中庭のあるオフィス

「中庭」という「余白」をつくり、コミュニケーション空間のあり方を提案

デザインコンセプト
担当:小野寺匠吾建築設計事務所+岡田宰/HANNA INC.

東京にある広告制作会社のオフィス移転計画。施主は数々のグループ会社や部署を抱え、案件やクライアントによってさまざまなコラボレーションをしながら作品をつくり上げている。しかし各所に点在するオフィス同士では部署間のコミュニケーションなどが取りづらく、プロダクションのプロセスに少なからず悪影響をおよぼしていた。

そういった問題を解決するために、今まで違う場所で働いていた営業・ディレクション・プロデュースといった3つの部署を一つの場所にまとめて新しいオフィスをつくることを依頼された。そして、そこでは部署間のコミュニケーションが活発となるような「情報の交差点」となることはもちろん、「企業の新しいフラッグシップ」とすることが求められた。

働き方や抱えるクライアントが違う部署間で、化学反応が生まれるような質の高い交流を生むにはどうすれば良いか。760m2という広い執務空間と限られた予算の中で、コストコントロールをしながら最小限の操作で最大の効果を発揮するにはどうすれば良いか。それらを解決するために必要機能・予条件を整理し、合理的に配置し直すことで、ミニマルな執務空間の中心に豊かな“余白”を生み出した。この空虚な空間について施主と共にさまざまな使い方を検討している中で、この“余白”は“中庭”と呼ばれることになった。

「中庭のあるオフィス」の中庭からの画像

中庭

従業員は出勤するときも外出するときもこの“中庭”を通る。外部からのゲストが来て打ち合わせ室に入るときも、“中庭”を経由する。『中庭』はすべての動線の中心となり、仕事をしたり、打ち合わせをしたり、くつろいだり、あらゆる使い方に対して柔軟な場所だ。そしてその空間の使い方は使い手によって成長していく。

この“中庭”はインテリアの提案でありながら、建築的にデザインを組み立てることで、内と外の関係やシークエンス、光の写り込み、変化などを感じることが可能になった。“中庭”を取り囲む壁は、アノニマスな執務空間とは対照的に、ステンレス鏡面加工の波板という建築の外装材によって、本来の中庭的な機能を演出しつつ、そこを利用する各部署の人々や家具、植栽を写り込ませ、光を拡散して広がりを感じさせている。

「中庭のあるオフィス」ステンレス鏡面加工の波板

ステンレス鏡面加工の波板

“中庭”を取り囲む部屋やトンネル、小窓など随所に意図的に配置された開口部によって、視線の抜けによる広がりや機能の多様性を感じたり、向こう側で活動する同僚の気配を感じることで積極的な交流を誘発している。

「中庭のあるオフィス 」部屋からの風景画像

執務室からの風景

このようなオフィス内におけるコミュニケーション空間のあり方が、今では必ずしも当たり前ではなくなった、“同じ空間で働く”という価値・可能性を問い直し、新たな時代のオフィスでの働き方・あり方へと繋がるのではないかと考えている。また、こうした特定の用途を持たない“余白”が、使い手に主体性を与え、結果的に活発な議論やアイデア、コミュニケーションが生まれる空間へと成長し、企業自体の成長へと繋がっていくことを期待している。

所在地 東京都港区三田1-4-1
設計 小野寺匠吾建築設計事務所+岡田宰/HANNA INC.
延床面積 760m2
開業日 2018年3月
撮影 Gottingham