新しい“体験の共有”がユーザーから支持される鍵に、「変わるデザイン/変わる暮らし」

新しい“体験の共有”がユーザーから支持される鍵に、「変わるデザイン/変わる暮らし」
近年のテクノロジーの進化によって、ユーザーに新しい体験を与えてくれるものや、暮らしに心地良さをもたらすものなど、印象に残るさまざまなプロダクトやサービスが生まれている。また、コンセプトを変えずにつくり続けてきたものが、これまでとは少し異なる楽しみ方を獲得するという例もありました。いくつかの製品の提案力から、いまの時代に求めれる「変わるデザイン/変わる暮らし」を考えるヒントを紹介していきます。それぞれの製品の開発担当者や、営業担当者へのインタビューも合わせてご一読を!

グラスサウンドスピーカー LSPX-S1

【インタビュー】目指した機能そのものが上質なデザインに、透きとおる音色をガラスが奏でるスピーカー
https://www.japandesign.ne.jp/interview/lspx-s1/

ソニーの『Life Space UX』シリーズとして、2016年2月に発売された『グラスサウンドスピーカー LSPX-S1(以下、グラスサウンドスピーカー)』は、LEDライトとBluetooth接続によるワイヤレススピーカーを融合させた、これまでにない製品です。

『Life Space UX』シリーズは、モノから考えるのではなく“居住空間”という切り口で家電がどうあるべきかを考えて開発されています。自分のお気に入りの場所で音楽を楽しみたいと思った時に、スピーカーのある場所に移動するのではなく、好きな場所に置いて360度広がる透き通る音色を楽しめるのが特長。

どんな空間にも違和感なく溶け込むシンプルな佇まいは、スピーカーの存在をまったくといっていいほど感じさせません。グラスサウンドスピーカーはその名のとおり、有機ガラスそのものから音を出しています。有機ガラスの底面を下から加振器で叩いてガラス管を震わせて音を出すというアクション自体が、弦を弾いたり打楽器を叩いたりして音を出す仕組みと同じであり、また声帯を震わせて声を出す仕組みと近く、まるですぐそこで人が歌い演奏しているようにリアルに音が聴こえてきます。さらに、LEDのやさしい灯りが極上のリラックス空間を演出してくれます。ソニーとして製品に込めた、新たな価値提案は注目です。

BALMUDA The Toaster

【インタビュー】体験の価値を自分たちなりに正しく企画、「パンをおいしくする」ことにフォーカスしたトースター
https://www.japandesign.ne.jp/interview/balmuda-the-toaster/

家電メーカーのバルミューダが2015年の5月に発売したトースター『BALMUDA The Toaster』には、パンのおいしさを引き出すための5つのモードが搭載されています。トースト、チーズトースト、フランスパン、クロワッサン、クラシック。グラタンやピザ、餅などさまざまな調理が可能です。

おいしく焼くための秘密は、バルミューダ独自のスチームテクノロジーと完璧な温度制御にあります。5000枚(!)にもおよぶ地道なトーストの実験データから、「パンをおいしく焼く」のにポイントとなる3つの温度帯をつきとめたそうです。60℃前後でパンがふっくらふくらみ、160℃前後でメイラード反応という褐色になる変化が起こります。さらに220℃前後で一気に焼き上げることでサクサクの食感に。これはトーストモードの焼き方ですが、チーズトースト、フランスパン、クロワッサン……それぞれ最適な温度帯は異なるので、それぞれに最適なモードが開発されました。

『BALMUDA The Toaster』開発のきっかけは、「毎朝食べているパンがおいしくないんだよなぁ……」というバルミューダ株式会社の寺尾玄代表の何気ないひと言から。香りがよくておいしいパンが毎朝食べられたら幸せな気持ちで1日をスタートできるかもしれない、そんな思いから開発されたトースターは多くのパン好きを魅了しています。

写ルンです

【インタビュー】コンセプトを変えずに新しい楽しまれ方を獲得した、発売30周年を迎えた『写ルンです』のいま
https://www.japandesign.ne.jp/interview/utsurundesu/

デジカメもスマートフォンもなくカメラや写真が特別だった時代。富士フイルムから1986年に発売された『写ルンです』は、多くの人にとって“ファーストカメラ”となる存在でした(筆者にとってもまさにそう)。発売30周年を迎えたいま、再び注目を集めています。

2014年の夏に「重要科学技術史資料」(通称「未来技術遺産」)に初代『写ルンです』登録されたことをきっかけに、多くのメディアに取り上げられたことによって、若いユーザーの反響が少しずつ広がっていきました。撮影したときの独自の淡い質感、そしてすべて撮りきらないと見られないじれったさ、このアナログな感触が若い世代には新鮮に映り、じわじわと人気が拡大していったそうです。

特に2015年から、『写ルンです』で撮影した写真をデータにして、それをInstagramなどのSNSにアップするユーザーが増加。若年層に人気のあるモデルや著名人が『写ルンです』を使ってSNSにアップし、その投稿がたくさんの「いいね!」がつき、それをみた若いファンの方がさらに真似をして広まっていく。ある世代にとっては懐かしを覚える商品が、また別の楽しまれ方をするのがとてもおもしろいですね。

ラジオ局が作る本気のラジオ「Hint(ヒント)」

【インタビュー】ラジオ局が本気でつくった、新しい体験を生む『Hint(=気配)』
https://www.japandesign.ne.jp/interview/hint/

最後に、これから新しい体験をつくっていくかも知れない発売前の製品も紹介します。クラウンドファンディングサイト『CAMPFIRE』で、目標金額を大きく上回る3045万円以上の資金を集め、234%の達成率を記録するプロジェクトとなった「ラジオ局が作る本気のラジオ 『Hint』」。

「カッコいいラジオが欲しい」 。ニッポン放送アナウンサー吉田尚記さんがつぶやいたこの一言から『Hint』はスタートしました。 ニッポン放送、家電ベンチャー企業のCerevo、フィギュア業界をリードするグッドスマイルカンパニー。分野の異なる3社が、改めてラジオというメディアを1から見つめ直し開発を重ねていきました。『radiko』の普及以降、また少し身近になったラジオというメディア。身近な存在だけど、そこにあっても煩わしくない、それはちょっとした“気配”なのではないか……?その“気配”を英訳した『Hint(ヒント)』という名前のラジオは、これまでのラジオとのつきあい方を大きく変えるような、革新的な機能「BLEビーコン」が搭載されています。

放送局がDTMF音(電話のダイヤル音)を発信すると、自動的に情報を『Hint』がキャッチ。受信情報はBLEビーコンを通してスマートフォンへ自動転送されます。気になったアーティストの曲名、ラジオショッピングやグルメ情報、いままではも能動的に検索しないといけなかった情報を、『Hint』があればURLを直接届けられて、タッチするだけで情報にアクセスできる。そういう新しい体験が当たり前になるかも知れません。

今回紹介した製品以外にも、独自の価値を発揮しているモノはいくつもあるのですが、こうしてまとめてみるだけでも、昨今「モノを買う」時の指針のひとつになっているのは、「新しい体験」が鍵になっているのだなあと改めて感じました。

瀬尾陽(JDN編集部)