ゴッホ美術館に新しいエントランスがオープン、12万5千本のひまわりを使った迷路園もお披露目

ゴッホ美術館に新しいエントランスがオープン、12万5千本のひまわりを使った迷路園もお披露目

大幅なお色直し、待望の新しいエントランス

2015年9月5日、アムステルダムのゴッホ美術館に新しいエントランスがオープンした。それまで敷地の北側にあったエントランスを、真逆のミュージアム広場側に移築するという大幅なお色直しだ。

2014年4月16日の着工から約1年半の工期を経て、総工費2000万ユーロ(約28億円)を投じた拡張工事が完了した。オープニングには、ヴィンセント・ファン・ゴッホの没後125年を記念して、12万5千本のひまわりを使った迷路園が設置された。

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ひまわりの迷路園の前で取材に応じるアクセル・ルーヘル館長/Photo: Jorrit Lousberg

新しいエントランスはゴッホ美術館にとって待望のプロジェクトだった。増築面積は800m2で、ゆとりある空間での来館者サービスが可能になり、従来より大きな規模のイベントやパーティーにも対応できる。アクセル・ルーヘル館長はさらに、「エントランスを移設したことにより、ミュージアム広場に隣接するアムステルダム市立美術館や、アムステルダム国立美術館との調和が築かれた」と喜びを語っている。

ゴッホ美術館は、2015年を「ファン・ゴッホ年」と銘打ち、見応えのある展覧会を開催している。5月20日には、ゴッホの手紙と現代アーティストの作品を引き合わせる『When I Give, I Give Myself』展が、9月25日には、同時代を生きた二人の画家に光をあてる『ムンク:ファン・ゴッホ』展が幕を開けた。ヨーロッパ各地の文化施設でも、特別展やイベントでファン・ゴッホ年を祝福している。

自然光がふりそそぐ開放的なアトリウム

ゴッホやゴーギャン、ロートレックらの作品を所蔵するゴッホ美術館は、1973年に開館した。直線を基調とした新造形主義建築の本館は、「デ・ステイル」を代表するオランダ人建築家ヘリット・リートフェルト氏の遺作だ。1999年に増築された新館は黒川紀章氏の作品で、本館とは対照的な曲線のフォルムで構成されている。グローバルスタンダードと文化のアイデンティティを共生させる「アブストラクト・シンボリズム」を追求した黒川氏は、屋根や壁の軸線をずらして非対称性を創出したり、水を張ったサンクンガーデンで“間”を演出したりと、日本の美意識を表現した。

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左から順に新館(黒川紀章、1999年)、新しいエントランス(ハンス・ファン・ヘーウェイク、2015年)、本館(ヘリット・リートフェルト、1973年)/Photo: Jan-Kees Steenman

新しいエントランスが増築されたのは、このサンクンガーデンがあった地下部分だ。黒川紀章建築都市設計事務所がプライマリーデザインを提案し、オランダ人建築家ハンス・ファン・ヘーウェイク氏が最終案を完成させた。

ゴッホ美術館が「最先端のガラスの建造物」と喧伝するエントランスは、自然光がふりそそぐ開放的なアトリウムだ。冷間曲げ加工を施した650㎡のガラスで覆われ、上部には12mのガラスの梁が渡されている。透明な建物に足を踏み入れ、吸い込まれるようにガラスの階段を下ると、インフォメーションやミュージアムショップのあるホールが広がる。本館の常設展と、新館の企画展をつなぐ動線も改善された。

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エントランスホール内観/Photo: Jan-Kees Steenman

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エントランス周辺は賑やかなミュージアム広場/Photo: Jan-Kees Steenman

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本館は設備や内装の修復工事を経て、ゴッホ生誕160周年にあたる2013年にリニューアルオープン/Photo: Jan-Kees Steenman

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本館内観/Photo: Jan-Kees Steenman

都市再生とメタボリズム建築

思想家でもあった黒川氏は、社会の変化に合わせて、都市や建築も新陳代謝をしていくべきだというメタボリズムの思想を提唱した。有機的な生命を礎にする思想は、近代の合理主義や西洋的二元論へのアンチテーゼだ。歴史的建造物の保存か、それとも都市開発か、と往々にして相反する二つのベクトルが、メタボリズム建築においては共生し得るのだ。

オランダのゴッホ美術館もまた、機能的なガラスのエントランスと共に生まれ変わり、アムステルダムという都市のなかで新陳代謝を続けている。

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半月だった新館が丸く満ちた満月になったような有機的なフォルム/Photo: Jan-Kees Steenman

ゴッホ美術館
http://www.vangoghmuseum.nl/

文:テメル 華代
1977年山形県生まれ。イラストレーター。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。アムステルダム・ワッカース美術アカデミー卒業。2001年よりオランダに在住し、絵画やイラスト、絵本の制作を行っている。