2024年12月7日から15日までの9日間、台湾・台北で「台湾デザインウィーク2024(TDW2024)」 が開催された。2023年の初開催時には、台湾のデザイン産業の現状と可能性を内外に発信した同イベント。第2回目の開催となる今回は「AI」をテーマに掲げ、デザイナーに限らず幅広い領域におけるAI活用の現在地を発表した。
主催は、産業の発展を支えるソフト・パワーとしてのデザインを重要視する台湾政府機関の経済部産業発展署。 実施運営は官民ファンドの財団法人台湾デザイン研究院(TDRI)が担当した。デザインとAIテクノロジーの連携によって社会の発展を推し進めたい台湾は、いまだ議論の絶えないAI活用とクリエイティビティの問題に、どのようにアプローチするのか。現地の様子をレポートする。
AIの未来へと通じる、発展的・実験的な入口
「The Gateway」と名付けられたメイン会場は“廊下”のような構成で、展示内容は大きく「デザイン」「教育」「産業」の3分野に分けられた。廊下の両側に、3分野の未来へと通じる入口=The Gatewayが並んでいるイメージだ。

メイン会場
出展者はデザイナーに限らず大学教授や学生、インフルエンサー、IT企業、メーカーなど異なるフィールドから集められ、いずれも「AIを発展的・実験的に用いているかどうか」が選定の基準となった。
また、メイン会場では「AIによる作品」の展示ではなく、「AIを用いたデザインの過程」を展示すること、そして「AIがいかに産業に影響を与えるか」に重点を置いて構成が考えられたという。本記事では展示のなかから数点をピックアップして紹介する。
■「Semantic Seeker & Synthetic Storyteller」/Jimmy Wei-Chun Cheng + Studio
MMR
1つ目に紹介するのは、カーネギーメロン大学建築学部で客員助教授を務めるJimmy Wei-Chun ChengとデザインスタジオMMRによるインテリア・ホームデザインにまつわる展示。いくつかの問いに対する答えをタイプライターに入力すると、それに基づいて、その人が好みそうなインテリアのスタイルや素材をAIがテキスト生成によって提案、さらに室内画像が取得されるインスタレーションだ。
機械によるランダム性と人間の感情に対するAIの理解が加わることで、生成された室内イメージにおける作成者とそれを受け取る者との境界は曖昧に。そうして家の在り方を再考することを促すような展示となっていた。

タイプライターの前に大きなモニターが設置され、オンタイムで無数の内装のパターンが映し出される
■「Project Patching」/Dimension Plus
続いて紹介するのは、ニューメディア アートチーム・Dimension Plusによる、AIが持つ文化的バイアスの問題を取り上げた作品。AIは文化の多様性や歴史解釈における理解度が十分でなく、入力された言葉からたびたび誤った、不気味なイメージをつくり出すことがある。そうしたバイアスをなくすために、AIをより正確にトレーニングするのが本作だ。さまざまな地域、文化的背景、経済的グループの参加者からデータを集め、統合し、データベースの多様性の強化を試みる。

モニターには「a pig blood cake」の文字とともに不気味なビジュアルが映し出されている。a pig blood cakeは台湾の料理「豬血糕」を意味するが、実際の料理とは異なるイメージが生成されている
■「VS AI Street Fighting」/Dimension Plus
Dimension Plusによるもうひとつの展示は、対戦型ゲーム機によってAIと人間の創造性を問う作品。参加者は画像生成AIを用い、出題テーマに沿ってテキスト生成画像を作成し、その創造性を競い合う。AIの創造は機械的な単なる模倣なのか、あるいは人間の想像力が組み合わさることで新たな創造性を持つのか。こうしたAIの本質的な問いを一般の人々が参加できるエンターテインメントの一環にしてしまう作品だ。

本来は2台のアーケードゲーム機の作品だが、会場には2台のパソコンと対戦の様子を写したモニターが展示された
教育現場から、学生たちがAI研究の成果を発表
■「過去の現在 VS 現在の未来」 /東海大学クリエイティブデザイン及びアート学院 AI環境デザインプログラム Zhi-Yu Lin
大学でAIとデザインを学ぶ学生による作品も多く展示されていた。台湾の街の風景写真のような本作は、AIがいかに歴史的な記録をもとに台北市の文化的景観を再構築できるかを研究したもの。人々にインタビューをおこなって得た情報も取り入れながら、AIが過去の記憶の断片をつなぎ合わせるように、かつての台北市のイメージを作成。AIを通じて過去と現在を融合させた都市文化を再定義し、都市の未来を想像させる。

AIが描き出した街の風景
■「New Taipei Station: The Digital Nomad’s Playground」/東海大学クリエイティブデザイン及びアート学院 AI環境デザインプログラム Cai-Hui Lin
台北駅の構内を歩きながら撮影した映像をAIに取り込み、AIに台北駅を分析、想像させ、未来的で絶えず変化する風景として生成させた作品。情報社会の断片的かつ速いペースで変化する性質を反映した映像作品となっていた。AIによる空間の解釈を示しながら、将来における現実と仮想空間の統合を探るプロジェクト。

実際の駅構内の映像(左)と、それをもとにAIがイメージした構内の映像が並ぶ
■「Every Building’s OOTD」/東海大学クリエイティブデザイン及びアート学院 AI環境デザインプログラム Yu-Zih Wang
将来はビルのデザインを手がけることが夢だというYu-Zih Wangは、 テキスタイルのパターンやテクスチャを建築デザインに変換する方法を探る研究を展示。AIがテキスタイルのディテールを建築の動的な構造に配置することで、デザインの転換を促している。

AIが生成したビルの外装デザインの一例をモニターで展示
■「Infinite Evolution: Local Mascots」/東海大学クリエイティブデザイン及びアート学院 AI環境デザインプログラム Tzu-Wei Pang
カードゲームのような本作は、AIがGoogleマップのデータに基づいて地域のマスコットデザインを生成し、地域の社会的・文化的変化に応じてマスコットを進化させるという試みを紹介していた。 時間の経過とともに変化することで、その地域の文化とより密接につながりながらシンボルとして機能するようデザインされた。

それぞれの街から生まれたキャラクターたちのカード

伝統的な街のマスコットは寺院を想起させるデザイン、漁業が盛んな村のマスコットは魚料理を想起させるようなデザインとなっていた
産業におけるAI活用事例―交通インフラからインフルエンサーまで
■「Karbon Cobra Smart Streetlight」/LEOTEK
世界30カ国以上の道路インフラに交通運用サービスを提供するLEOTEKは、AIが搭載された街灯を展示した。 AIによって光の強弱を制御することで、公園や山道、海岸沿いの高速道路などの近隣に生息する生き物への光害を軽減するという街灯の提案だ。製造段階では廃棄物や炭素の排出量を最小限に抑えている。交通安全の確保と生物保護を両立させる、やさしい光環境の取り組みが紹介された。

会場には実際の街灯や信号機が展示された
ほかにも、AIソフトウェア開発を通じて医療やヘルスケア領域におけるAI技術の導入を目指す企業や、初心者からデザイナー、専門家までを対象に高品質のAIアプリケーションガイド・実用的なツールを提供する企業、さらに、AIでMVを制作し、 低コストでブランドづくりを成功させた台湾のインフルエンサーの活動などがインタビュー映像で紹介された。

会場では若い年齢層の来場者が展示映像を真剣な様子で視聴していた
キュレーションは台湾で活躍する新進気鋭の3名のデザイナー
今回、展示のキュレーションを任されたのは、 Tsung Yen Hsieh(台湾・東海大学の助教授で建築家)と共同キュレーターのEric Yu(デザインスタジオAtelier SUPERBの主任建築家兼デザインディレクター)、共同キュレーター兼キービジュアルデザイナーのWeijhe Lin(東京藝術大学を卒業、現在はSensory Designのデザインディレクター)の3名。
展示のなかにはAIのポジティブな側面だけではなく、文化的バイアスの問題のようなネガティブな側面に触れるものもあった。こうしたAIが抱える課題について、AIの未来への扉を開こうとする同展のキュレーションを通してどのように捉えたのか、3人にうかがった。

Curator Tsung Yen Hsieh
「確かにAIはデザイナーの脅威にもなりますし、ネガティブな側面もありますが、ポジティブな影響の方が大きいと思っています。それは、『当たり前』を考え直させる機会を与えてくれるということです。例えば、労働者と雇用主の関係、政府と民間の関係など、私たちのなかには歴史的に形成されてきた固定観念がありますが、AIの登場によってそれが覆されることがある。
こうした動きの中で、デザイナーたちは、改めて自分のデザインの仕組みや手法を考え直さなければなりません。そしてそれは、人が持つ『感情』など、人生的な部分をデザインで表現することにつながっていくのではないかと思います」

Co-curator Eric Yu
「AIの進化によってデザインの『オリジナリティ』の定義も変わりつつあります。デザイナーたちはAIを理解し、そして自分たちに何ができるかを改めて考えなければならなくなっています」

Co-curator Weijhe Lin
「私たちはAIの専門家ではなくデザイナーや建築家であり、最初にAIに触れたときには『すごい、速い、パワーがある』と衝撃を受けました。その一方で、AIを使って出来上がった絵や文章はどこか何かに似ている、と感じました。AIはあくまでツールであり、人間が操作するもの。どう賢く利用するかが重要で、今回の展示を通しても、やはり人間の『感情』の部分がクリエイティブにおいて最も大切なのだと感じます」
AIがデザインの現場にもたらす変革は大きく、その反応は良くも悪くもさまざまある。今回の展示は変革のただ中にあり、議論の核ともいえるAIと人間の創造性にフォーカスがあてられた。AIの可能性を押し広げようとする実験的な試みの数々からは、展示のステートメントに 「テクノロジーと人間の創造性の交差点に焦点を当てる」と表現されている通り、AIと人間の二項対立ではなく、人がAIを用いることでうまれる創造性とは何かを再考する機会を与えてくれたように思う。
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