編集部の「そういえば、」2023年4月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。
どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。
恐竜と照明と、ついでに未来
そういえば、国立科学博物館で開催中の「恐竜博2023」に行ってきました。
日本初公開の「ズール」という鎧竜の全身実物化石が、今回の企画展の目玉として謳われています。鎧竜は、防御のために鎧のような固い皮膚やトゲに覆われた草食恐竜です。「守り」の鎧竜と、それを捕食する「攻め」の肉食恐竜の対比を軸に展示が構成されています。各展示の演出には、光と影が印象的に使われていました。
会場に入ってすぐ展示されているのは、恐竜の進化と分類を図式化した系統樹。恐竜のシルエットが浮き上がっているように後ろから照らされ、今回の主役恐竜のズールが歩きだすモーションを投影しています。

ズールにスポットライトがあたり(左画像)、歩くモーションのシルエットが投影される(右画像)

骨格標本は下からも照らされ、多重のシルエットが壁に映し出される
照明によって恐竜の骨格標本がつくり出す影も美しく、生物の造形美を感じます。光と影が映える淡いグレーの壁と、主張しすぎないフォントで恐竜名が貼られているシンプルな設えは、迫力を重視することが多い恐竜の展示では珍しい空間でした。
しかしその次の区画に進むと、シンプルから一転してアトラクションのような雰囲気の空間になります。

床面のシルエットによって、尾を武器にする様子を視覚的に解説
鎧竜と肉食恐竜の戦いの様子を骨格標本で再現したコーナーでは、鎧竜がどのように硬い尾を武器にしたか、床面にモーションを投影して表現しています。動かすことができない骨格標本でも身体の部位の動かし方をイメージしやすいように、ここでも光と影が使われています。

ティラノサウルスの骨格標本とそのシルエット
さらに順路を進むとティラノサウルスの骨格標本が2体並んで展示されており、圧巻です。照明によって映るシルエットは、あの有名な恐竜映画のロゴを想起させるかのようでした。
最後のコーナーでは、絶滅した鳥類の「ドードー」の骨格標本が展示されています。ドードーは人間によって17世紀に絶滅してしまった鳥類です。「恐竜のような大量絶滅を、人間の手で起こしてしまわないようにしよう」という、本企画展の監修者である恐竜研究者・真鍋真さんのメッセージでもあります。
余談ではありますが、私はこの日の夜に、何気なく『真鍋博 本の本』(五味俊晶 著/パイ インターナショナル 2022年12月28日発行)を読んでいました。イラストレーターである真鍋博さんが手がけた書籍イラスト974点を掲載しており、「一人でこれほど豊富なバリエーションのデザインを生み出せるなんて!」と、眺めているだけで楽しい本です。

『真鍋博 本の本』表紙および内容の一部
その本に掲載されていたコラムで、イラストレーターの真鍋博さんと恐竜研究者の真鍋真さんが親子であることを初めて知りました。未来的なテイストでSF小説の表紙を多く手がけたイラストレーターを父にもち、その影響をどのように受けたのでしょうか。「恐竜研究」の源に、創造性やデザインの光が灯っているのだと思うと、ワクワクします。
展示会場のパネルにあった、恐竜好きの少年がそのまま大人になったような笑顔を浮かべる真鍋真さんの写真を思い出し、好奇心が今後の研究発展の未来を照らしているようにも感じました。
恐竜博2023は、7月に大阪にも巡回予定です。
(小林 史佳)
ぶっちぎりの空間体験ができる「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展
そういえば、先日ミラノデザインウィークの取材のために出張に行ってきました。追ってレポート記事をつくる予定なので、ぜひ楽しみにしていてください!
ミラノデザインウィークからは話がそれてしまいますが、国内にいながら海外の空気感を味わえる展覧会をご紹介します。
5月28日まで東京・清澄白河の東京都現代美術館で開催中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展。本展は、2017年にクリスチャン・ディオールの70周年記念事業としてパリ装飾芸術美術館で開催されたものに続き、ロンドン、ニューヨークなどを巡回してきた展覧会です。クリスチャン・ディオールの75年以上にわたる情熱と、輝かしい創造の数々に焦点をあてています。
Instagramなどを中心に話題が高まり、予約分のチケットはすでに売り切れ。当日券も午前中に売り切れてしまう日が多いそう。
本展のキュレーターであるフロランス・ミュラー氏の新たな解釈と、国際的な建築設計事務所「OMA」のパートナーである重松象平さんが日本文化へのオマージュとしてデザインした展示空間により、クリスチャン・ディオールが影響を受けた芸術や庭園への愛、華やかな舞踏会の世界、コレクションの源泉となった日本の豊かな創造性への憧れを体感することができます。
また、東京都現代美術館が所蔵する貴重な作品や、写真家・高木由利子さんが本展およびポスターのために撮り下ろした写真など、魅力的な作品が展示されています。

写真家・高木由利子さんが本展のために撮り下ろした写真も並ぶ
ブランド自体に興味がないという方にもぜひ体感いただきたいのは、ぶっちぎりの空間体験。普段スマホで写真を撮らないという人も思わずボタンを押してしまうような力強さを感じます。
会場は大きく10ほどのセクションに分かれており、日本の展覧会ではなかなか経験できないような壮大なセットや素材の使い方、各セクションごとの大きな変化で飽きさせない仕かけが満載です。貴重なコレクションの数々はもちろん、ブランドの世界観や創造性を拡張してくれる圧倒的な空間体験ができるところに価値があると感じました。
会期は残り1カ月、チケット争奪戦が必至ですが、もしご興味がある方はぜひお早めに…!
(石田 織座)