編集部の「そういえば、」2023年1月

編集部の「そういえば、」2023年1月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

本のはなし1

そういえば、印刷博物館で「世界のブックデザイン2021-22」が開催中です。先日会場にうかがったところ、小川洋子著『遠慮深いうたた寝』(河出書房新社)が食器棚に並べたくなるような装丁で、内容も気になりました。今度、読んでみようと思っています。

さて、今回は個人的におすすめの本を紹介したいと思います(以下で取り上げる本は、「世界のブックデザイン2021-22」とは関係ありません)。

■神野紗希『すみれそよぐ』(朔出版)

俳人の神野紗希さんが、結婚・妊娠・出産・育児の時期に作った俳句344句が収録されている句集です。あとがきに「価値観を異にする他者と生きていく難しさに直面しながら、人間や愛について深く考えた日々だった」と記されており、喜びだけではなくもどかしさも織り交ぜた人生のエピソードが、言葉で爽やかに描写されています。

神野紗希『すみれそよぐ』(朔出版 2020年11月)

神野紗希『すみれそよぐ』(朔出版)

時々、新聞や雑誌のコラムを読んでいて「読みやすい文章だなぁ」と思っていると、それが俳人・歌人の方が書いた文章だったということがあります。俳句や短歌は限られた文字数の中で、リズムを意識しながら言葉を吟味しているため、それが文章にも息づいているのかもしれません。

「俳句ってよくわからない」という方は、神野紗希さんの『もう泣かない電気毛布は裏切らない』(日本経済新聞出版 2019年10月)というエッセイもおすすめです(今年の2月に文藝春秋から文庫版も発売予定)。「俳句は字数が少ないため、自分の気持ちをダイレクトに入れる隙がない客観的な写生の文学」と説かれています。ゆえに出来事や景色を淡々と描くことになるのです。それは例えば、目の前に立ちふさがる不条理に立ち向かう時、そこからしなやかに距離をとって冷静になるための対処法にもなりえるのではないでしょうか。

発見し、観察し、見立てるという行為は、絵を描くことやデザインにも通ずると感じました。

■川端裕人『「色のふしぎ」と不思議な社会-2020年代の「色覚」原論―』(筑摩書房)

小学校の学校健診で先天色覚異常と宣告された著者が、「色覚異常」の問題について学び、取材し、考察してまとめた1冊です。

川端裕人『「色のふしぎ」と不思議な社会-2020年代の「色覚」原論―』(筑摩書房 2020年10月)

川端裕人『「色のふしぎ」と不思議な社会-2020年代の「色覚」原論―』(筑摩書房)

最近では色覚に配慮したカラーユニバーサルデザインにも関心が高まっています。この本では、色が見えるメカニズム、色覚検査の歴史とそれに対する人々の意識と社会の制度、色覚に違いが出現した生物学的仮説(なぜ色覚異常が男性に多いのか)も辿っていきます。そして色の見え方の違いを「マジョリティ」と「マイノリティ」に区別するのは“不思議な社会“の慣習ゆえであり、それは決して「障害」ではなく「多様性」の一部でしかないということがわかってきます。

生物学者の福岡伸一さんがこの本の書評で述べていた「何人も完全な健常者ではありえず、誰もが少しずつ障害者なのだ。そして障害とは本当は、差し障りや害ではなく、平均値からのズレでしかない。」(色覚巡る生物の多様性考察 日本経済新聞 2021年1月30日朝刊 32面)という言葉が、読後に染みわたりました。

もしかしたら私が見ている色は、隣で同じものを見ている人たちとは少し違うのかもしれません。でもそれは誰とも共有できない、私だけの世界でもあるのです。

(小林 史佳)

本のはなし2

そういえば、先日取材でコクヨ株式会社(以下、コクヨ)にうかがってきました。その際に献本でいただいた書籍『WORKSIGHT』をご紹介します。

WORKSIGHT[ワークサイト]18号: われらゾンビ

『WORKSIGHT[ワークサイト]18号 われらゾンビ We Zombies』(学芸出版社)

『WORKSIGHT』は、2011年にコクヨが創刊をスタートした書籍。年2回発行する書籍のほか、随時更新のWeb版も運営しています。創刊以来「オフィス」を軸に働き方の未来を考察してきた『WORKSIGHT』ですが、2022年にこれからの社会を見通すために切り口を「オフィス」から「社会」に広げるべく、大幅なリニューアルを敢行。リニューアルにあたりコンテンツメーカーの黒鳥社を編集・制作パートナーとして新たに迎えています。

リニューアル後第2弾となる今号のテーマは「われらゾンビ」。表紙のインパクトもさることながら、目次を見ると「ゾンビのすゝめ」「ゾンビ宣言」「韓国ゾンビになってみる」など、読書欲がむくむくと湧いてきます。以下、公式サイトに記載された概要を共有します。

――ゾンビは現代社会にも蔓延している?ゾンビとは「自己搾取」であり「人間拡張」であり「末人」であり「人間性の鏡」であり、そして「近代の遺留物」である。編集長が5冊の書籍をガイドにさぐる、現代社会とゾンビの接続点とは──。

まだ読みはじめたばかりで感想をお伝えできないのですが、内容はもちろん、エディトリアルデザインのユニークさも際立つ本書。表紙の色味をベースに構成されていますが、1つめのテーマ「ゾンビ宣言」のみ、フルカラーかつ紙質も異なる仕上がりになっており、アーティスト・谷本真理さんによるアートワークが文章の世界観を増幅させているように感じます。

WORKSIGHT[ワークサイト]18号: われらゾンビ

文章の傍らに添えられたのは、谷本真理さんによるアートワーク。

なお、JDNでは本書の編集をおこなうコクヨのリサーチ&デザインラボ「ヨコク研究所」にお話をうかがったインタビュー記事を掲載予定です。2月に公開を予定していますので、ぜひそちらも楽しみにお待ちください!

(石田 織座)