デザインのチカラ

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INTERVIEW 18 SUZUKI ライフスタイルを広げ、新しい“楽しさ”を生むデザイン

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INTERVIEW 18

SUZUKI ライフスタイルを広げ、新しい“楽しさ”を生むデザイン

スズキ株式会社 四輪技術本部 四輪デザイン部 蒲原 充氏(エクステリア課)、渡邉盛弘氏(インテリア課)、日向 隆氏(カラー課)

2014.06.25

色の鮮やかさを追求したキーカラー

日向 隆(ひなた たかし) 四輪技術本部 四輪デザイン部 カラー課
日向 隆 ひなた たかし
四輪技術本部 四輪デザイン部 カラー課
1992年入社。2代目エスクード、X90等のインテリア。新規格軽、パレット、ジムニー等のカラー。歴代ジムニー、エスクード系特別仕様車カラー。海外アルトカラーおよびデザイン全般などを手がけた。

エクステリア、インテリア、カラーの各デザイン部門に加え、設計、生産の準備をする部署… ともすると分業に陥りがちな開発段階が、今回はチーム一丸となった。カラーを担当した日向氏はプロジェクト進行中からその勢いを感じていたと言う。

日向:チーフエンジニアの思いがダイレクトに伝わってきますし、逆にこちらの思いが通じれば、強くバックアップしてくれます。特にカラーデザインは嬉しい意味で、いつもより仕事が多くなりましたね(笑)
我々は外装色や内装色を決めたり、パネルの素材やシートファブリックを開発したり… そこがインテリアとカラーの分かれ目になりますが、ハスラーではそのコミュニケーションがうまく運びました。

外装色の設定は、2トーン含めての11パターン。使いやすい道具として提案するモノトーン、このクルマのキャラクターを表現する2トーン、という発想だった。2トーンの中で、キーカラー(注:カタログの表紙にするときの車体色などメインとなるキャラクター色)に、パッションオレンジ、サマーブルー、キャンディピンクが決定したのは自然な流れでもあった。

日向:新種を作るんだ、という率直な意気込みと、楽しさを表現するんだ、という気持ちから、一般的な売れ筋の色では足りないと考えて、スズキの中では極限まで色の鮮やかさを追求しました。鮮やかにすればするほど下地が透けやすくなるため、生産上のリスクはあります。大量生産には鮮やかな色は困難なのですが、改良を重ねて実現しました。

エクステリアでは、バンパーを黒の材料着色(注:着色剤を混合した着色樹脂で成形し、無塗装のまま使用すること)に設定することが決まっていた。その部品との相性を見極めるのもカラーデザインの仕事だ。

日向:一見、ボディはヴィヴィッドなソリッドカラーに見えますが、実際はメタリックを配合し下地の色を隠すことで、彩度の高い塗装が再現できるんです。2トーンルーフを塗り分けることについては、エクステリアのテーマとしてすでに決まっていたので、そのことも念頭に置きながらボディーカラーを開発しています。

開発資料とカラーサンプル、『1色だと特異に見えるが3色あると世界観が作れる』
開発資料とカラーサンプル、『1色だと特異に見えるが3色あると世界観が作れる』
エクステリア、カラーラインアップ、開発資料より
エクステリア、カラーラインアップ、開発資料より

素材そのものの色を美しく

キーカラーとなる3色はどれも、鮮やかでいて実は幅広いユーザーにマッチし支持されている。ハスラーが印象づけるアクティブなイメージと合致するのがその勝因だろう。

材料着色の試行錯誤の記録、僅かな色味の違い、厚さによる見え方の違いなどを念入りに検討した
材料着色の試行錯誤の記録、僅かな色味の違い、厚さによる見え方の違いなどを念入りに検討した
シート素材の試行錯誤の記録、結果はシンプルな黒いメッシュジャージとなった、右の袋には材料着色のバリエーション、奥の白いパーツは実際の型でカラートライを繰り返したパネル
シート素材の試行錯誤の記録、結果はシンプルな黒いメッシュジャージとなった、右の袋には材料着色のバリエーション、奥の白いパーツは実際の型でカラートライを繰り返したパネル
エクステリアとインテリア、カラーの組み合わせ、開発資料より
エクステリアとインテリア、カラーの組み合わせ、開発資料より

日向:単に鮮やかな色が3つあるからお客様の目を引く、という訳ではないと感じています。内装との統一感もハスラーでは注力してきた点ですし、調色する段階から生産性の確認を逐一行い、ある程度候補となる色が定まったところで、技術的な審査を実車で重ねるなど、慎重に追求してきました。

内装では、オレンジと白、2色のパネルカラーを設定。車体色の提案に合わせて色々考えてきたが、数を増やしても量産性に影響が出るので、絞り込んだ。そして、内装のパネルも実は塗装ではなく材料着色だ。

日向:“塗らないでどこまでできるか”。材料着色については、これまでも力を入れて開発を進めてきました。軽自動車のように、できるだけ価格を抑えて提供したい車に塗装の費用をかけるのではなく、いかに魅力ある素材で良く仕上げるか。それを良い方にとらえ、塗装以上の美しさで仕上げたいとチャレンジしています。

その挑戦は、ハスラーのインパネ部分にも表れている。
インパネやトリムには、対衝撃性や機能性に優れているポリプロピレンを使用するのが一般的。しかしそれでは、今回目指した鮮やかで透明感のあるオレンジが出せない。そのため、三菱化学のバイオエンプラ「DURABIO」を素材に採用した。求める色を実現しつつ、かつ、耐光性や耐蝕性などを満足させられる素材を、スズキと三菱化学が共同で開発。自動車内装パネルとして実用化させた。

日向:外装色、内装色のキーカラーは鮮やかな色に決まっていったので、シートについてもさまざまなアイデアを検討した結果、最終的に落ち着いたのが、シート自体はオーソドックスなメッシュジャージです。さらにそこに一工夫加え、3色のテーマカラーに対してはそれぞれのカラーに対応したパイピングを採用しました。オレンジ、ブルー、ピンクにはそれぞれ同じ色を、その他は白いパイピングカラーを設定しています。

全体を振り返り「楽しさとか、多くの人に愛されたいとか、そういった気持ちが開発に関わった全員の気運を高めたと思う」と日向氏は語る。おそらく、その気運にユーザーも巻き込まれているだろう。白、黒、シルバーが好まれる自動車業界で、鮮やかなイメージカラーが人気を得るのはデザインが成功した結果にほかならない。ハスラーは、スズキが繋いできた軽自動車の歴史に名を残す新たな車種になるはずだ。


取材協力:スズキ株式会社
http://www.suzuki.co.jp/


インタビュー:高橋美礼 撮影:加藤明弘

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/