AIと人間の創造性を探り、未来を開く―「台湾デザインウィーク2024」現地レポート(2)

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Photo:台湾デザイン研究院

台湾のデザインを俯瞰する―台湾デザイン研究院の事例

台湾デザインウィーク2024の実施運営をおこなった台湾デザイン研究院は、デザインを社会に広めるプラットフォームとして機能している。主な活動には、イベントの開催のほかデザイン人材の育成や企業とデザイナーのマッチング、デザインアワードの運営、公共・産業・社会デザインプロジェクトの推進などがある。

同院のChi-Yi Chang院長に、台湾デザインウィークのテーマ設定の背景やAI活用の推進について、改めてうかがった。

ポートレート

台湾デザイン研究院 Chi-Yi Chang院長 Photo:台湾デザイン研究院

「いま、台湾デザイン研究院では大きなプロジェクトをいくつか進行しています。ひとつは、デザインを通じて台湾の産業界と社会、政府機関の発展を進めるクロスボーダーイノベーションプロジェクト。特に公共施設の発展をAIによって推し進めることを重大項目としています。

もう一つ大きなものが、デザインとテクノロジーの連携により社会の発展を推し進めるプロジェクト。いまデザインに大きな影響を与えているのは、やはりAIの存在です。台湾はAI先進国としてさまざまなテクノロジーを発表していますが、このテクノロジーの応用によって、台湾社会の発展をより効率的に進めたいというのが私たちの考えです。

台湾デザインウィークはその年の最も重要なテーマに注目するため、2024年はテーマを『The Gateway』に定めました。展示を通してAIと人の連携における可能性を探求しようというのが本イベントの目標です」

デザイン×テクノロジーによる社会変革を推し進める同院。プロジェクトを進めるなかで感じる課題について質問すると、以下の答えが返ってきた。

「新しいテクノロジーとデザインを公的な場所に導入することはとても難しいです。政府は堅固なシステムのうえにつくられていて、失敗を許さず、安定を求めます。そのため、最も時間を要するのはデザイン自体ではなく政府の人々を説得すること。組織というのは標準化された流れを持ち、“正しい答え”を求める傾向がありますが、世界は変化していきますし、社会問題も変化していきます。

私たちが考えているのは、デザインを通じて変化する社会問題への答えを出すこと。とくにデザインを『モデル化』することで、政府の要請を満たしつつ、社会問題も解決することができます。あとはいろいろな道の未来に向けてみんながどのようにコンセンサスを生み出すか、そこに時間をかけています」

リデザインされたシャトルバスのイメージ画像

長距離シャトルバスのブランドデザイン、内装やサインデザインを刷新するプロジェクト 画像:台湾デザイン研究院

地下鉄駅構内の写真

古くなった地下鉄のThe Zhongshan(中山)駅を改装するプロジェクト。いずれもモデル化され、活用できるようにデザインされた Photo:台湾デザイン研究院

また、2024年末に公表したばかりだというデザイナー向けの7つのAIツールが利用できるサイトを紹介いただいた。

■「Design R&D Lab

サイトキャプチャ

7つのAIツールは上記の「Design R&D Lab」(TDRIデザイン研究開発ラボ)公式サイトから利用可能

「一般企業や民間デザイナーに公表しているサイトで、製品データの分析ツールや製品のユーザー調査を効率化するツール、潜在的な市場やトレンド予測をおこなうツールなども含まれています。これらはデザイナー向けの専門的なもので、すでにあるさまざまなAIツールをもとに2年かけて開発しました」

7つのツールを活用することで、デザイナーやプロジェクトマネージャーはトレンドを素早く調査し、効率的にターゲットの分析や資料作成をおこなうことができるという。

日本では2024年12月26日に政府における「AI戦略本部」の設置が発表されたばかりで、AIの調達・利用のガイドラインの整備はこれから進むだろう。公的機関がAIや新しいデザインの導入に慎重でコンセンサスを生むのに時間がかかるという課題は、台湾と重なるところがありそうだ。

ゴールデンピンデザインアワード2024と受賞作品展

ここからは、台湾デザインウィーク2024のメイン会場がある文化施設・松山文化創意園区で開催中の「ゴールデンピンデザインアワード2024展」(~2025年4月6日まで)と、デザインウィーク期間中に実施された同アワードの授賞式の様子を紹介する。

ゴールデンピンデザインアワード2024授賞式のステージ

ゴールデンピンデザインアワード2024授賞式 Photo:台湾デザイン研究院

ゴールデンピンデザインアワードは台湾を代表するデザイン賞で、2014年以降は台湾だけでなく世界中から優れたデザインを募集し、近年では外国からの応募が全体の約半数を占める国際的な賞だ。

2024年は、4つのカテゴリーで642の受賞作品がゴールデンピンデザインマークを授与され、このうち138作品がベストデザイン賞の最終候補に選出。最終的に、プロダクトデザイン部門で10作品、コミュニケーションデザイン部門で7作品、空間デザイン部門で10作品、統合デザイン部門で5作品の、計32作品のベストデザイン賞が決定した。

日本からは以下の6作品が受賞している。

・廃棄された北海道のホタテ貝殻からつくられた 安全ヘルメット「SHELLMET」(TBWA/HAKUHODO株式会社、quantum株式会社)
・台湾の製造業と日本の職人技を融合させた「Chiritori X Houki 2.0」(Chi Design)
・「鹿島田保育園」(TERRAIN Architects)
・羽田空港近くの「公園公衆トイレの再定義」プロジェクト(小笠原正豊建築設計事務所)
・土壌再生を進める「有機肥料『YAKUZEN』と地産地消の堆肥システム」(金沢バイオ研究所)
・聴覚障がい者向けに開発したバリアフリーコミュニケーションアプリ「YYSystem」(アイシン株式会社)

ステージ上で賞を受け取る受賞者たち

聴覚障がい者向けアプリ「YYSystem」を開発したアイシン株式会社のベストデザイン賞受賞の様子 Photo:台湾デザイン研究院

また、「ゴールデンピンデザインアワード2024展」では、台湾、中国、香港、マカオ、米国、日本、英国、タイ、ポーランド、シンガポール、マレーシア、フィリピンの12の国と地域から集まった受賞作品を紹介している。

会場を案内するEric Yu氏

デザインウィークで共同キュレーターを務めたEric Yu氏。彼が主任建築家兼デザインディレクターを務めるデザインスタジオ「Atelier SUPERB」がキュレーションを担当

展示室内観

手前に展示されているのは受賞作品の「Chiritori X Houki 2.0」

受賞作品のひとつ「Chiritori X Houki 2.0」は、台湾出身で日本を拠点に活動するデザイナー・羅琪(Chi Lo)氏による、ほうきとちりとりの製品。日本の伝統工芸の技術を用い、生活空間に自然と美しく溶け込むデザインとなっている。

また、以前JDNの記事内でも紹介した安全ヘルメット「SHELLMET」は破砕された貝殻からつくられており、製造過程のCO2排出量を削減、何度も再利用可能なサステナブルなデザイン。ベストデザイン賞の32作品中6作品が日本からの応募であることからも、台湾での日本デザインの注目度の高さがうかがえた授賞式と展示であった。

受賞作の展示風景

安全ヘルメットの「SHELLMET」

展示会場は「デザインの基礎」「アドボカシー・ピボット」「テック・フロンティア」「ライフスタイルの拡張」「ローカル・エコー」「マテリアルの探求」の6つのエリアに分けられ、それぞれのテーマに沿って什器や空間がデザインされた。

展示室内観

「ローカル・エコー」「マテリアルの探求」の展示室 Photo:台湾デザイン研究院

展示室内観

「デザインの基盤」「アドボカシーのピボット」の展示室 Photo:台湾デザイン研究院

展示室内観

「テクノロジーのフロンティア」「ライフスタイルの拡張」の展示室 Photo:台湾デザイン研究院

デザインで世界とつながる台湾

2025年には、世界的なデザイン研究団体「国際デザイン学会連合(IASDR)」の台湾での年次会議の開催が決定している。「台湾デザインウィーク2024」はその前哨戦としての役割を持ち、展示会のほかに実施された講演会やフォーラムでは釜山デザインセンターやポーランドなど、世界のデザインコミュニティとの対話が積極的におこなわれた。

デザインによる産業の発展、国際連携を力強く推し進める台湾の動向に今後も注目したい。

取材・執筆:萩原あとり(JDN)