第18回:takeo paper show 2018「precision」で見た紙の可能性

写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

紙の商社・株式会社竹尾が1965年から開催してきた「竹尾ペーパーショウ」。紙の新製品紹介にとどまらず、第一線のクリエイターとともに紙の可能性を提示してきた展示会です。前回2014年から4年ぶりに開催された今年のペーパーショウを見て、さらに進化した紙の未来を感じました。

今回のペーパーショウは「precision / 精度」 というテーマで、新しいファインペーパーのあり方を提案。表参道のスパイラルホールを会場に、グラフィック、プロダクト、テキスタイルなどの分野で活動する9組のデザイナーが、それぞれ異なる種類の紙を用いた作品を展示し、紙の可能性を提示する試みでした。

既成品の紙を違う形に昇華させた作品、テクノロジーを使った作品など、多彩な作品が展示されていましたが、ここでは紙を立体としてとらえた3つの作品を紹介したいと思います。

安東陽子「紙と布の協働、あいまいな関係」

安東陽子「紙と布の協働、あいまいな関係」

安東陽子さんの作品「紙と布の協働、あいまいな関係」

紙の布とリボン

こちらは、テキスタイルデザイナー、安東陽子さんの作品「紙と布の協働、あいまいな関係」。割いた和紙を撚り合せて糸をつくり、さらにそれを編んで紙の布にしたり、紙の布を割いてリボンにしたり、1枚の紙がさまざまな形に展開していく作品です(展示台の順番では、紙糸→紙布→リボン→刺繍)。紙が糸や布に変化しながら、紙と布の間を行ったり来たりする様子が印象的。それぞれの作品は黒い台の上でつながっており、紙なのか布なのか、平面なのか立体なのか、両者のあいまいな関係を体感できる演出が秀逸でした。

今回展示されていた糸は、見た目が普通の糸のようで、紙からつくられたことを言われなければ気づかないほど。「キュアテックスヤーン」という、和紙からつくられる糸だそうです。糸の精度の高さに驚かされました。

次にご紹介するのは、「段ボール」をテーマにしたDRILL DESIGNの「ハレの段ボール、その成型」。梱包・運搬のための実用性が重視されてきた段ボールにファインペーパーを使うことによって、今までにない可能性を探るという試み。従来のクラフト段ボールが「ケ(日常)」であるなら、贈答や祝い事など「ハレ(非日常)」で使えるカラフルな段ボールを提案。ライナー(表層)の紙には、ビオトープGA-FSなど、フルート(波状の中芯)にはサガンGAなどのファインペーパーが使われているそうです。

DRILL DESIGNの「ハレの段ボール、その成型」 写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

DRILL DESIGNの「ハレの段ボール、その成型」 写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

DRILL DESIGN「ハレの段ボール、その成型」 ファインペーパーを波状に加工された画像

ファインペーパーを波状に加工

さらに、色だけでなく、形状も検討。軽く、丈夫で、自由な形状に成型した試作も展示されていました。「こんなパッケージがあったら素敵だな」と思えるプレゼンテーションでした。

最後にモールドを使った作品をご紹介します。プロダクトデザイナー、藤城成貴さんの「mix」です。通常、緩衝材として使われるパルプモールドは、リサイクル紙材を主原料としてつくられますが、今回の展示では従来のモールド製作ではあまり行われなかったアプローチを採用。違う色の紙を混合したり、溶解時間を調節したりすることにより、モールドが持つ人工的でありながら石材のような自然な表情をつくろうとしたそうです。

展示作品の中には、色上質の濃クリーム×空や色上質の黒×オフィス古紙など、複数の紙をブレンドしたものもありました。通常のモールドでは、安価で効率的なリサイクル紙材が主原料で、2種類の原料を混ぜることもほとんどないため、新しいトライアルだったようです。

藤城成貴「mix」 写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

藤城成貴「mix」 写真提供:竹尾 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

藤城成貴「mix」のアップ画像

紙には見えない不思議な質感

藤城成貴「mix」 イベントにて展示されていた制作工程の画像

まず、水と原料の紙を入れて溶かしたタンクに、左手の型(穴があき、網が張られている)を沈めて抄き上げる。次に熱乾燥させ、その隣の凸と凹の型でプレス成型、最後に奥の抜き型で縁をカットすると、展示作品のような形状に

このように、紙でさまざまな実験ができるのは、竹尾ペーパーショウならでは。これらの実験はすぐに役立つわけではないかもしれませんが、技術や体験の蓄積という意味でもメーカーやデザイナーにとって必要なことだと思いました。「紙でどこまでできるのか?」という挑戦を続けることこそが紙の未来につながるのではないでしょうか。平面であり、立体にもなる紙という素材の可能性を感じた展示でした。

takeo paper show 2018「precision」
http://www.takeopapershow.com/

宮後優子(グラフィック社)

宮後優子(編集者/Book&Designディレクター)

宮後優子(みやご・ゆうこ)
編集者/Book&Designディレクター。東京藝術大学で美学美術史を学んだ後、出版社の編集者に。デザイン専門誌『デザインの現場』編集長を経て、文字デザイン専門誌『Typography』を創刊。デザイン書編集者として20年近く活動。デザイン関係の雑誌・書籍・ウェブサイトの編集のほか、イベントやワークショップなどの企画・運営を行う。
http://typography-mag.jp
http://book-design.jp