クリエイターの「わ」第1回:三澤遥

クリエイターの「わ」第1回:三澤遥

クリエイターからクリエイターへと、インタビューのバトンをつないでいく新連載「クリエイターの『わ』」。編集部がお話をうかがったクリエイターに次のインタビューイを紹介してもらうことで、クリエイター同士のつながりや、ひとつのクリエイションが別のクリエイションへと連鎖していくこと=「わ」の結びつきを辿っていくインタビューシリーズです。

リレーのはじまりとなる第1回目にお話をうかがうのは、デザイナーの三澤遥さん。上野動物園の「UENO PLANET」プロジェクトや、「KITTE」「東京ビッグサイト」のロゴデザインなどを手がけた三澤さんは、昨年のADC賞では3作品同時受賞を果たし、2019毎日デザイン賞を受賞するなど、いまもっとも活躍されているクリエイターのひとりです。インタビューを通して、三澤さんの作品からうかがい知れる、独特なものの見方が垣間見れたような気がしました。

お仕事紹介

「動紙」
「動紙」

写真:林 雅之

紙の専門商社 株式会社竹尾が主催したtakeo paper show 2018「precision」にて発表した作品です。竹尾側からの「機能がある紙をつくる」というお題に対して、私は金属の性質を帯びた動く紙をつくりました。紙が磁力に反応し、さまざまな動き方をします。

三澤デザイン研究室を発足して以来、「ひとつのルールを軸にいかに多様性を生むことができるか」をテーマとし、いくつかのプロジェクトを進行してきました。「動紙」もそのひとつです。まずは「紙が動く」というルールを設定し素材開発を行いました。その考えのもと、「移動する」「起き上がる」「行進する」など、25通りの「動き」を設計しました。「紙」をつくるその先に、まるで意志を持っているかのような「紙のふるまい」をデザインしたかったのだと思います。今後も「動紙」は継続的に研究を続けていく予定です。みなさんに「はっ」としてもらえるような紙の新たな世界をつくることができたらわくわくしますね。たとえば、紙が飛んだり、舞ったり、踊ったり……。可能性は膨らみます。

「Form of Gravity」
「Form of Gravity」

写真:林 雅之

「Form of Gravity」は、2018年のギンザ・グラフィック・ギャラリーでの個展「続々 三澤遥」で発表した作品で、クライアントワークとしてではなく、三澤デザイン研究室の実験から派生してつくったものです。これも「動紙」と同じく、シリーズとして今後も継続して研究していきたいと思っています。

この作品は、「水のかたち」を観るための装置です。ラフスケッチをほとんど描かずに、手を動かしながら同時に考えていくプロセスを辿りました。普段の仕事では、スケッチを書いたり、クライアントと話し合う中でディテールを決めて進行していくことが多いのですが、この作品は「透明な液体の中に浮かぶシャボン玉」のようなイメージが最初にあっただけで、あえて意図的に、手を動かす中で直感的に掴んだものを作品に落とし込んでいきたいと考えました。

スケッチという、自分の中で慣れ親しんだ工程を省くことで、いつもの自分の能力の範疇から脱することができるというか、作品をつくっているのは自分とチームのメンバーですが、自分の中にもう一人客観的な自分がいて、まるで他人事のようにそれを冷静に傍観しているような感覚があるんです。先に答えがあってつくりはじめると、だいたいその答えという的へと進んでしまうんですが、捉えどころのないものや、自分でもわかっていないものに取り組むことで、その自分の中の模範解答が裏切られる感覚を味わえる。それが楽しいですね。

お仕事クエスチョン

Q.なくてはならない仕事道具はありますか?

正直あまりこだわりはなくて、尊敬する原デザイン研究所の先輩方が使っていたという理由だけで使いはじめたこのモレスキンの手帳は、同じものを使い続けていま20冊目ぐらいです。ドット方眼タイプが好きですね。アクソメ図を書くのに描きやすいですし、文字も位置を揃えて整頓して書けるところが好きで。

モレスキンのノートとペンてる

いつも使っているペンは、会社で支給してもらえる「ペンてる」の青色と赤色です。勤めている日本デザインセンターには文房具室みたいな場所があって、ペンがなくなると毎回同じものを取りに行きます。ここ3年くらい使っていますね。私のこだわりで使いはじめたわけではないんですが、ペンの角度を立てても倒しても描きやすいですし、いつも使うのでインクが長期間しぶとく出続けるのが助かります。

モレスキンのノートとペンてる

Q.あなたの仕事場とそのこだわりについて教えてください。

仕事部屋には、素材を入れている棚があり、コルクとかMDF、布、糸など、すぐに出して触れるように、種類ごとにまとめています。私とスタッフにとってはどこに何があるかが明確にわかっているのですが、三澤デザイン研究室のスペースは見た目は混沌としているので、他の人たちからすると散らかっていると思われているかもしれません……(笑)。私としては、いろんな部品がまわりに溢れている方が、頭が柔らかくなってアイデアが浮かび易いんです。

Q.クリエイティブな仕事をする上で、大切にしている日課はありますか?

クライアントワークで忙しい時はなかなかできないですが、これからも断続的に実験や研究活動を続けていきたいですね。いまはクライアントワークと実験プロジェクトの二軸という意識は拭えませんが、できれば実験でやっていることの延長が仕事とくっ付いていくとといいなと思っています。実験と研究は未来を見据えての取り組みですから。それぞれが合わさったり交わる時がくるのを楽しみに活動を続けています。

Q.アイデアが浮かぶためにしていることはありますか?

過去の試作模型や、変なオブジェクトを並べた棚を設けているのですが、そういったものを愛でながらぼーっと眺めているだけでも、アイデアが広がったりしますね。

あなたのクリエイターの「わ」

◯影響を受けたデザイナーやクリエイター

学生時代は建築がとても好きで、安藤忠雄氏や妹島和世氏の作品を観に一人旅に出かけたり、友だち3人でアメリカに建築旅行へ出かけて、フランク・ロイド・ライト氏の落水荘やグッゲンハイム美術館を観に行きましたね。

建築家は、建築のことだけを考えるのではなくて、そこで使われる椅子などのインテリアや、建物の中での人の暮らしや生活についても考えていたり、都市や環境、人の流れや社会の仕組みなど、全体の関わりを意識して建築を考えています。学生時代から、そんな分野を横断するような造形的思考に関心があり、それは、デザインにも通じることであり、私が大事にしたい視点です。

◯ご紹介したいクリエイター

三澤遥さんにご紹介いただくクリエイターは、武井祥平さんです。

武井さんとは、TAKT projectの吉泉聡さんにご紹介いただいて以来の仲です。「動紙」や「続々」のプロジェクトで機械デザインを担当いただきました。最近会社を引っ越されて、大きなビル一棟を借りてオフィスにされていたり、今後どんな活動をされるんだろうと気になる存在です。

◯武井さんへメッセージ

武井さんは、実に多様なクライアントやアーティスト、デザイナーたちと繋がっているハブのような人です。他の人にはない思考や姿勢を持った、オンリーワンの存在だと思っています。

これからは、アーティストとしての作家活動も意欲的にされていくとお話をされてましたが、最終的にどういった場所にたどり着くことをイメージして日々のプロジェクトに取り組んでいますか?

次回のクリエイターの「わ」は、武井祥平さんにお話をお聞きします。

タイトル画像:金田遼平 聞き手:堀合俊博(JDN)

三澤遥

三澤遥

1982年群馬県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、デザインオフィスnendoを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。ものごとの奥に潜む原理を観察し、そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。
主な仕事に、水中環境をあらたな風景に再構築した「waterscape」、飛行する紙のかたちを研究する「散華プロジェクト」、takeo paper show 2018「precision」への出品作「動紙」、上野動物園の知られざる魅力をビジュアル化した「UENO PLANET」、ロゴの自在な展開性を追究したKITTEやTOKYO BIG SIGHTのVIがある。著書に『waterscape』(出版:X-Knowledge)。
https://misawa.ndc.co.jp/