ここ数年活用する企業が増加し、建築業界の革命ともいわれているワークフロー「BIM」。商業施設や文化空間、イベントなどの空間づくりをおこなう丹青社も、数年前からBIMソフトを導入し、2021年春にはデザインセンター内に専門部署であるBIM推進局を創設した。
BIMの活用は、空間デザインをどう変えるのか。全社を挙げて積極的にBIMの活用を進める同社の取り組みや具体的な活用事例、そしてBIMの導入で見えてくる空間づくりの新しい可能性について、丹青社の高橋淳一さんと佐藤篤さんにうかがった。
図面や建材パーツデータをもとに、設計するワークフロー「BIM」
──まずはお二人が普段手がける仕事内容を教えてください。
高橋淳一さん(以下、高橋):私は入社以来、ショッピングモールや駅ビル、空港施設などの大型商業施設や都市型再開発などに携わってきました。そうしたデザイン業務と並行しながら、現在はBIM推進を加速させるため、実務を通じて社内にBIMを広める活動をしています。
佐藤篤さん(以下、佐藤):私はリテールデザイン局に所属し、長くレストラン、カフェ、ホテルの料飲施設といった飲食店を中心とした空間づくりの経験を積んできました。なかでも近年は、大手チェーン店の設計にも携わっています。高橋は、BIMを推進しながら現業もするという立場ですが、私はプロジェクトでBIMをツールとして活用する立場として、現場よりの視点でお話したいと思います。
──そもそもBIMとはどういうものか、あらためて教えていただけますか?
高橋:BIMは「Building Information Modeling」の略で、3Dモデルに情報を付加し、設計だけでなく運用にも活用して設計するワークフローのことです。コンピュータ上にある建物の3Dモデルに、壁やマテリアル、椅子、扉などのアイテムを登録し、形状だけでなく素材やコスト、メーカー、価格など、さまざまな情報を取り込み活用します。これまで2Dの図面では、線を2本描けばそれを壁とみなしていましたが、BIMではこうしたデータを組み込んだ「壁」というツールで壁を立ち上げるわけです。BIMというひとつの器を、デザイナーだけでなく制作や協力会社みんなでシェアリングしながら情報を足していくイメージです。
──これまでの2D設計と、どのように違うのでしょうか?
高橋:現状、クイックなデザイン提案のために、3DモデリングソフトであるSketchUpを計画の初期段階で活用しています。3Dという視点でデザインをすることで、デザインをチェックしたりクオリティをあげるデザインディレクション業務は、以前に比べてはるかにわかりやすくなりました。2D図面はどうしても、見えていない部分を「こうなっているんだろうな」と想像で補完しないといけないので、図面を見慣れていない人にはわかりづらいんですね。でも、BIM・3Dの手法で進めることで初期段階から3Dモデルで確認できるので、人によるイメージのずれがなくなります。
佐藤:図面だけだと、時として「ここって階段だと思っていたけど、壁だったのか」というふうに、クライアントとイメージを共有しづらいこともありますからね。それが3Dだと、短い時間で多くの関係者の皆さんとイメージを共有したり、立体的に空間を把握していただいて詳細を検証したりできる。その効果は大きいですよね。
高橋:そう思います。クライアントの「イメージした通りにできた」という納得感にもつながりますしね。作成した3Dモデルは、いまやビューワーソフトで誰でも見ることができます。さらに、3Dモデルからムービーを作成することもできます。操作も簡単なので、クライアントが画面上でウォークスルーしながら、「ここを少し歩くと、右側がこうなるのか」と疑似体験するように空間デザインを確認いただくことができます。
──丹青社ではどのようにBIM化を推進してきたのでしょうか?
高橋:2016年に試験的に多店舗展開の専門店の業務効率化を目的として導入をスタートさせ、徐々に社内スタッフのスキルも上がり、2019年から一気に扱う分野や物件数も増やしていきました。私自身は、2019年秋に「会社としてBIMを推進していくので、プロジェクトに参画するように」と上司から声をかけられたことが始まりです。そのときは「BIMってなに?」というゼロからのスタートでしたが……(苦笑)。
2020年からは本格的に3Dソフトの導入を拡大し、BIM推進委員会を立ち上げました。そこから講習会をはじめ、設計、制作などさまざまな部門のメンバーに加わってもらったことで、設計から工事まで一貫してBIMデータを活用する流れをつくることができました。こうして少しずつ成果をあげたことや時代の変革の動きも重なり、2021年は全社ミッションとしてBIM化を推進のため、BIM推進局が誕生。現在は大型商業施設や百貨店、オフィス、専門店、文化空間など幅広いプロジェクトに活用しています。
一般的に建築設計会社のBIMの専任部署では、データが適正かどうかの運用管理に機能特化する役割分担をしていらっしゃる場合もあるようですが、丹青社のBIM推進局は、BIMを使うデザイナーを集め、デザインを主軸に拡張させているところが特色です。サポート機能だけではなく、さまざまなジャンルの案件を3D設計で主導し、初期段階から基本設計、実施設計、デザイン監修まで対応できるメンバーがそろった、次世代を意識した組織となっています。
──具体的には、どのようなソフトが使われているのでしょうか。
高橋:丹青社では、BIMソフトの「Revit」と3Dモデリングソフトの「SketchUp」を導入しています。Revitは、AutoCADで有名なAutodesk社が開発した、BIMの代表的なソフトです。企画から設計、施工、運用まで、パーツごとに登録した情報を運用していくため、設計・施工業務の効率化だけでなく、施工の手戻りや認識の齟齬を軽減できるというメリットがあります。一方でSketchUpは、その名のとおり、スケッチを描くように素早く3Dモデルを作成できるソフトです。短期間で3Dモデリングができるため、常に最新のデザインを見える化して、イメージの共有や確認をすることができます。
佐藤:Revitは2D情報だけでなく高さ情報を入れる必要があるので、最初は「少しハードルが高いな」という印象がありましたが、精度の高い図面が必要なプロジェクトや立体的な空間のデザイン構築に向いているソフトだと感じています。一方でSketchUpは詳細に描き込むことはできませんが、仮想空間に積み木をおくようにサクサク感覚的に使えるソフトなので、初期の「間取りをどうするか」みたいな、内装業界特有の数日のうちにプランとデザイン決定という短期決戦的なプロジェクトには向いています。
高橋:現在、SketchUpは社内の多くのデザイナーに導入されており、初期の検討はSketchUpを使い、必要に応じてRevitに移行する使い分けをしています。建築業界と違って内装業界は、どこまで図面を描くかが物件や契約によっても違います。デザインイメージだけで合意形成できる場合もありますし、大型案件の場合など、基本設計までは当社で対応し、そこからはゼネコンの設計部に引き渡す場合もあるので、そういうケースではRevitが適していると思います。ケースや段階に応じて2つのソフトを使い分けている印象です。
設計から合意形成までを、スピーディーに実現
──具体的には、どのような事例にBIMが使われているんでしょうか?
佐藤:多店舗展開の専門店の業務効率化の可能性を感じ、2016年にいち早く導入したのがドミノ・ピザのプロジェクトです。ブランドイメージに沿ったデザインフォーマットを大切にしながら、ハイスピードで多店舗展開しているので、BIM化による効率アップが有効に機能したんです。たとえば、店内の椅子やテーブル、カウンター、厨房設備のスペックなどもテンプレートとして登録してあるので、店舗ごとに数値などを設定すれば、スピーディーに図面をつくることができます。
佐藤:また、高橋が担当する大型施設や再開発の案件が数年がかりの仕事であるのと対照的に、チェーン店は短納期の案件も多くあります。ドミノ・ピザの場合も、年間約100を超える店舗を、出店決定からオープンまで2~3ヶ月で出店するのですが、BIMなら図面と3Dを同時作成できるので、短いサイクルでクライアントに意思決定していただくことができます。
今年5月にオープンした台場店も、Revitで3D化して検討を重ねました。ここはフラッグシップストアなので、ガラス張りの厨房があるなど、ほかの店とは内装が異なりますが、それでも設計からデザインの精度向上、クライアントの合意形成までを短期間で納められたことは、Revitでなければできなかったことだと思っています。
──昨年オープンした「Audi City 紀尾井町」でも、Revitを活用されたそうですね。
高橋:「Audi City 紀尾井町」は私のチームでローカルアーキテクトとして担当した案件で、VRを体験できるブースなどがあるインタラクティブショールームです。この案件では施工会社の選定の際に、指定された図面をもとに、Revitの3Dモデルを作成してプレゼンしました。
高橋:当初の図面では天井が多面体の形状になっていたのですが、それを3Dで検証できたことが、クライアントが当社を選ぶ決め手になったと思います。天井の色が変わる内装のシミュレーションもムービーが一番わかりやすいですし、ドイツ本社などへの承認も3Dやムービーを使ってスムーズに得られました。Revitが効果を発揮した例だと思っています。
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