コンセプトを変えずに新しい楽しまれ方を獲得、発売30周年を迎えた『写ルンです』のいま

コンセプトを変えずに新しい楽しまれ方を獲得、発売30周年を迎えた『写ルンです』のいま
デジカメもスマートフォンもなくカメラや写真が特別だった時代、富士フイルムから1986年に発売された『写ルンです』は多くの人にとって“ファーストカメラ”となる存在だった。誰でもかんたんに写真が撮れる、これは本当に大きな革命だったのかも知れない。発売30周年を迎えた『写ルンです』が再び注目を集めている。撮影したときの独自の淡い質感、そしてすべて撮りきらないと見られないじれったさ、このアナログな感触が若い世代には新鮮に映り、じわじわと人気が拡大していったのだ。コンセプトは変えずに変わり続けてきた『写ルンです』の30年とこれからを、富士フイルム イメージングシステムズ株式会社 営業推進部の築地紀和さんにうかがった。

いま、あえてアナログな感触
30年を迎えた『写ルンです』シリーズ

築地紀和さん(以下、築地):発売から30年を迎えた『写ルンです』は、初代をつくったときに「いつでも、どこでも、だれにでも写真が撮れる」というコンセプトで開発されました。このコンセプト自体はまったく変えていなくて、誰にでも使いやすい商品として30年間販売を続けてきました。

当時はフィルムカメラしかなかった時代で、カメラ自体がすごく高級なものでした。家族の中でもお父さんが撮る役目、カメラはお父さんのものっていう時代です。この「写ルンです」が出たことで、小さいお子さんからカメラの難しい機能を使いこなせない年配の方まで、幅広い層に写真を撮る文化を広げたというのは大きいのかなと思っております。

実際に開発に関わった担当者は、試作機を自分の子どもに使わせてきちんと撮影できるかテストをしています。子どもが撮影してもブレずにきちんと写るかなど、技術的な細かいところも検証して商品化したと聞いております。

「『写ルンです』歴代モデルの一部

『写ルンです』歴代モデルの一部

『写ルンです』は30年間続けてきましたが、販売自体のピークは1997年です。それは『写ルンです』だけではなくて、フィルム全般のピークです。そこから需要自体はどんどん下がっていくんですね。デジタルカメラで良いものがどんどん出はじめた時期で、デジタルカメラの普及にあわせて、フィルム全般の需要が減ってきた状況ですね。

需要自体はずっと落ちてはいたんですけども、残っているからには少しでも長く続けていきたい商品です。つくるのをやめてしまったらそこでもう終わってしまうので。なんとか生産コストを抑えるために泣く泣くやめていったシリーズはやっぱりあります。どうしても需要が下がってしまう時期はあるので、生産コストがかかるものはやめながら長く続けていくことができました。ここ最近になって販売数が増えてきたところです。

8つのレンズで8連写し、8コマを1枚の写真に収める『写ルンですGolf Hi』

8つのレンズで8連写し、8コマを1枚の写真に収める『写ルンですGolf Hi』

弊社の「チェキ」という商品も2000年過ぎにブームになっているんですけど、こうした流れもあって一度は下火になりました。しかし、「チェキ」はここ3~4年で若い方たちを中心に再び火が着きはじめました。私たちもなぜなんだろうと調べていくと、2000年過ぎあたりに物心ついたお子さんは、もう周りにはデジタルカメラとか携帯電話とかどんどん普及しはじめていて、青春時代はそういった商品で過ごしています。

そういった若い世代の方には、逆にアナログな製品を目新しいものに感じているようです。特に10代の方たちは、みんながスマートフォンを持っていて、ふつうにキレイでシャープに写真を撮れるのが当たり前の状況で、そうではない淡い雰囲気に撮れることを新鮮に感じてくれているのかなと思っています。

若い感性ならではの
『写ルンです』の新しい使われ方

築地:『写ルンです』が再び注目を集めたきっかけととしては、2014年の夏に「重要科学技術史資料」に初代『写ルンです』登録されたことが大きいです。「重要科学技術史資料」は、通称「未来技術遺産」といって、国立科学博物館が定めた登録制度により保護される文化財のことで、日本の文化や生活に影響を与え、未来に引き継がれるべき製品などに授与されるものです。

それに登録されたことでメディアに取り上げていただくことが多くなり、若い方たちからレトロな感じがかわいいという反応があり、「どこで売ってるんですか?」とか「いまも売ってるんですか?」といった、問い合わせをいただくことが増えました。特に2015年からなんですけど、「写ルンです」で撮影した写真をデータにして、それをInstagramなどのSNSにアップされる方が増えてきたんですね。

2015年の夏時点で、「♯写ルンです」のハッシュタグをSNSで検索したら2万件あったんです。ハッシュタグが2万件ある商品はなかなかないなあ……と改めて驚きました。ちなみに2016年末時点では10万件くらいになります。この1年強くらいでだんだん増えてきましたね。

30周年記念サイト「写ルンです Life」

30周年記念サイト「写ルンです Life」

その要因としては、若い方たちに人気のあるモデルさんや著名人が『写ルンです』を使ってSNSにアップし、その投稿がたくさんの「いいね!」をもらい、それをみた若いファンの方たちがさらに真似をして広まっていった感じですね。インフルエンサーの影響力は大きいです。

『写ルンです』で撮影すると、当然のことながら現像という工程がありますので、そこから写真をデータにして、データをスマートフォンやPCに取り込むことになります。SNSでアップするには手間ではあるんですけど、やっぱり他人との差別化を図りたい方が多いのかなと。周りがスマートフォンで撮っているなかで、あえて『写ルンです』を使って他の人と違うことをする、そういったニーズがあるように思います。だから、決してスマートフォンから『写ルンです』に切り替わったというわけでななく、シーンによってうまく使い分けている印象です。

あと、「うつるんです」ではなくて、「しゃるんです」と読まれていた方もいらっしゃいました(笑)。ふりがなをふっていないので、そういう風にも読めますよね。30周年記念サイトでインタビューに答えていただいたアーティストの井上苑子さんも、最初は間違って「しゃるんです」って読んでいたそうです。

30周年アニバーサリー
「はじめての、おひさしぶりの写ルンです」

築地:これからも色々な人に使ってもらいたいので、「はじめての、おひさしぶりの写ルンです」というキャッチコピーに私たちの思いをこめました。30周年をお祝いする意味合いで、初代に近いパッケージデザインのアニバーサリー機をつくりました。社内には「いまさら古いものを……」という意見もありました。でも、このパッケージを懐かしく感じてくださる層よりも、逆にこの商品を知らない層に新鮮に映るんじゃないかと考えたからです。

30周年アニバーサリーキット

30周年アニバーサリーキット

4月から5万本の数量限定で販売開始したところ、当初の見込みよりもかなり早く売り切れました。7月1日に30周年を迎えるのでそこまで売れ続ければなと思っていたのが、6月には売り切れてしまったので、慌てて第2弾をつくったところがあります(笑)。第2弾は7月の中旬に販売開始して、こちらも12月には完売しました。

『写ルンです』で撮った写真をデータ化して、SNSでアップしてっていう楽しみ方のひとつとし普及してるんですけど、そこからさらにプリントをするともっとおもしろいよと提案していきたいですね。データ化した後の楽しみ方はまだ伝えきれていない部分がありますので、これからはその部分もどんどん伝えていきたいなと思っております。

富士フイルム イメージングシステムズ株式会社 営業推進部の築地紀和さん

富士フイルム イメージングシステムズ株式会社 営業推進部の築地紀和さん

写ルンです 30thアニバーサリー「写ルンです Life」
http://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/utsurundesu/promotion/lf30/

構成・文:瀬尾陽(JDN編集部)