おせっかいのススメ

おせっかいのススメ

はじめまして。minnaのボスこと、角田です。

minnaは、角田と長谷川の共同代表の会社ですが、一応、私の方が社長です。はい、皆さまのお察しの通りの関係性です。決して私が尻に敷いているのではなく、世界平和ために、長谷川が自ら敷かれに来てくれているということだけは強く申し上げておこうかと思います(笑)。

3月は、出会いと別れに加え、花粉のトリプルパンチで涙が絶えない季節ですね。涙が出てしまうような感動的なお話し…ではないのですが、今回は私たちminnaの仕事のスタンスについて書いてみようと思います。

※minnaって誰?と思われた方は、是非初回のコラム「わからないことは分解してみる」をご覧ください。
https://www.japandesign.ne.jp/column/minna-201701/

素直だけがいい子とは限らない

仕事を依頼通りに忠実に進めることは、当たり前なことのように感じますが、はたして本当に良いことなのでしょうか?

触らぬ神に祟りなしと、言われたものを言われた通りに作るだけの方が、楽だし、早いし、割にあうかもしれません。でも、せっかくお仕事させていただくからには、しっかり成果が出て欲しいし、依頼して下さった方にも喜んで欲しい。そう本気で考えるとただ素直ないい子だけではいられなくなり、いろんなことが気になりだして、質問したくなってきます。

「質問力」は「おせっかい力」

「なぜ、ポスターデザインという依頼内容なのですか?そもそもポスターで何を発信したいのですか?」「なぜ、この新商品は開発されたのですか?会社としてはどんな狙いがあるのでしょうか?」「なぜ、マルシェを開催したいのですか?どんな町にしていきたいのですか?」なぜ?なぜ?……「Why Japanese people?」のネタで売れた、厚切りジェイソンの気持ちがわりとわかるタイプです(笑)。

特に依頼内容がデザインを手段(method)と捉えたところからだった場合、私たちはなぜ?なぜ?と質問を繰り返し、想い(vision)に遡ることができるまで依頼を深堀します。

その結果、依頼内容としては最初と同じままでも、想いに沿いながら進める体制が整ったり、依頼内容自体が変更になることもしばしばです。ほとんどのケースで、元の依頼より大変になることが多いのは確かですが(笑)。

それを承知の上でも質問することを止められないのは、デザインを通して社会に機能させる責任を全うしたいというバカ真面目さと、その方が面白いお仕事になるという信念からかもしれません。

従順なオペレーター、おせっかいなデザイナー

現状ではIllustratorやPhotoshopなどを使いこなし、「見た目」をキレイに整えられる人がデザイナー扱いされていますが、依頼に対して何の迷いや疑問も抱かずに、言われた通りに手を動かして制作するだけなら、それはただのオペレーターだと私たちは思っています。

いまはまだデザイナーが使うものとされる専門ソフトも、幼少期からパソコンやスマホが日常にある中で育つ、いまの子どもたちは、それらを使いこなせるようになる人が大半になることが容易に想像できます。そして機械の方が上手く、早く、正確にやれてしまうような未来もすぐそこまで来ています。

私たちは「見た目」の前段にある「想い」を聞き出すことや整理する段階に、可視化するのと同じくらいのパワーを注いでいます。そして、この前段があるからこそ、ただの可視化ではなく、魅力的に、より発進力をもった可視化ができます。そこにこそ、これからのデザイナーの存在価値があるのではないでしょうか。

おせっかいの賜物

2012年夏、富山県の秘境ともいえる、合掌造りの小さな山里にある和紙工房「五箇山和紙の里」から新商品開発の依頼がありました。メールや電話だけでは、全貌が分からなかったし、和紙に興味もあったので、すぐに現地に伺いました。

「なぜ、五箇山和紙の里は、新商品開発をしたいんだろう?」そのことを常に考えながら、工房見学させてもらったり、いくつか質問もしたのですが、なんだかピンと来ず、核心に触れられていないなと感じたまま、夜の歓迎会がはじまりました。アルコールも少し入ってきた所で、しつこくもう一度質問をしてみたところ…

「残業とかしてみたいんだよねー」

衝撃的な一言でした。残業したくないけれど働かなきゃいけないという人が多い、この世の中で、自ら残業したいという気持ちを持っているなんて。新商品を開発したい狙いはこの一言に全てが集約されていると感じました。

残業=仕事量がもっと欲しいということはもちろん、やりがいあるいまの仕事をもっとしたい。世の中からもっと求められたいし認められたい。という状況であることがわかりました。

新商品の販売先は工房併設の「道のえき」の売店のみ。しかも、いままで外部との取引は未経験。依頼としては、そんな状況の中での「道のえき」用の新商品1点の開発依頼。依頼通りにそのまま商品をデザインしても、何も解決せず、デザイン費の無駄遣いで、地域からのデザイナー不信へも繋がりかねないと思いました。

そして、なによりも「残業したい」の想いを叶えることは難しいと思ったので、外部へ販売、発信するためのブランド「FIVE」を立ち上げる提案をしました。新商品開発に加え、頼まれていない販売網の強化も必須だと考えたからです。

その後「FIVE」として東京やパリの展示会に出展する機会をつくったことで、国内外に販売網も確立。そして現在、2013年の立ち上げから4年が経過しますが、現状は納品待ちが出る程に商品のオーダーが入るようになっています。

はじめた当初は「FIVE」に懐疑的だった人たちも(名称的に戦隊ものと誤解されているところはあるようなのですが…)「わしもFIVEにいれてくれ〜」と地元の方々にも認めてもらえる存在になってきているようです。そして、「FIVE」のブランド担当者の石本泉(せん)くんはテレビや雑誌などの取材を多く受け続け、地方のフリーペーパーなどでは表紙を飾ったりしているので、富山ではちょっとした有名人になりつつあります(笑)。

おせっかいに質問を繰り返し、「残業したい」の想いを聞き出し、ブランド立ち上げの提案をしていなかったら、こんな状況は絶対につくり出せていなかったと思います。まさに「FIVE」は、おせっかいの賜物です。

おせっかいとは「俗に、出しゃばっていらぬ世話をやくこと」を言うそうです。面倒くさいと思われることもあるかもしれませんが、少し気持ちを強く持って、質問してみることで開ける世界があります。

私は長女で人生相談とかもされやすいタイプらしく、もとから世話焼きな面はあるのかもしれません。出しゃばりがちな派手なシャツばかりを着ている長谷川は、見た目からしておせっかいなのかもしれません(笑)。これからも「WHY?」から「わ〜い!」を生み出せる、謙虚におせっかいなデザイナーでいたいものです。

minna

minna(デザインチーム)

2009年、角田真祐子と長谷川哲士によって設立。
デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域に捉われない活動を様々な分野で展開している。
昭和女子大学非常勤講師、武蔵野美術大学特別講師。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、SDA賞 優秀賞、キッズデザイン賞、TOPAWARDS ASIAなど他受賞多数。
minna-design.com/