Vectorworks ベクターワークス活用事例

ブランドから得たインスピレーションを、素直に空間に落とし込むー鬼木デザインスタジオ(2)

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ブランドから得たインスピレーションを、素直に空間に落とし込むー鬼木デザインスタジオ(2)

持続的に使い続けられる什器づくりへの挑戦

続いて、ODSとしてプロダクトデザインの領域に挑戦した事例についてお話をうかがった。依頼主は、ポータブル照明器具メーカーの「Ambientec(アンビエンテック)」。横浜のオフィスを一部リノベーションし、自社製品を展示できるギャラリーにしたいという依頼のなかで、Ambientecからオーダーがあった。

アンビエンテックギャラリー

Ambientecギャラリー(写真:太田拓実)

ご依頼いただいたギャラリーは、2つの理由から「可変できる仕様」にしたいとのお話がありました。1つめの理由は、新商品の発表ごとに商品のコンセプトに合わせたレイアウトで展示するため。もう1つの理由は、別の場所での転用を見越し、サステナビリティに配慮した空間にするため。それらを踏まえ、ODSとして部品をモジュール化した什器を提案することにしました。

アンビエンテックギャラリー イメージパース

イメージパース

手前の独立した什器も、奥の棚も同じモジュールを使って構成されている(写真:太田拓実)

通常の店舗設計の場合、平面図から考えることが多い。しかし、今回はモジュール什器からアイデアを膨らませ、照明器具が最も魅力的に映る見せ方を模索したと鬼木さんは話す。

まず実寸サイズのサンプルをつくり、商品とのバランスを探っていく作業からはじめました。最初は1つの箱に2つの商品を陳列する形の案も考えていました。しかし、実際に並べてみると1つの箱に1つの商品を陳列したほうが、箱の内側に映し出される光と影がより綺麗に見えることがわかったんです。このように試行錯誤を繰り返し、大枠のサイズや形が決定。その後、Vectorworksで図面を作成してディテールを詰めていきました。

箱のサイズをVectorworks上で検討

モジュール什器 図面

モジュール什器 図面

最終的に、フレームパーツと白パネル、フレームパーツ同士を接合する部品、それらを固定するビスという4つの部品で構成される什器を制作することになりました。それらの部品の組み方を変えることで、展示棚の形を変化させることができる仕様です。

モジュール什器 組み立て図

モジュール什器 組み立て図

仕様が決定したとはいえ、問題は実制作にありました。内装施工で一般的に使用するディテールでは精度的な問題が発生する可能性が高かったので、日頃から照明器具の設計を手がけているAmbientecのプロダクトデザイナーの方々の力をお借りすることにしました。

上がってきた部品の図面が、空間設計の図面とまったく違い、非常に興味深かったですね。特にプロダクトに使われる、耐摩耗性に優れたエンジニアリング・プラスチックで製作した接合部分の設計の細かさには驚きました。わずかなズレが、やがて大きな歪みにつながってしまうため、接合部分の加工は精密機械の溶接をおこなっている業者さんに依頼し、高精度に仕上げてもらいました。

スチールでできたフレームパーツ同士をつなぐ役割の接合部分の部品

サステナビリティとブランドの理想のあり方を考える

昨今いたる所で「サステナビリティ」というキーワードが聞かれるようになりましたが、ブランドにおいてもサステナビリティの観点は切り離すことができません。ものをつくり出す過程でいかに環境への負荷を少なくするのか。それは、ブランドの店舗づくりでも重要な視点です。

例えば、商品生産の過程で出た廃材を再利用する事例は、サステナビリティの事例としてよく見られますよね。今回のお話をいただいた際に「本当に持続可能な空間づくりってなんだろう?」と改めて考えてみたんです。

そこで思い浮かんだのが、どんな場所でも繰り返し使うことのできる今回の什器でした。スチール素材であれば100年は使うことができるし、決まった部品をストックしておけば、会場の大きさに合わせて自由に組み替えることができる。つまり、新たにものをつくり出す必要がないということです。この案件はサステナビリティとブランドのあり方に改めて向き合ういい機会だったと思っています。

鬼木孝一郎

頭の中のイメージを感覚的かつ正確に描き起こせるVectorworks

町屋のリノベーションからプロダクトデザインまで、幅広いソリューションでブランドの魅力を引き出してきた鬼木さん。空間づくりをする上で特に大切にしていることをうかがった。

空間に足を踏み入れた人の記憶に残るものをつくりたい――だからこそ、自分が直感的に感じたことになるべく素直でありたいと考えています。ブランドから得たイメージを、できる限りストレートに空間で表現する。そう意識しているからか、私が設計した空間は「シンプルだよね」とよく言われます。自分のイメージをつくり出すために、結構泥臭いことをやっているんですけどね(笑)。

「BIZOUX / BRILLIANCE+ KYOTO」の壁なんかは、納得のいくテクスチャーになるまで何度も繰り返しサンプルをつくっていましたから。そこまでこだわれるのは、やはり自分がブランドから感じ取った魅力を、多くの人々に伝えたいという想いが強いからだと思います。

オフィスで見せていただいたのは、左官材の調整が難しかったというテストピース

自分が感じ取ったインスピレーションをストレートに空間で表現する鬼木さんにとって、感覚的に図面をつくれるVectorworksは必要不可欠なツールだ。

空間を設計する際のスタート地点はデザイナーによってさまざまです。私の場合は頭の中のイメージを具現化するために平面図づくりからスタートします。コンセプトやラフスケッチを描いてから、図面に落とし込むという順番で進める人もいますが、実際にイメージを空間に当てはめてみると、スケールアウトしてしまうことがよくあります。

そのため、私は実際のスケール感を意識しながらもラフスケッチの感覚で、いきなりVectorworksで図面を描いていきます。Vectorworks上であれば寸法を確かめながら、感覚的に平面図を描き進められるので、自分の頭の中をすぐにアウトプットできてとても助かっていますね。スタッフにも正確にイメージを共有できるので、ディテールを詰めていきやすいです。

空間設計以外の領域へ

訪れる人々の記憶に残る空間をつくるべく、さまざまなデザイン領域に邁進し続けているODS。最後に、今後の展望についてお話をうかがった。

まだ会社を立ち上げて7年目なので、ODSとしてできることをまだまだ広げていきたいと考えています。1つの分野にとどまることなく、「新しい」「楽しそう」と思うほうに進んでいきたいですね。特にプロダクトデザインは、今後もっと知見を深めていきたい領域です。Ambientecのほかにもいくつかプロダクト開発のご依頼をいただいているので、お客さまの悩みを解決する突破口が見つけられるように試行錯誤していきたいと思います。

鬼木孝一郎

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)

鬼木デザインスタジオ
https://oniki-design-studio.com/

エーアンドエー株式会社
https://www.aanda.co.jp