編集部の「そういえば、」2020年12月

編集部の「そういえば、」2020年12月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

Tiny Desk (Home) Concertのお気に入り3選

そういえば、米『NPR』の人気コンテンツ「Tiny Desk Concert」が、今年は新型コロナウィルスの影響から、ミュージャンがそれぞれ自宅での演奏動画を届ける「Tiny Desk (Home) Concert」という新たな展開をみせてくれました。

もとの「Tiny Desk Concert」は、『NPR』のオフィスの端でミュージシャンが音を鳴らすという、生々しさと親密な雰囲気が魅力のシリーズで、「Home」バージョンになってからも、ミュージャンが過ごす家の雰囲気とともに音楽を感じることができる、今年らしいシリーズとしてとてもいいアレンジだなと思いました。今回はその中でもお気に入りをいくつかご紹介したいと思います。

英国のシンガーソングライター、Nilüfer Yanyaのホームコンサートは、まさに家で演奏動画という感じで、あまり画質がいいわけではない固定カメラが写す、彼女がギターを弾きながら歌う姿の生々しさから、ミュージシャンとしての彼女の魅力を素材のまま感じることができます。

昨年の彼女のアルバム『Miss Univrese』は、けっこうお気に入りのアルバムとしてよく聴いていたのですが、誰にも似ていないユニークな声とギタースタイルが、このホームコンサートでは混ざりっ気ないまま鑑賞することができますし、なによりジャズマスターという楽器の鳴りと特性が、そのまま伝わってくる音場感がリアルでよいです。それにしても彼女のギターのフレージングの豊富さに唸ります。

トレーラーの中のようなロケーションで、まさに小さなテーブルの上にマイクを乗せて歌うAdrianne Lenkerのホームコンサート。今年すばらしいアルバム『songs』をリリースした彼女が、ふだんもこんな風に自然体で音を鳴らし、レコーディングしているんだろうなということがカメラを通してわかるような、どこかドキュメンタリーを観ているような気持ちになる映像だと思います。

去年はフロントを務めるバンド「Big Thief」で2枚アルバムをリリースし、個人的にはいまいちばん気になるインディペンデント系のシンガー・ソングライターで、彼女が弾くギターの音と声が鳴らされていることに、特別ななにかを感じてしまう稀有なミュージシャンだなと思います。この混乱の時代に、『songs』というシンプルなアルバムをそっとぼくらに届けてくれることにも、なんだか信頼してしまう。来年もきっと飾らない傑作を届けてくれるはず。

今年5枚のEPをリリースした「Dirty Projectors」。インディペンデントな活動を通して、それなりに歴史を重ねてきたバンドですが、幾度のメンバーチェンジを経たいま、バンドがとてもいい状態にあることが、このホームコンサートから伝わってきて、個人的にはアルバムと合わせてとってもお気に入りです。

このホームコンサートシリーズにバンドが登場する際には、ホームスタジオにメンバーが集まって撮影したようなものもあれば、「いやこれはもうスタジオ収録でしょ」といったものもあって、ミュージシャンの活動スタイルによって本当にさまざまでした。でも、ちょっと豪華になりすぎてしまうと、「Tiny Desk」である必要ってあるのかな?と思ってしまったのは正直なところ。

その点Dirty Projectorsは、メンバーが自宅で演奏した映像を組み合わせてひとつに仕上げるというもので、なにかかっこいいことをやろうというより、ばらばらの場所にいるメンバーがリラックスして演奏している動画が、音楽によって合わさることにより、ひとつのコンサートとして成立している。これこそまさに「Tiny Desk」らしさだなと思いますし、配信という手法がひとつの主流になったときに、それぞれのメディアやスタイルが、伝えたいことやコンテンツによって、適切に選択するというのはどういうことなのか、それを考えるきっかけにもなりました。

「STAY HOME」から「BLACK LIVES MATTER」、そして「VOTE」へと、アメリカを中心にミュージシャンたちはさまざまな方法で時代に対してのメッセージを発していたのが印象的な一年でしたが、このホームコンサートシリーズは家から発信されているということもあり、ミュージシャンたちがより個人の視点からことばを届けることを、演奏の合間のMCで行っていたように思います。分断の時代とも言えるいま、こうやって家と家とのあいだの隔たりを音楽で埋めていくこの試みは、この一年のほとんどを家で過ごしたひとにとっては、勇気をもらえるサウンドトラックになったのではないでしょうか。

画面越しの「おはよう」「こんにちは」「はじめまして」、そして「さようなら」があたりまえになってしまった2020年でしたが、今年感じた画面越しで伝わること/伝わらないことを胸に、来る2021年に備えて年末を過ごそうと思います。みなさんもどうか、STAY SAFEでお過ごしください。

(堀合 俊博)

お伝えしきれなかった、すてきな情報シリーズ

そういえば、今年は新型コロナウィルスの影響もあって妙な忙しさを感じた1年でした。JDN編集部には日々たくさんの情報が届くのですが、繁忙期にはひとつひとつの情報をしっかり把握できないことも……(すみません!)。

ということで、今年最後の「そういえば、」の場を使って、「あ、これはニュースで紹介しなければ」「あっ、これ素敵だな!」と思いつつ出せなかった情報をまとめてご紹介させてください!

■THIS IS A SWEATER.
https://www.thisisasweater.jp/

山形にある老舗ニットファクトリーの米富繊維が、1952年の創業以来培ってきたニットづくりの技術を活かしながら、あらためて「セーターとは何か?」を問い直し、新たな価値を提案する新ブランド「THIS IS A SWEATER.(ディス イズ ア セーター)」。ブランディングは、山形県を拠点に活動するデザインチーム・アカオニが手がけています。

同ブランドがあらゆる試行錯誤の末にたどり着いたのは、5ゲージ、天竺編みという、シンプルできれいな形の普通の極みのようなセーター。セーターの糸は、カシミヤフレンチメリノという、このセーターのためにつくられた糸が使用されています。年々愛着が湧くような風合いが気になるなと思いつつ紹介できていませんでした。現在色によっては売り切れもあるみたいなので、最新情報は公式サイトでチェックしてみてくださいね。

■土屋鞄の「雪だるま専用バッグ」
https://tsuchiya-kaban.jp/blogs/library/20201218

職人の丁寧な手仕事による鞄づくりを続ける革製品ブランド、土屋鞄製造所から発表された、冬の風物詩を運ぶ「雪だるま専用バッグ(非売品)」。同社は、ものづくりを通したわくわく感やときめきを伝えたいという思いから、読み物コンテンツ「“運ぶ”を楽しむ -THE FUN OF CARRING-」 を2020年7月に公開しました。第1弾として登場した「スイカ専用バッグ」はSNSで多くの反響を呼び、海外メディアにも掲載されたそうです。

第2弾として発表されたのが、冬の風物詩でもある雪だるまを運ぶ「雪だるま専用バッグ」です。子どもの頃に誰もが一度は抱いた「雪だるまを家に持って帰ることができたら」という夢を実現すべく、日頃鞄づくりを担当している職人の松澤裕子さんが制作を行いました。職人が日々磨き続けている技術や知識を生かした、本気の“遊び心”が満載のバッグです。残念ながら販売はされていませんが、期間限定で各地の店舗にて展示されるそうなので、こちらも公式サイトをチェックしてください。

■ブルーパドルによる、企業向けの無料ブレストサービス「アイとデア」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000048847.html

「アイとデア」は、アートディレクター/プランナーの佐藤ねじさんが代表のブルーパドルが開始した、企業向けの無料ブレストサービスです。1ヶ月に4社まで初回無料のオンラインブレストを請けるという内容です。

ブルーパドルは、企業・商品・カルチャーがすでに持っているものの中から「伸びしろ」を見つけて、それを形にしていくことを目的にしています。「空間体験・商品企画・Web・PR・こども・グラフィック」の6つの領域で、さまざまなコンテンツを制作していて、近年では、エンタメ×テクノロジーを組み合わせた「不思議な宿」が話題を呼びました。

JDNでも以前、偏った“変な”発想法を紹介していただくコラムを連載していただいていたねじさん。どれかひとつの記事を読んでもらえるとねじさんと話してみたい、相談してみたい欲がムクムクと湧いてくると思います。

■ブルーパドル思考
https://www.japandesign.ne.jp/column/theme/bluepuddle/

今回のサービスについてねじさんは、「1つの企業がもっている技術・知見には、必ず大きな伸びしろがあります。そこにブルーパドルが持っている知見(PR・広告・デザイン・テクノロジー・アプリ・SNSハック・ボードゲーム・こどもコンテンツ・アートなど)を掛け合わせて、水平思考することで、さまざまな発想が生まれます。新しい技術を開発しなくても、巨大な投資をしなくても、まだ未知の組み合わせは無限にあります。ただ出会えてなかっただけ。そんなことだらけです」と、話しています。気になった方はぜひこの機会を逃さないことをおすすめします。

今年最後ということもあり、2人とも長文になってしまいましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!生活が様変わりしてしまった1年、日々大変な状況が続いていて、第一線で頑張ってくださっている人たちにはただただ感謝と、そして迷惑をかけないように自分ができること続けていきたいと思います。来年も変わらず、デザインやアートを仕事にしていたり、好きだったり関心がある人にとって、頑張るヒントになったり、楽しいひと時につながるようなコンテンツを届けていけたらと思っています。

(石田織座)