Vectorworks ベクターワークス活用事例

ブランドから得たインスピレーションを、素直に空間に落とし込むー鬼木デザインスタジオ(1)

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鬼木孝一郎

連載シリーズ「Vectorworks活用事例」では、設計に携わる方々にとって空間をつくる上で欠かせないツール「Vectorworks」をどう工夫して使っているか、お話をうかがってきた。

今回フォーカスするのは、「SHIRO」や「STUDIOUS」などのブランド店舗やマンションのリノベーション、ダンススタジオなどさまざまなジャンルの空間設計を手がける鬼木デザインスタジオ

代表の鬼木孝一郎さんは、ブランドから受けた印象をストレートに空間で表現することに重きを置き、感覚的に自分のイメージを図面に描き込んでいけるVectorworksをラフスケッチ感覚で使っているという。今回、京都の町屋をリノベーションしてつくられたジュエリーショップと、サステナビリティに向き合った照明器具メーカーのギャラリーの事例とともに、設計過程を中心にお話をうかがった。

ブランドの世界観を最大限に引き出す空間づくり

少年時代はイギリスで過ごし、早稲田大学建築学科を卒業後、大手設計事務所である日建設計に入社した鬼木さん。その後、高校からの旧友が代表を務めるnendoへ転職。10年間にわたるnendoでの空間設計の経験を経て、2015年に設立したのが、鬼木デザインスタジオ(以下、ODS)だ。

nendoではブランドの店舗や展示会、インテリアなどの設計を多く担当していました。ありがたいことに、独立後もいろいろなブランドから空間デザインの依頼を継続的にいただいており、これまでにコスメブランドの「SHIRO」やセレクトショップの「STUDIOUS」などの店舗設計を手がけています。

鬼木孝一郎

鬼木孝一郎 早稲田大学大学院卒業後、株式会社日建設計勤務。その後、有限会社nendo入社。10年間チーフディレクターとして国内外の空間デザインを手がける。JCD賞金賞、JID賞大賞など、受賞歴多数。2015年、鬼木デザインスタジオ設立。建築、インテリア、展示会の空間デザインを中心に多方面にて活動。

独立後は、空間設計にとどまらず、プロダクトデザインも積極的におこなっています。店舗に置く家具の設計から、アート作品のようなオブジェなど、新しい挑戦を絶えずおこなうようになりました。ODSには、ブランドの世界観をどのように表現すればいいか悩まれているお客さまからのご依頼が多くあります。だからこそ、解決策を空間に限定せず、さまざまな方法でブランドの魅力を最大限に引き出す提案をしたいと考えています。

京都の町屋を、宝石の魅力輝くジュエリーショップへ

京都に新店舗を出店することになったジュエリーショップ「BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO」。場所は、重要伝統的建造物群保存地区に指定される祇園エリア。伝統的な町屋造りのリノベーションを前提とした出店だ。景観条例により、外観の改修が大きく制限されるなかで、鬼木さんはあるものにインスピレーションを受けたという。

「BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO」は、2つのブランドが入ったジュエリーショップで、1階はルビーやサファイアといったカラーストーンを扱う「BIZOUX(ビズー)」、2階はダイヤモンドを扱う「BRILLIANCE+(ブリリアンス・プラス)」という構造になっています。

BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO

BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO(写真:太田拓実)

(左)カラーストーンを扱う1階「BIZOUX」(右)ダイヤモンドを扱う2階「BRILLIANCE+ KYOTO」(写真:太田拓実)

2ブランドの統一のテーマとして何がふさわしいかと思考を巡らせる中で思い浮かんだのが、「地層」のイメージでした。どんなジュエリーも、もともとは鉱山の中で眠っていた鉱物です。石たちの原点を想起させる空間にすることで、磨かれて唯一無二の輝きを放つ店内のジュエリーが、さらに印象深いものになっていくのではないかと考え、地層をテーマに空間を設計することにしました。

また、今回町屋をリノベーションするということで、せっかくなら日本の古き良き伝統が香るような質感にできればと思いました。

左官材で表現した「地層」のグラデーションへのこだわり

「BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO」の空間設計で鬼木さんが最もこだわったのが、地層らしい質感だ。濃淡の異なる17色もの左官材を調合し、並べることで鮮やかなグラデーションの壁をつくり上げた。そして、一層一層のテクスチャーにも細やかなこだわりが光っている。

上にいくにつれて彩度が上がるようなグラデーションにしたのは、原石がジュエリーへと磨き上げられていく過程を壁全体で表現したかったからです。一色一色の色合いの調整には苦労しましたが、ジュエリーブランドらしいメッセージをデザインに込めることができました。地層らしいテクスチャーを出すために、壁土に砂や砂利などの骨材を混ぜて壁表面を磨き、骨材を露出させる方法を採用しました。

壁の表面を強く磨けば骨材がはっきりと浮かび上がり、優しく磨けば骨材が微かに浮かび上がります。左官職人さんの絶妙な力加減によってつくり出された繊細なグラデーションは、空間全体に自然な揺らぎを加えてくれました。

BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO

下から上へ行くにつれて彩度が明るくなっていくよう17色の左官材をつかって調整したグラデーションの壁。
壁の白く粒立っている層が、骨材が露出した部分(写真:太田拓実)

イメージパース

BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTOの図面

Vectorworksを使って描かれた図面

今回、「BIZOUX」と「BRILLIANCE+」の2つの空間を手がけるということで、それぞれのお客さまの目的に合わせた空間づくりも意識しました。カラーストーンを扱う「BIZOUX」で大切にしたのは、採掘場に入ったようなワクワク感です。

私自身、本案件でカラーストーンができ上がる過程や環境を聞いて「なんて奥深い世界なんだ」と心を打たれました。このお店を訪れた人に自分の足でカラーストーンの魅力を発見していくような体験をしてもらいたい。そのために、ただカラーストーンを並べるのではなく、壁に穴を開けて原石を置いたり、地層を模した壁にそわせてルースケースを並べたりなど、カラーストーンを購入するまでの体験価値をつくるよう心がけました。

「BIZOUX」

採掘場にいるときのようなワクワク感を演出したという1階「BIZOUX」(写真:太田拓実)

一方、ダイヤモンドを扱う「BRILLIANCE+」は、「BIZOUX」とは打って変わって、ショーケースなどは置かずに個室のサービスカウンターのみというシンプルな内装にしています。ダイヤモンドはほかの石とは異なり、カラット数や不純物の比率など数値によって価値が決まる石です。お客さまは現物を見ることなく商品を決めることがほとんどのため、ダイヤモンドの条件やカットの種類、リングのデザインなどお客さまの要望を丁寧にヒアリングすることが求められます。

だからこそ、地層のテーマを踏襲しながら、スタッフとお客さまがゆったりと対話できる空間を目指しました。個室の窓からのぞく町屋らしい伝統的な窓枠も、落ち着いた空間に華を添えてくれています。

「BRILLIANCE+」

1階と違い、サービスカウンター中心にレイアウトされた2階「BRILLIANCE+」(写真:太田拓実)

「BRILLIANCE+」

町屋らしい窓枠を効果的に残してリノベーション(写真:太田拓実)

設計段階から原寸の模型をつくりながら、イメージの明確化をおこなってきた鬼木さん。しかし、施工フェーズに入ると古い町屋づくりならではの課題に直面した。

図面上では直角になっている空間でも、実際に現地に行って確認してみるといたる所に歪みがありました。そのため、図面通りにいかないことも多く、そのたびに職人さんと話し合い、細かい寸法を合わせていく作業の繰り返しでした。突然の変更があっても、Vectorworksを使っているおかげで、施工会社さんとの修正データのやりとりはスムーズにできましたね。施工会社さんも同じツールを使っているので、コミュニケーションコストは少なかったです。

Vectorworksを使うことで、施工会社とのやり取りもスムーズに進む

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