同ホテルのブランディング、アートディレクションを担当したのは、株式会社サン・アドの藤田佳子さん。蓄えられた時間を継承するブランドアイデンティティや、細部までのこだわりについてうかがいました。
■背景、課題
九谷焼などの工芸品を扱うギャラリーが所有する、築50年のテナントビルをホテルにコンバージョン。金沢市の繁華街“香林坊”に位置し、古くから街のシンボル的な建築であった。また、近隣には金沢21世紀美術館、兼六園、金沢城跡など各時代の美が集まる特徴的なエリアである。
■コンセプト
コンセプトは「新しい金沢時間を処方する」。香林坊は江戸時代に還俗した僧侶がこの地で蒸溜技術を用いて目薬をつくり、薬商をはじめた歴史的ストーリーを持つ。また「香林」とは古来より漢詩で詠われた美景地区であり、理想郷的な意味を持つ。ステレオタイプな金沢らしさではなく、香林坊という土地の歴史性からコンセプトが着想された。
■手法、特徴
香林坊という土地の解釈から生まれたコンセプトを体現するための世界観にも、この場所ならではの歴史性がうつしだされていたいと考えた。もとの建物そのものがもつ魅力を掘り下げ、建築ファサードとして象徴的なアーチ状のモチーフをブランドアイデンティティに昇華し世界観を構築した。
アーチのモチーフは、内装建築の要所から家具や照明、客室装備品や館内サイン、ビジュアルなど細部にいたるまで落とし込み、手に取るものすべてにもとの建物の歴史があるという一貫したストーリーが体験できるように設計した。既存の古い壁・床の素材も資産として活かし、時の経過におもむきを感じる、簡素な静けさをよしとする、そんな禅思想が宿った美意識にアーチの幾何学的リズムが際立つ空間を目指した。
ロゴタイプは美の集積地である香林坊の特徴を表現すべく、文字を美しく表現するために生まれたとされる「書」がいいと考え、書家・寺島響水さんに揮毫を依頼。できあがったロゴタイプは、もともと漢字の「美」から派生したという「み」や「水」の文字が繊細な線の中に潜んでおり、美と水に恵まれたこの地の気配が漂っている。
アーチに切り取られたその先の、香林居で過ごす豊かな時間は、アーティスト・Harriet Lee-Merrionさんのイラストレーションで表現。どこか遠くに存在するであろう秘密めいた理想郷での営みをイメージし、時代、民族、性別など、境界をこえた普遍的な在り方を目指して描かれた。
- スタッフ
CL:西松建設株式会社
プロジェクト統括・施工:西松建設株式会社
事業開発:鬼木光一・中島範子・田端結香・杉山芽衣・武石夏来・大内咲絵
施工:岡田伊知郎・西田幸晴・横田英俊・寺中麻里子
ブランディング(コンセプト開発・アートディレクション)・トータルプロデュース:株式会社サン・アド
PL+PR:土井泉
CD+C:藤村君之
AD+D:藤田佳子
C:本田直之
D:吉岡友希
PR:橋本祐樹・福島匠
コンセプト開発・企画ディレクション・ホテル「香林居」運営:株式会社水星
CD:龍崎翔子
PR:大籠亮介
プロジェクトリーダー:大丸勇気
プロジェクトメンバー:笠井明・篠原彩音・合田澪・清原祥太郎
ディレクター・PR:角田貴広
レストラン「karch」運営:四知堂/塚本美樹・石川歩・竹園司
アート・インテリアスタイリング:sklo/塚本美樹・小川緩奈
建築設計監理:株式会社ユウプラス/由田徹・永田典夫・山田宏実・和田純・伊藤健太郎
建築意匠デザイン・内装設計監理・FFE設計監理:ひとともり一級建築士事務所/長坂純明・田所千絵
ロゴ・サイン筆書:寺島響水
I:Harriet Lee Merrion
P:西谷玖美
九谷焼器:錦山窯
九谷焼サイン:丸谷牧子
香林居 Eau de vie:mitosaya
照明計画:NEW LIGHT POTTERY
カーテン:ファブリックスケープ
家具:DRiP