まちづくりの取り組みがアートと建築を楽しむ国際芸術祭に結実。初開催の「前橋国際芸術祭」レポート(2)

まちづくりの取り組みがアートと建築を楽しむ国際芸術祭に結実。初開催の「前橋国際芸術祭」レポート(2)

国内外から多くの作家を招聘。滞在制作を経て完成した新作も

■アーツ前橋

さて、本芸術祭のメイン会場である「アーツ前橋」では、エントランスを入ってすぐのフロアに、無料で観覧できる立体的な建築ガイドブック《MAEBASHI VISIONARY CITY GUIDE 建築の前橋:夢みる都市を歩く》を展開。生糸産業による隆盛や、戦災からの復興、官民連携のまちづくりに取り組む現在と未来の前橋市の姿を、点在する建築やこれから竣工予定のプロジェクトと共に紹介しています。

左は商店街に建つ「Mビル(GRASSA)」「なか又」「つじ半 前橋」、右は「前橋アーケードテラス」の模型

また、建設予定のプロジェクトについても構想段階の建築模型を展示。前ページでも紹介した建設予定地と本展示室を行き来することで、未来の前橋の姿が浮かび上がります。

2028年の完成を目標とする「ばばっかわ Garden Park」の模型

さらに館内では、国内外から集った20組以上の作家らが、夏頃から前橋市内を中心に滞在したり、リサーチやフィールドワークを重ねたりして制作してきた作品が、2フロアにわたって展開されています。ここではいくつかの作品を抜粋してご紹介します。

■ドットアーキテクツ《アーキジム》

《アーキジム》(photo by tatsuki nakata)

大阪・北加賀屋で、もうひとつの社会を実践するための協働スタジオ「コーポ北加賀屋」を拠点に活動する建築家ユニットのドットアーキテクツ。建築設計にとどまらずアートプロジェクトなどさまざまな企画に携わっています。本展では、2026年夏にアーツ前橋で開催された「ぬけみち展」の展示と、ものづくりの技術を体験しつつ「つくる技術とマインドを鍛えるワークショップ《アーキジム》」の成果を再構成し、館内に広場のような場所をつくり出していました。

《アーキジム》展示風景

《アーキジム》展示風景

会期中はここでさまざまなプログラムが開催される予定ですが、芸術祭の初日には、開幕のお祝いと今後の前橋のまちづくりの成功を祈って、前橋鳶(とび)伝統文化保存会「華粋会」のみなさんが労働歌である「木遣り」を唄い上げました。前橋鳶木遣りは前橋市指定重要無形民俗文化財であり、幕末の前橋城再築の鳶職人たちの技芸に由来しています。

■マイク・エーブルソン《こんにゃくの絡み》

《こんにゃくの絡み》(photo by tatsuki nakata)

群馬県は蒟蒻(こんにゃく)芋の生産量で全国シェア90〜97%を誇り、その栽培の歴史は古く室町時代までさかのぼると言います。その蒟蒻が、日本に暮らして25年が経ってもなお不思議だ、とリサーチしたのは、ライフスタイルブランド「POSTALCO」のデザイナーであるマイク・エーブルソンさんです。

《こんにゃくの絡み》(photo by tatsuki nakata)

県内の生産者や農業試験場を訪ね、植物としての生態や成分、栽培方法などを探り、極めて特異な特徴を持った蒟蒻芋から「絡み/Tangles」というキーワードを見出すと、その概念を、ロープなどを用いたオブジェで表現しました。

ネガティブな意味で使われがちな言葉「絡み・絡まる」ですが、世界が複雑化していく今だからこそ、蒟蒻芋特有の繊維構造やその野生的なありようを手がかりに身の回りのものを新しい視点で見つめ直し、その機能や構造を解きほぐしていくことの重要性を示しました。

■山縣良和《Where the story ends – つづく よ つづく– 》

《Where the story ends – つづく よ つづく– 》(photo by tatsuki nakata)

物語性のあるコレクションで知られるファッションブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のデザイナー・山縣良和さんが展開するインスタレーションは、自身の子育てがきっかけで着想したという作品。

2024年に同館で開催された大規模な個展「ここに いても いい/It`s ALright To Be Here」の続編でもあります。さまざまなサイズのおもちゃやマトリョーシカ、動物の剥製、石膏像などが列をなし、館内に点在した風景は、なぜか不思議と懐かしさ、安心感を抱きます。

■レア・エンベリ《声よ、ああ声よ》

《声よ、ああ声よ》ライブドローイングの様子(photo by tatsuki nakata)

セルビア出身で、現在もセルビアと日本を拠点にアーティストとして活動する画家のレア・エンベリさんは、生糸を紡いだ前橋の女性たちの存在や、絹産業が女性たちの手仕事によって支えられてきた歴史に着目。賛同するボランティアの女性たちと、手仕事を通じて育まれてきた集団的なケアや回復の物語について対話を重ねながら、壁画のライブドローイングを実施しました。

■石川直樹《伝次郎への旅》

《伝次郎への旅》(photo by tatsuki nakata)

作品について解説する石川直樹さん

人類学や民俗学的な視点を持ち、辺境から都市までを旅する写真家・石川直樹さんは、日本人で初めてヒマラヤを撮影した写真家・長谷川傳次郎と、日本におけるスキーの草分け的存在であり、赤城山に暮らした猪谷六合雄の交友に着目。石川さんがカシミール、ナンガ・パルバット、赤城山などで撮影した写真やさまざまな史料から、長谷川と猪谷が夢見たというヒマラヤへの想像が巡ります。

■川俣正《Tree Hut Maebashi 2026》

《Tree Hut Maebashi 2026》(photo by tatsuki nakata)

世界各地で、木材や建築廃材などを用いて既存の都市空間や自然環境に適応・介入するサイトスペシフィックなインスタレーションを展開してきた川俣正さん。

この前橋では、芸術祭のはじまりを記念するシンボルとして、馬場川通り沿いの「アーツ前橋」正面のケヤキに1基を現地制作しました。また国道50号沿いの東和銀行本店併設「憩いの広場」では市民と構想した2基を設置しています。前橋の街をめぐりながら、川俣さんの作品もぜひ近くで鑑賞してみてください。

東和銀行本店併設「憩いの広場」に設置された《Tree hut Maebashi workshop No1 2026》《Tree hut Maebashi workshop No2 2026》

会期中に新たな作品の展示もスタート。思わず何度でも訪れたくなる芸術祭に

12月20日までの会期中は週末ごとに、アーティストトークや対話型のダイアローグ・セッション、音楽ライブやギャラリーツアー、映画祭/映像祭など、さまざまなプログラムが予定されています。

また、メディアアーティストの落合陽一さんが手がける映像インスタレーション作品《リキッドユニバース》は、11月下旬頃に完成予定だそう。生成AIと物理世界を融合させ、リアルタイムで映像を生成していく本作の展示が楽しみです。

世界水準の現代アートを地域で享受できる、プラットホームとしての芸術祭づくりを目指しながら、赤城山のふもとにある日常の暮らしの風景や、近代製糸や前橋空襲といった歴史を紐解く。そうして、グローバルなアートの文脈で翻訳・発信するリサーチ型の作品群や、街を巡りながら出会う作品群の鑑賞は、美術館での展覧会とはひと味違う新鮮な体験となるはずです。

都心から、車または新幹線など公共交通機関を利用し、2時間弱で到着できる群馬県前橋市。前橋にもアートにもあまり縁がなかった方こそ、発見と出会いの多いアートトリップにつながるかもしれません。変わり続ける前橋市へぜひ訪れてみては。

第1回前橋国際芸術祭2026
https://maebashi-biennale.com/

取材・文:Naomi 編集:萩原あとり(JDN)