編集部の「そういえば、」2022年10月
ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。
どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。
遠くの暮らしの彩りを巡る
そういえば、今月は海外の生活用品にまつわる展示にいくつか行ってきました。
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」では、食器ブランドとして有名なイッタラのこれまでの作品、製造現場の資料映像や道具も観ることができます。
個人的に印象的だったのは、四季をテーマにしたボウルの作品名です。春が「春の雪解け」、夏が「夏至」、秋は「紅葉」、冬は「極夜」でした。日本で四季を題材にする場合は草花に着目することが多いですが、高緯度に位置するフィンランドでは、季節の移ろいにおいて太陽の存在が大きいのだと感じました。
食器つながりとして、八王子市夢美術館では「デミタスカップの愉しみ」が開催中です。村上和美さんのコレクションを中心に、ジャポニズム、アールデコ、アールヌーヴォーなどさまざまな種類のデミタスカップを鑑賞できます。
「これはどうやってコーヒーを飲むのだろう…?」と思うような技巧の作品もありますが、コレクターの村上さんは、「ひとつひとつ必ずその作品でコーヒーを愉しむことにしています」とあいさつ文に記載しており、デミタスカップとしての用を実践しておられるそうです。
公式サイトに掲載されている「マイセン《貼り付け花鳥とスノーボール蓋付きカップ&ソーサー》」はソーサーの裏側にまで装飾が施されており、デミタスを飲むときだけでなく、食器棚の少し高い位置にしまった時にも美しく見えるつくりになっているように感じます。
また、府中市美術館で開催中の「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」では、「暮らしのデザイン」としての日用品の在り方を通じて、「身近な生活の中にこそ美が必要だ」としたモリスの作品と、その信念を受け継いだデザイナーたちの作品を展示しています。
私は普段はシンプルなデザインを選ぶことが多いのですが、パターンで彩りを加えるのもいいなぁと思い、ウィリアム・モリスのデザインパターンをあしらったエコカップを別の機会に買ってみました。気候や習慣、宗教感や思想は暮らしにあらわれ、暮らしは生活用品として形になります。異なった土地と文化と時代に由来する生活用品から、それらをつくった人たちと使う人たちのことに思いを巡らせてみることもできるでしょう。
上記3つの展示はどれも、一部エリアを除き基本的に写真撮影はNGとなっています。しかしながら、目の前の展示に集中し、「もしもこれを自分の生活に取り入れるなら…」などと考えながら鑑賞することができました。誰かに見せるためでなく、海外の暮らしを想像して、自身の生活を顧みる鑑賞体験になったと感じます。
(小林 史佳)
時計の個性や愛らしさを感じるオープン記念展
そういえば、少し前にオープンした、セイコーウオッチの発信拠点「Seiko Seed」にうかがってきました。
「Seiko Seed」は、セイコーウオッチ株式会社が同社の技術とデザインを切り口に、東京・原宿の「WITH HARAJUKU」に開設した新たな発信拠点。11月20日までオープニング展覧会である「からくりの森」を開催しています。
日々身に着けたり触れる機会が多く、人間に一番近しい“機械”と言ってもいい時計ですが、針の動きや音が鳴る構造を見る機会はほとんどありません。本展は、「時計仕掛けの森」と「時計の捨象」に分けられたインスタレーション作品を通し、腕時計の仕組みや面白さ、技術の広がりを実感できる展示となっています。
「時計仕掛けの森」は、アーティストのクワクボリョウタさんを迎え、秘められたユニークな内部機構が生み出す動きを、光と影で大きく映し出す影絵で表現。本作では、鳥やリスなど16種類の動物の動きが、時計の内部機構の繊細な動きで再現されています。
一方の「時計の捨象」は、エンジニア集団・nomenaの企画提案をもとに共同制作された作品。自在で滑らかな針の動きを実現する腕時計の内部機構と、音で時間を知らせる音声デジタルウオッチを活用し、3つの作品が展示されています。時計の文字盤がアメンボのようにすいっと泳ぐものや、何かの羽のように滑らかな動きをする作品などが並んでいます。
「Seiko Seed」では今後も展示が催される予定ですが、ぜひ今回の作品は直接見ることをおすすめします。残酷に時を知らせる、冷たいイメージもある時計ですが、本展では時計の愛らしさやキャラクターが感じられ、また違った印象を持つことになるはずです。好評のため、会期が11月20日まで延長した本展。足を運んでみてはいかがでしょうか?
(石田 織座)