文化のなかったエリアに新しい食の施設を発信
高宮大輔さん(以下、高宮):JR原宿駅徒歩2分。表参道と竹下通りに抜ける2本の道路につながり、どちらからでもアクセスできる好立地。カスケード原宿(CASCADE HARAJUKU)は、そんなポテンシャルの高い場所に位置しています。ところが、プロジェクト開始前は周辺に目的施設が少なかったため、大通りから一本奥まった場所なので人通りが少ないという現実がありました。ですが、現地を訪れたときにまず感じたのは、環境の利を生かせば新しい文化の発信地となり得るチャンスのある場所ということでした。
クライアントは、当初はオフィスを中心とした施設も検討されていましたが、「単体目的となるオフィスビルや建物ではなく、きちんとコンセプトを立てて、その場所から何かを発信するくらいのインパクトがある施設をつくるべきでは」とお話ししました。クライアントにとって新規事業となりましたが、商業中心の複合施設をあえて提案したところ受け入れていただき、ブランディングやサイン計画なども含めた、企画の段階から関わることになりました。
いびつで高低差のある敷地に“新しい道”と“顔”をつくる
高宮:商業施設は、路面に対してどれだけ“顔”が見えているかで、お客様を引き込む力が変わってきます。しかし今回の敷地は、接道距離に対して奥行きがあり、かつ特徴のかなりある不整形な形状をしていたため、大事な“顔”が狭くなってしまうことが大きな課題でした。さらに、土地の高低差は約4m。表参道側は1階レベル、竹下通り側は地下レベルと分断されていて、「向こうに行きたいのに、スムーズに行けない」というストレスが生まれていました。そこで、設計よりも先に考えたことは、施設の中に“新しい道をつくる”ことです。お客様がゆるりと道を歩いている延長で、いつの間にか施設の敷地内に入ってしまうような道。敷地内に生まれる新しい道にも“顔”をつくることでお客様が集まり、にぎわいを彷彿するようなさまざまなプランを考えました。
安藤数保さん(以下、安藤):設計は、“新しい道”を中心に進められました。1階から地下へ続く大きな階段を降りると、中央にサルスベリの巨木がある中庭があります。そこから、竹下通りへ抜ける道は、テナント専用スペースにもなる通路です。こうして、高低差を生かした道が生まれました。大きな階段はゆるやかに降りてこられるように、そして中庭は3階まで吹き抜けにすることで、見上げるとすべてのテナントの入口、つまり“顔”が見えるようになっています。また、中庭を囲むように各階にはテラスが巡っていますが、これも人々のにぎわいが感じられるようにと設計しました。複雑な形状の敷地という条件のもとで、吹き抜けが課題解決の唯一の方法でしたね。
インテリア、エクステリア、テラスをつないでシームレスな空間に
藤田久数さん(以下、藤田):私たちソラ・アソシエイツが参加したときは、すでに建築のボリュームやおおよその骨格はできていました。建築設計を見たとき、とてもワクワクするものを感じましたね。おもしろい立地、形状、建物、それらをランドスケープとライティングの力でさらに活性化したい。外気に心地よく触れられるような空間に展開できないだろうかと考えました。
塩井弘一さん(以下、塩井):意識したのは、インテリアとエクステリア、テラスをつないで、敷地や施設の内と外をシームレスな関係にすることです。例えば、テラス照明には、ふだんは部屋の中を照らすために使うスタンドタイプを採用しています。これをあえてテラス空間に連続して置くことで、内と外をあいまいにしました。また、吹き抜け部分を中心とした立体的な建物形状を生かすために、吹き抜けの周囲にスタンドライトを配置して、上階へと導く効果も演出しています。
塩井:それから、外気を感じるアイテムとしてグリーンは欠かせません。今回の計画においては、刺激的で人を呼び込むパワーが絶対に必要だと思ったので、植栽選びにはかなりこだわりました。見た人が「なんだこれは!?」と驚いてしまうような樹種であったり、形が変わっていたり、足元にふわふわした植物やもっさりした植物を選んだり……。これほどに多品種でパワーのある植栽計画はなかなか見られないと思います。
高宮:建築だけでいくら頑張ってもいいものには仕上がらないんです。与えられた環境と一体化するランドスケープ、それらを相乗させる照明計画などが組み合わさって、インパクトのある施設ができ上がる。ソラ・アソシエイツさんなしでは成り立たないプロジェクトだったと思います。
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