S5 Studios(田渕将吾 セルフプロモーションサイト)

デザインコンセプトは「自分らしさの可視化」

アートディレクター・インタラクションデザイナー田渕将吾さんのセルフプロモーションサイト「S5 Studios」が2020年10月にリニューアル公開され、国内外のWebデザインのアワードやデジタルデザインのメディアで続々と紹介されています。

Webのインタラクションやインターフェースのデザイン、動画・スチール・イラストのアートディレクション、さらにはフロントエンドエンジニアリングまで手がける田渕さん。制作のかたわら、通算7,000以上のハイクオリティなWebサイトをキュレーションする、Webデザイナーのためのギャラリーサイト「S5-Style」の運営も行っています。

田渕さんに、今回のサイトリニューアルにあたってのコンセプトや特徴についてお伺いしました。

■プロジェクトの背景・課題

社会人になって15年が経ち、これまでWebデザインをはじめとする映像演出やインスタレーションなど、さまざまなデザインに携わらせていただいてきました。携わったお仕事はポートフォリオサイトに整理して公開していましたが、ただ整理するだけでなく、サイトそのものも自分のつくった作品のひとつだと捉え、コンセプトやデザインをしっかり考えた上でサイトを公開していました。

ただ、世の中の技術の進歩がとても早いこともあり、ポートフォリオサイトを公開してから4年が過ぎたころから技術面や表現面において後れをとってきていると感じはじめ、それに自分自身の表現したいコンセプトとも徐々に差異が出てきていたので、リニューアルを検討することにしました。

さらに成し遂げたい目的として、僕という人間を知ってもらうこと、僕の得意とするデザインに興味をもってもらうこと、そして、僕と一緒に何かしたいと思ってくれた人と繋がることを考慮し、1年の制作期間を経てリニューアルにいたりました。

■コンセプト

まず、自分らしい表現とはどんなテイストであるべきかを改めて考えてみることにしました。得意なジャンルもあり、好きな表現もあります。最近よく見るトレンドのデザインも好きですし、昔ながらの安定したデザインも好きです。ただ、どれか一つのテイストに絞ることにどうしても納得感がないまましばらく考える日々が続きました。

たくさんの方向性を考えているうちに、ふと、いままで経験してきたことをそのまま可視化することができればそれが自分らしさに繋がるのではないか?という思いが浮かびました。デザイナーは新しい仕事をするにたびに頭の中にある知識や経験の引き出しをあけて制作に取り組んでいるものです。そこで、僕の頭の中をサイトの舞台とし、僕の引き出しを観てまわってもらうような世界観をデザインのコンセプトにしようと考えました。

サイトを開くと粒子が漂う暗い空間からはじまります。これは、例えるなら抽象的な空間にアイデアの種のようなものが漂っている様子を表現しています。

そしてそこから進むとArtists/Promotion/Branding/Fashion/Societyという世界への入り口に分かれます。ここでもまだ抽象的な異空間のような雰囲気を表現していますが、さらに奥へ潜ることで具体的な事例のサムネイルが出現するようになっています。つまり、サイトの深度によって表現の解像度が鮮明になっていくようなイメージで世界観をつくっています。

■手法・特徴

トレンドでもスタンダードでもない「自分らしいデザイン」をつくることは、とても楽しいものでもあり難しくもあります。

このサイトは空間を移動しているようなデザインです。見てくれた人にとって、どのように体験設計をすればこの空間を移動している設定を理解してもらいやすいか?ということを想像しながらデザインをしなければなりませんでした。

上下左右や奥や手前に非同期で遷移できる体験を実装するために、PixiJSとthree.jsで空間を制御し、GSAPやCSS3で細やかなアニメーションを構築しています。さらに、パソコンのブラウザだけでなくモバイルやタブレットでも閲覧できるように、レスポンシブデザインにすることは難しいところでした。

開発にご尽力いただいたOrunicaの高橋智也さんとは、デザインの意図を説明した資料を作成して意思の疎通を図っていきました。

実際に意思の疎通を図るために使用した、デザインの意図を説明した資料。各ページごとに演出のイメージなど詳細なコメントが入っている。

2020年はコロナ渦となり、作家が作品を発信できる場が限られてしまいました。デザインフェスや個展などの多くのイベントが中止になってしまい、昔よく集まっていたメンバーとも最近はSNSで元気そうだなとLikeボタンを押しあう日々が続いていたり、デザイナー仲間や仕事仲間と新しい交流ができる機会も減ったと感じます。

だからこそ、オンラインでセルフプロモーションすることがとても大切な時代になったような気がします。自身の個性そのものを体現したポートフォリオサイト。それを見てくれた誰かが、実際に会っていないのに僕という人間を知った気になってくれる。2021年は、そんな新しいコミュニケーションの形をつくるのも楽しいかもしれません。

スタッフ

インタラクションディレクター:田渕将吾
Webデザイナー:田渕将吾
テクニカルディレクター:高橋智也(Orunica Inc.)
リードフロントエンドディベロッパー:高橋智也(Orunica Inc.)
フロントエンドディベロッパー:田渕将吾
サウンドデザイナー:nao kakimoto
フォトグラファー(KV):SHIN ISHIKAWA
フォトグラファー(Portrait):KENICHI AIKAWA