編集部の「そういえば、」2022年12月

編集部の「そういえば、」2022年12月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

3Dプリンターで、モノと寄り添う

そういえば、FabCafe Kyotoで開催された3Dプリンターのワークショップ「人という字は」に参加してみました。

ワークショップ会場

ワークショップ会場

このワークショップは、参加者がお気に入りの「細長いもの」を持ち寄り、用意された木片とジョイントさせるためのパーツを3Dプリンターでつくるという企画です。細長いものと木片が寄り添い合う姿が「人」の漢字に見えるため、「人という字は」という企画名になっています。とはいえ、「人という字」の形にこだわる必要もありません。

 

ワークショップ「人という字は」

「細長いもの」として試験管を持参。練り消しでパーツのイメージをつくる

まずは細長いものと木片を採寸し、モデリングソフトを使用して3Dデータに描き起こします。そしてモデリングソフト内の既存のオブジェクトを好きなように組み合わせ、ジョイントパーツを設計します。そこから木片と細長いものが被る部分を引き算すれば、3Dプリンターで出力すべき形ができあがります。この「引き算」の工程は粘土などの手作業では難しく、データだからこそ簡単にできる利点でもあります。

 

ワークショップ「人という字は」

青い部分から赤い部分を引く

そしていよいよ、モデリングしたデータを3Dプリンターで出力します。糸状の材料(フィラメント)を積層することで、形がつくられます。端的に言うと、ソフトクリームのイメージです。出力する形状や大きさにもよりますが、概ね30分程度待ちます。

 

ワークショップ「人という字は」

3Dプリンターで出力中

出力が終わったら、要らない部分(出力する造形物の土台となるサポート材)を除去し、持参した細長いものと木片をジョイントさせたら完成です!

でも実際には、はまらなかったりバランスが悪かったりします。そういった場合には、寸法やデザインを調整してもう一度出力。トライ&エラーを簡単にできるところが、3Dプリンターの長所です。

ワークショップ「人という字は」

最初に出力したパーツ(左)では安定感がなかったため、輪を加えて再出力(右)

採寸とモデリングを通し、「モノの形」に対して「計測」という客観的なアプローチで迫る一方で、「自分はどういう形が好きか」という内面に問いかける場面もあったように感じます。「モノの形」と「自分」のジョイントでもあったのかもしれません。

思い起こせば、身の周りには「とりあえず・安いから」という理由で買って使っているモノがたくさんあります。今回、自分の手で設計してつくることを通じて「つくる責任・使う責任」のほかに「選ぶ責任」についても考える機会になりました。

FabCafe Kyotoでは、この他にもさまざまなワークショップを開催しており、人やコミュニティにフォーカスした場所づくりを目指しているそうです。京都らしさを感じる木造建築に、ちょっとおもしろい設えがあり、和やかな雰囲気のワークショップで、居心地の良い時間でした。

(小林 史佳)

ものの行く末について考えさせられる展示

そういえば、先日まで東京ミッドタウン・デザインハブで開催されていた企画展「かちのかたちたち展ー捨てる手前と後のこと」を読者のみなさんにも共有しておきたいと思います。

本展は、「どこまでがゴミではなく、どこからがゴミなのか?」――その境界に焦点を当て、第一線で活躍するデザイナーやクリエイターそれぞれのゴミに対する価値観を探る企画展です。展示は大きく9つに分けて構成されており、ここでは印象的だった二つをご紹介します。

かちのかたちたち展

まず一つ目は、会場に入って一番最初に見たことのない量と大きさでかたまっている発泡スチロールやアルミ缶、紙などのマテリアル。これは、ゴミから資源に生まれ変わる手前の状態で、それぞれがベストな方法と形でまとめられています。なかなか資源に循環する手前の状態を見れることは少なく、インパクトを受けるとともに、そのあとの展示内容を予感させる導入でした。

かちのかたちたち展

二つ目は、「ゴミは、どこからがゴミで、どこまでがゴミではないのか」という問いが掲げられた展示。テーブルには、さまざまなジャンルのデザイナーや作家の方が提示した「ゴミとゴミになる手前の境界」を捉えたものたちが並びました。

かちのかたちたち展

本展の監修をおこなった、多摩美術大学 統合デザイン学科教授の永井一史さんが提示したのは、「ちょっとだけ正常な時計」。液晶の一部が点かなくなった時計ですが、1と4は問題なく表示され、正常に点く数字が20%あるため、替え時が難しいとコメントされていました。

かちのかたちたち展

「ちょっとだけ正常な時計」

プロダクトデザイナーの柴田文江さんは、「捨てられないカタチ」として、簡易カトラリーや瓶などを提示。「捨てられるものとしてつくられたものですが、その中でキレイなものを見つけてしまうとそれらは自分にとってはゴミでなくなります。デザインをしていく上でも、同じように永く使ってもらえる誰かにとって素敵なものにできるといいなと思っています」と、コメントしています。

かちのかたちたち展

「捨てられないカタチ」

グラフィックデザイナーの服部一成さんが提示したのは、「WAR IS OVER!のマッチ」。1988年にはじめて行ったというニューヨークの路上で拾ったマッチだそうです。「さすがニューヨーク、いいゴミが落ちてるなあ、と思ったものです」という、今年特に多くの方に見ていただきたい展示でした。

かちのかたちたち展

「WAR IS OVER!のマッチ」

大量生産や消費、環境破壊、気候変動など急を要する課題であり、必然的にサステナビリティやサーキュラーといったテーマに向き合わなければならない時代に生きている私たち。国や行政など大きな枠組みの変化が求められるのと同時に、私たち一人一人の考え方も変化させていく必要があります。つくったあとのことも伝えていけるようなメディアでありたいと改めて考える機会をくれた企画展でした。

(石田 織座)