかもしれません。
(中略)
さまざまなものやことのあいだに佇み、一人ひとりの美術館での時間を過ごしていただけたら幸いです。 そして、25年をひとつの節目に、地域に美術館という場があることについて、来館者のみなさんと一緒に考えることができたらと思います。

茅ヶ崎市美術館は緑に囲まれ、徒歩で海にも行ける立地にあるので、「ふと立ち止まり、佇んで考えてみる」に適した美術館だと感じました。そして展示を観ながら、私は「機械と人間のあいだ」に佇んでいました。

最近はAIに関する議論が盛んにおこなわれていますが、結論が出るよりも早く技術が発展しているのが現状です。弊社で関わっているコンテスト運営においても「AIによって生成した作品の応募を禁ずる」という主旨の一文を応募規定に添えることも多くなってきました。しかし、AIが生成した作品であるか否かを見破る術は、いまのところありません。

会場では、機械(コンピューター)によって制作した作品として、高尾俊介さんのクリエイティブコーディング作品が展示されています。クリエイティブコーディングとは、プログラミングで画像や動画を制作することです。ループを利用して大量の図形を規則正しく並べたり、「noise」で少しずつ変化をつけたり、「random」で結果の偶然性を楽しんだりします。

『クリックでつくる絵画 茅ヶ崎の海辺』p5js画面

高尾俊介さんの作品「クリックでつくる絵画 茅ヶ崎の海辺」

上の画像は「p5js」というプログラミングエディターを使った、「茅ヶ崎の波を描く」というコード画面です。本作品は、Web上でも体験できます(「Play」をクリックすると実行できます)。座標や大きさの値の範囲は人間が指定し、その範囲内でコンピューターが乱数を発生させて描画をします。私も時々クリエイティブコーディングで遊びますが、でき上がった絵は、私が描いた絵でもあり、機械が描いた絵でもあります。

また、やんツーさんと菅野創さんの作品「Replication by workshop participants」と「SEMI-SENSELESS DRAWING MODULES #1- Replicate」も人間と機械を行き来する作品でした。まず、彼らが設計したドローイングマシンが描いた巨大な抽象画を、地元の人々127名が模写します。模写時にゴム手袋をつけてもらい、それをカメラで撮影してトラッキングすることで、手の動き方をデータ化してマシンで再現します。

展示室には、人間が模写した絵と、その手の動きを真似てマシンが描いた絵が向かい合わせで展示されています。一見すると、この2枚は似た絵に見えます。

(左)マシンによる絵(右)人間による絵

しかし近くに寄ると、人間が描いた方は人間特有の筆圧のブレや遊び心を発見できます。一方でマシンが描いた絵は画面が均一で、個人の意図は抜け落ちています。ところが、完全再現ができていない不完全さや未熟さに、親しみのような感情が不思議と湧いてくるのでした。

(左)マシンによる絵(右)人間による絵

作品を見たり、緑地を歩いたり、海まで足を延ばしたりしながら、「機械と人間は二項対立ではなく、愉快に戯れていけたら面白い」と、ぼんやり考えました。しかしまだこれは結論ではなく、もうしばらく佇んでいたいと思います。

結論や速度を求められる世の中ですが、「迷っていてもいい」と思える体験になりました。考え続けることは居心地が悪いからこそ結論を急ぎがちですが、変転の激しい世の中では考え続ける覚悟が必要なのかもしれません。

企画展は6月11日までですが、茅ヶ崎市美術館の緑や海は季節ごとに楽しめる場所なので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

(小林史佳)

映像で味わう没入感

そういえば、いまさらながら映画『SING/シング:ネクストステージ』を見ました。同作は、アメリカのアニメーション制作会社・イルミネーションが制作した、映画「SING」の続編。

「SING」は、擬人化された動物たちが住む世界を舞台に、劇場を救うために歌のコンテストを開催する劇場の経営者バスター・ムーンと、コンテストの出場者が出場を通じてさまざまな不満や悩みに満ちた人生を徐々に変えていくストーリー。日本語版の声優は、内村光良さんをはじめ、長澤まさみさん、大橋卓弥さん、MISIAさんらが務めたことで当時話題になりました。

『SING/シング:ネクストステージ』予告|ストーリー編

続編である『ネクストステージ』では、前作に登場したキャラクターたちが、世界的に有名なエンターテインメントの聖地でショーをするという夢の実現に向けてドタバタコメディを展開します。シリーズ続編の場合はタイトルを「2」にすることが多いですが、同作は「ネクストステージ」と題しています。キャラクターそれぞれがネクストステージに向かっていく様子を描いていることから、タイトルにピッタリだなと感じます。

また、映画終盤のステージでのショーの部分は、とにかくディテールまで細かく表現されており、アニメの中であるにも関わらず、このショーを私もこの場で見たかったと思わせる、心がゾクゾクする感覚を味わえます。いろんなアーティストのライブや劇を見に行ったことがある方なら、始まる前のワクワク、曲が始まり演者が登場した時の鳥肌が立つあの興奮がわかるはず!同作をまだ見たことがない方は、ぜひその興奮を味わっていただきたいです。

もう1つ、同じく没入感のある作品をご紹介!サントリー天然水の特設サイトで見ることができるオンラインムービー「ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。」

サントリー天然水『ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。』

同作は、入山困難な春先の北アルプスの山々をヘリコプターで隅々まで1万枚以上空撮した写真をもとに、北アルプスを再構築、さらにその再構築した北アルプスをバーチャル上で撮影したものです。

制作を担当したのは、話題を集めたイベント「世の中を良くする不快のデザイン展」を企画した株式会社電通クリエーティブX。

3Dデータを使ったバーチャル上での撮影だからこそ実現できた映像表現は必見です!また、通常では見ることができない春の北アルプスを、サイト上で操作することで左右に移動したり、近づいたり、気になる対象物を観察・回遊することができます。何度見ても新しい発見があるコンテンツとなっているので、ぜひ特設サイトをのぞいてみてください!

■サントリー天然水「ENDLESS DAWN そしてまた、朝が来る。」特設サイト
https://www.suntory.co.jp/water/tennensui/endlessdawn/
※コンテンツの視聴には、高速で安定したインターネット環境が必要なため、固定回線に接続された有線、またはWi-Fi環境での視聴が推奨されています。

(岩渕真理子)