小さなブルーオーシャン「ブルーパドル」を探して、佐藤ねじが目指す狭いようで意外と広い世界

小さなブルーオーシャン「ブルーパドル」を探して、佐藤ねじが目指す狭いようで意外と広い世界

面白法人カヤックから佐藤ねじさん(以下、ねじさん)が独立……Web界隈というかデジタル業界が、そのニュースでちょっとざわついのたのは7月のことだった。それもそのはず、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri」ではグッドデザイン賞BEST100を、「しゃべる名刺」ではYahoo! Creative Award個人部門グランプリを受賞するなど、これまでも数々の賞を獲得し、カヤックの「面白(おもしろ)」の部分を伝えてきた存在だからだ。ねじさんの表現の真髄は“スキマ”の探求。空いている土俵で勝負するという考え方のもと、Webやアプリ、デバイスの領域で作品づくりをおこなってきた。

新しいデジタル技術を使いつつも、どこかユーモラスなアウトプットで注目を集めてきたねじさんが、「kocri」をはじめ「ダンボッコ」や「2020 ふつうの家展」など、数多くの仕事を共にしてきたディレクターの深津康幸さんと立ち上げたのが、「株式会社ブルーパドル(Blue Puddle inc.)」だ。「水たまり」という意味の「ブルーパドル」、小さなブルーオーシャン、つまりブルーパドルを見つけていくという実に“らしい”社名だと思う。個人的には英表記にしたときのリズム感もイイなあと思った。

ちなみに、「kocri」のリリース前にねじさんや深津さんにインタビューを行っているので、こちらも合わせて読んでほしい。

【関連記事】 教育現場にもイノベーションの波、ハイブリッド黒板アプリ「Kocri」

ここで「ブルーパドル」設立後に公開された、ねじさんの新しい作品「Park Pen」を紹介したい。「Park Pen」は、公園に落ちていた枝を太さ順に分類してパッケージデザインした、書いたら消せる公園専用ペンだ。

公園専用のペン「Park Pen」

公園専用のペン「Park Pen」

 公園に落ちていた枝を2~15mmの太さ順にまとめ、子供が好きな太さを選べる

公園に落ちていた枝を2~15mmの太さ順にまとめ、子供が好きな太さを選べる

公園で子どもたちが土に落書きする時、自分好みのちょうどいい具合の枝を探して使う。つまり、それは「公園専用のペン」と言い換えられるのでは?という発想からスタートし、「もしそれが太さ順に整理されて、まるで文房具屋さんのペンのように パッケージされて並んでいたら、楽しいかもしれない」そんな妄想からつくられたものだ。 公園に落ちていた枝を、2~15mmの太さ順にまとめ、まるで商品のようにパッケージデザインされた袋の中に入れて並べ、子供が好きな太さを選べるようにしている。

太さを選ぶというのはペン先を選ぶことよりも、鉛筆の硬軟を選ぶことに近いのかもなあとも感じた。2Hと4Bだと表現できる線の圧が違う感覚というか。

parkpen_5

しかし、この「Park Pen」に限らず感じるのは、いわゆる“とんち”とも違う気負わない“ユーモア”。せっかくの機会なので「ブルーパドル」がこれから目指すところを少し聞いてみた。

佐藤ねじさん(以下、ねじ):「Park Pen」自体はまあコレ以上のことはないんですけど(笑)。いままでは平日の月曜日から金曜日まで仕事、家族サービスをしつつ土曜日の寝るまでの時間が、作品をつくる時間でパキっとわかれていました。お金の発生するしないは関係なく、「これがあったらおもしろい」の量を増やしていきたかったというのが本音です。死ぬまでそういうのを何個つくれるかわからないし。カヤックでの仕事はすごい楽しかったんですけど、もうちょっと新しいものをつくることに特化できるほうがいい、そう思ったのが独立した理由ですね。

ブルーパドルのメンバー。左から、深津康幸さん(プロデューサー)、佐藤ねじさん(アートディレクター/プランナー)、橋本大和さん(エンジニア)

ブルーパドルのメンバー。左から、深津康幸さん(プロデューサー)、佐藤ねじさん(アートディレクター/プランナー)、橋本大和さん(エンジニア)

深津康幸(以下、深津):いずれはカヤックを辞めるだろうと思ってはいたけど、自分ひとりで独立っていうのは考えてませんでしたね。ただ、カヤックで仕事をしたなかで、“よかった仕事”はねじとやったものが多かったので、「いいものづくりができるなあ」というのはありましたね。「ブルーパドル」という言葉は以前からねじが使っていたものですけど、一緒にやってきた仕事を振り返ると「ブルーパドル」的な考え方に即しているものが多いので、社名としてもしっくりきています

ねじ:これから2020年に向けてデジタル業界は忙しくなるだろうから、そこで絶対に空く場所があります。ある一定以上の技術のクオリティを持っている、第一線の人たちがやるべき仕事はあると思うんですけど、そこをみんなで奪い合ってしまうと東京一極集中になってしまう。そのときに日本全体のプレゼンテーションとして、ほかのエリアも盛り上げられたらいいなあなんて思っています。

そこで、地方とかローカルにWebで関わっていこうとしている人は少ないです。グラフィックデザインとかプロダクトデザインはもっと歴史が長くて、そういう意味ではそちらのほうがコミュニティとの関わりかたが進んでいる。深津はプロダクトとかインテリアデザインがバックグラウンドで、僕はグラフィックがバックグラウンド、元はそっち側の人間だからデジタルデジタルしたものではない提案もできるんですよ。

まちの蕎麦屋に対して先端のテクノロジーを注ぎ込む人はいないけど、それを実現するとどんな世界があるのか?と考えるんですよね。とはいっても、数十万円の予算しかないのに、400万円かけてやるっていうのはありえないので、色々なUIのことを考えながらも蕎麦屋らしさを活かしていく、そういうことに興味があるんですね。ここを更新するとまた世界が変わると思います。だから、いわゆる「地域系」のことをデザインしている人たちと、またキーワードが少し違うかなと。地域を応援することだけが目指していることじゃないので、「なにをやる会社ですか?」と聞かれたら、「ブルーパドルをいっぱい見つけて提示する会社です」と答えています。

深津:テクノロジーが行き届いていない蕎麦屋とかマッサージ屋とかのジャンルがあるとしたら、もうひとつは“人”だと思うんですよね。グラッフィックデザイナーやプロダクトデザイナー、職人さんと、テクノロジーのパートナーになれるかもしれないと思います。

ねじ:だから「ブルーパドル」の範囲は狭いようでけっこう広くて、結局はなにかちょっとした新しさを注入していきたいんです。「面白法人」って言ってるのと考え方は近くて、「面白」の定義をもう少し絞った感じ。僕らの中に「面白」の部分はけっこう生きている。

自社サイトの制作まっ最中のプルーパドル。ティザーサイトで制作スケジュールを公開中(9月21日現在)

自社サイトの制作まっ最中のプルーパドル。ティザーサイトで制作スケジュールを公開中(9月21日現在)

現在、自社サイトの制作まっ最中のプルーパドル、いかにもそれらしいティザーサイトをつくるのではなく、いっそ制作スケジュールを公開してしまえというこの発想!このセンスに期待しないわけにはいかないでしょ?

瀬尾陽(JDN編集部)

ブルーパドル
http://blue-puddle.com/