JDN編集部の「そういえば、」2020年8月
ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。
どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。
2種類のコンフィチュール
そういえば、リモートワークを行うようになり、以前より格段に料理の機会が増えたり、1回ごとの食事に対してしっかりおいしいものを摂りたいという気持ちが強くなった気がしています。
最近は、毎朝食べるヨーグルトやパンがより一層おいしくなる商品を購入しました。
これは、奈良県吉野に工房をかまえるブランド「コンフィチュール フミ」のコンフィチュールです。私が購入したのは、「キウイ&メロンのコンフィチュール」と「白桃のコンフィチュール」の2種類。食欲を刺激されるかどうかも重要ですが、特に底の部分が理化学用品のようになったビンの形に惹かれました。
「コンフィチュール フミ」は農家から届く旬の野菜や果物を使ってコンフィチュールをつくるブランドです。季節ごとの食材のおいしさを引き出すため、素材選びからカットの仕方、砂糖選び、火入れまでこだわったオリジナルの手法でつくられているそうです。
商品がつくられている工房は山に囲まれた奈良・吉野にあり、厳しい冬の間以外はショップとしてオープンし、カフェではコンフィチュールを使用した食事が楽しめるそうです。気軽に外食ができない今、今後も気になる形やパッケージの商品は積極的に試してみたいなと思っています。
(石田 織座)
Rest in power、チャドウィック・ボーズマン
そういえば……という書き出しでは足りないほど、チャドウィック・ボーズマンの死にショックを受けています。
8月28日に大腸がんによって亡くなった彼の訃報はあまりに衝撃で、しばらく呆然とニュースの見出しの文字列と彼の笑った顔が映し出されたiPhoneの画面を眺めてしまいました。ブラックパンサーとしての彼が活躍する姿がみられることが、向こう数年かけての楽しみとして心の中で大きな位置を占めていたので、「信じられない」というのがもっとも最初に感じてしまったことでした。
チャドウィック・ボーズマンのことを知ったのは『シヴィル・ウォー/キャプテンアメリカ』で登場したブラックパンサー役が最初でしたが、クールなルックスとしなやかな身のこなし、特徴的な英語のアクセント、それらがあまりにかっこよくて、ティザー映像が公開されてすぐに夢中になりました。当時ぼくは映画に関するWebメディアで仕事をしていたので、解禁された映像を嬉々としてSNSにポストしたのを覚えています。
その後、主演映画として公開された『ブラックパンサー』にも本当に熱狂していました。アフロフューチャリスティックな世界観とルース・E・カーターの衣装、ルドウィグ・ゴランソンのスコア、ケンドリック・ラマーの楽曲……あらゆる点でマーベル・シネマティック・ユニバースの中でもお気に入りの1本なんですが、あらためて思い返してみると、中心であるチャドウィック・ボーズマンの柔和さがとても印象に残っています。
『ブラックパンサー』においては、亡くなった父の過ちに気づき、自らがあるべき王の姿を掴みとろうとするティチャラ/ブラックパンサーがものがたりの主軸にはあるものの、映画全体の印象としては、彼の周りにいる女性の登場人物たちの存在をとても色濃く感じます。彼は親衛隊長にいじられ、妹からはからかわれ、ガールフレンドにはシビアな意見をぶつけられ、苦笑いばかりしている。
その姿に、マッチョな価値観やマスキュリティ、さらには“説明したがる男“=マンスプレイニングしがちな男性像とはまったく異なるヒーローのたたずまいを感じていたことが、ぼくが憧れていたことなのかもしれません。そしてそれは、チャドヴィック・ボーズマンの存在感ゆえに生まれていたことだと思います。
あらゆる追悼文が発表されていますが、その多くが「rest in peace」ではなく「rest in power」ということばが使われているんですね。知らなかったんですが、調べてみると差別や不平等と戦ったひとたちを讃えることばだそうです。フィルモグラフィを振り返ってみても、彼はヒーローばかりを演じていました。『42 世界を変えた男』のメジャーリーガー、『マーシャル 法定を変えた男』の弁護士、さらにはジェームズ・ブラウンだって演じているし、今年配信された『ザ・ファイブ・ブラッズ』でもどこか神聖さを帯びた役柄だった。世界中がこの週末悲しみに暮れていたのは、さまざまな世界において彼がヒーローだということだと思います。力とともに、彼の存在は忘れません。
(堀合 俊博)