編集部の「そういえば、」2022年11月

編集部の「そういえば、」2022年11月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

写真の不思議が連なっていく

そういえば、写真の展示をいくつか観てきました。

東京オペラシティ アートギャラリーの『川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なり』と、東京都写真美術館の『見るは触れる 日本の新進作家 vol.19』、『野口里佳 不思議な力』、『星野道夫 悠久の時を旅する』の4展です。

いまや目にしない日はないほど、身の回りにあふれている「写真」。画像として簡単に手元で見ることができてしまう写真を、会場で観ることの価値を感じる展示でした。

『川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なり』では、写真を並べて展示するだけではなく、薄いベールのような布を会場内に配したり、独特な投影方法で映像作品を織り交ぜたりしながら、世界観を構成しています。鑑賞者が作品間の無限の連なりを想像し、物語を紡ぐような楽しみ方もできるのではとも思いました。

<Illuminance>シリーズ展示スペース

<Illuminance>シリーズ展示スペース

『見るは触れる 日本の新進作家 vol.19』も、展示方法が面白く、5名の作家(水木塁・澤田華・多和田有希・永田康祐・岩井優)が、それぞれまったく違うアプローチで展示をおこなっていました。

多和田有希 展示の様子

『野口里佳 不思議な力』の<父のアルバム>シリーズでは、写真の外にある「撮る人の視線」と、その写真を「見る人の視線」が時を越えて交差するということに思いを巡らせるものでした。それを考えながら展示全体を観ると、写真には「不思議な力」が宿っているような気がしてきて、「写真」という見知ったメディアに、新鮮さと可能性を感じます。

<不思議な力>シリーズ

<不思議な力>シリーズ

『星野道夫 悠久の時を旅する』は、アラスカなどで生活する人々や野生の動物を撮影した写真を中心に、手書き原稿や実際に使用したカメラも交えて星野道夫さんの足跡を辿る構成。日本の日常生活では決して見ることのできない、圧倒的な景色が並んでいます。

「星野道夫 悠久の時を旅する」展示会場入口

「星野道夫 悠久の時を旅する」展示会場入口

しかしここに映る景色は確かに存在する世界であり、ほかの展示で観た写真の作品と地続きであると意識すると、世界が広く深いのだと気づくことができる「不思議な力」がここでも垣間見えます。

ある程度の見た目がキレイな写真は誰でも気軽に撮れてしまう時代ですが、やはりプロの作品はその技術の高さだけでなく、培われたインスピレーションに触れることができると実感しました。そして、作家として写真というメディアと向き合う覚悟にも触れることができたような気がします。

(小林 史佳)

クリエイションの森を巡る、10周年展覧会

そういえば、先日まで代官山ヒルサイドフォーラムで開催されていた、KIGI(キギ)の10周年展覧会「all is graphics」を拝見してきました。

「all is graphics」展示会場の様子

「all is graphics」展示会場の様子

KIGIは、植原亮輔さんと渡邉良重さんによって、2012年に設立されたクリエイティブユニット。クリエイションを1本の木にたとえ、1本ずつ丁寧に育てて、やがて森にしていきたいという思いを掲げて活動がスタートしました。

10年という節目を迎える本展は、広告やグラフィックデザイン、ブランディングの仕事を軸としながらも、プロダクトブランドやギャラリーショップなどをつくり、木々を育ててきた彼らの10年間と、未来を俯瞰できる機会となる展覧会です。

「all is graphics」展示会場の様子

「all is graphics」展示会場の様子

会場は大きく7つに分けられていましたが、手がけてきたデザインや作品が年代順に並ぶのではなく、展覧会タイトルに「all is graphics」とあるように、彼らのクリエイションの自由さを表現するかのようにすべてが混在し、並んでいたことが印象に残りました。2003年の発売以来、ロングセラーとなっている商品「フラワーベース」や、KIGIが琵琶湖周辺の職人たちと立ち上げたオリジナルブランド「KIKOF」、プロダクトブランド「D-BROS」、ほぼ日とのファッションブランド「CACUMA」などの軌跡が空間を余すことなく使って展示されました。

「all is graphics」展示会場の様子

「all is graphics」展示会場の様子

「all is graphics」展示会場の様子

「all is graphics」展示会場の様子

また、会場には、KIGIが東京・白金で運営するギャラリー&ショップ「OUR FAVOURITE SHOP」の出張店舗も出ており、ゆっくり時間をかけて彼らのクリエイションに浸ったあと、おみやげとしてプロダクトなどを持ち帰れるような構成になっていました。依頼されたデザインだけでなく、自分たちでさまざまな活動に取り組んでいるKIGIの、これからがさらに楽しみになる展覧会でした。

(石田 織座)