こんなにモノが溢れる時代に、それでも私たちが「モノを買う」のはなぜだろう?
物欲…?はたまた必要に駆られて…?「買う」という行為から、その人らしさや考え方が見えてくるような気がします。本企画はいわゆる「私の定番アイテム」紹介ではありません。さまざまな職種の方に「さいきん、買ったもの」をうかがい、改めて「買う」ことについて考える…そんな大げさな話ではなく、審美眼のある方々に「買う」にまつわるお話をうかがう、ちょっと軽めの読み物です。
今回はパッケージを中心にデザインを行う、BULLET Inc.の小玉文さんが、さいきん買ってよかったものを紹介してくれました。
英語版の手塚治虫『ブラックジャック』と、水木しげる『総員玉砕せよ!』
この間グラフィックデザイナーの友だち2人とロサンゼルスに行った時に、「THE LAST BOOKSTORE」という本屋で買っちゃった2冊です。日本語の漫画コーナーがあって、ジャケ買いしちゃったんですよね。

(左)英語版の水木しげる『総員玉砕せよ!』(中)英語版の手塚治虫『ブラックジャック』(右)購入した際のレシート
表紙や背表紙が特に気に入っています。表紙の裏に印象的なシーンが切り取られているんですが、たぶん装丁された海外の方が、原作を読み込んだ上で作っているんじゃないかなって気がしていて。セオリー通りにいけば、やっぱり登場人物が出てるカットがいいんじゃないかという話になると思うんですけど、「この巻ではこのシーンがよかったんだよ」っていう作り手の感動が伝わってきて、ちゃんと『ブラックジャック』を読んでいる海外のデザイナーさんが作っているんだってことが、すごくうれしく感じたんですよね。こんなに思い切った装丁にしちゃっていいんだっていう驚きと、「もの」としての魅力から、「ロスから連れて帰りたい」みたいな気持ちになりました。

英語版の手塚治虫『ブラックジャック』の表紙裏
手塚治虫と水木しげるっていう、漫画家として2大巨塔の作品を、わかりやすい装丁じゃなくてもOKというのがすごくうらやましく思いました。特にパッケージデザインの分野は、日本ではできない海外の自由さをよく感じるんですよね。日本では、文字で説明するとか、わかりやすい写真で説明するということがすごく求められて、それが日本特有の信頼感になっていると思うんですけど、海外のパッケージってものすごくシンプルだったりとか、牛乳なのかジュースなのかわからないみたいなものもあったりする。
万人に受けるものっていうのは、場合によってはだれからもファンになってもらえない、中途半端なものになってしまうおそれがあるんじゃないかなとわたしは思います。突き抜けたものの方がファンがつきますからね。もちろんバランスは大切ですし、場合によりけりな部分はあると思うんですけれど。
普段の仕事では、凝った仕様を自由に試したりはできないので、毎年いろんな手法を試した年賀状を自主的に作っています。年賀状は、勝手に送りつけることが許される場なので(笑)。でも、意外と年賀状をきっかけにお仕事をいただいたりすることもあるので、新しい仕事ややりたいことにつながるいい宣伝物にはなっているのかなと思っています。

これまでに小玉さんが手がけた年賀状の数々。どれも自由な発想で特殊な印刷技術が用いられている。
「買い物」について
仕事のインプットとして必要だからといって買うよりも、単純に好きだから買うことが多いですね。買った時の気持ちが残っていて、仕事をするときに「ああいうのがいいな」ってなることはとてもあります。
パッケージデザインの仕事の参考としては、バレンタインの時期に百貨店などでやっているフェアに行くと、ものすごく凝った仕様のものがたくさんあるので、そこでジャケ買いすることはよくあります。お菓子は単価が低いのでどうしても箱や印刷に凝れないことが多いんですが、バレンタインのお菓子は凝ってるものが多いんですよ。
事務所にものがけっこうあるので極力買わないようにはしているんですけど、やっぱり質感がいいとか「物体」としていいものは買っちゃいますね。それはパッケージに限らず、本などにも共通しています。
わたしは音楽が好きなので、Apple Musicで聴いたり、たまにiTunesで買ったりはしているんですが、CDなどのジャケットやアートワークが、ものとして凝っている作品がもっとあったら、買いたくなることが増えると思うんですよね。実はそういったジャケットやアートワークの分野でも、おもしろいものをつくってみたいなっていう野望を持っています…!(笑)
タイトル画像:岡村優太