湖の駅さめうらカヌーテラス

地域の資源を呼び覚ます大屋根と、競技カヌーや地域観光のための拠点

四国の中央部に位置する、山に囲まれた吉野川の源流域にあたり、面積の85%が山林の高知県土佐町。そこに誕生した自然体験型観光拠点「湖の駅さめうらカヌーテラス」は、カヌーやSUP、サイクリングなどのアクティビティが楽しめる施設です。

設計を担当したTA+Aの伊原慶さんと和久田幸佑建築設計事務所の和久田幸佑さんに、コンセプトなどお話を伺いました。

■背景

高知県土佐町に位置する「湖の駅さめうらカヌーテラス」は、2018年10月に公募型プロポーザルで選定され、基本計画策定から取り組んだプロジェクトです。当初は競技カヌーの振興に重点的に貢献できる施設構成を求められましたが、補足として掲げられていた、地域のアクティビティを通じた観光の要素をさらに発展させ、それら2つを計画骨子の両輪とすることで自律的な施設運営を目指すことになりました。

基本計画策定から設計チームとして参画した本計画の特徴を存分に活かせた点は、南の山側隣地にある早明浦ダムキャンプ場やさめうら湖の湖面を含めて「湖の駅」として一体的拠点整備を行うことになったところです。本施設の竣工後も、施設の直上にあるさめうら森林公園およびキャンプ場の整備計画にも携わっており、今後さらに拠点整備が進行する予定です。

湖の駅さめうらカヌーテラス外観画像

■コンセプト

本施設がある中山間地域の大半は山(傾斜地)です。山々の間に川が流れ、川と山の間のわずかな平地に集落が形成されています。自然環境にわずかに手を加え、自然と一体の新しい生活環境を獲得しています。嶺北地域を象徴するさめうら湖は、四国地方の生活を支える水瓶として、自然地形とダムが一体に混ざり合い雄大な湖面環境を形成しています。同じく地域の魅力的な景観のひとつである相川の棚田も、自然の斜面に人が手を加え、段差の中に見事な水田の景観を構築しています。嶺北地域の既存景観の中に、切り開かれた人々の生活が一体的に融合し、新しい生活環境を形成していると言え、それが中山間地域という場所の魅力だと考えました。

湖の駅さめうらカヌーテラス外観画像

青少年などの家として役割を担った旧さめうら荘が隣地に移設され、あらわになった段差や擁壁などの微地形と変形した地型に、それらを紡ぎ合わせるように建築を挿入しました。建築が環境を切り取るのではなく、既存環境と建築が混ざり合う中に多様な場所を生み出したいと考えました。周囲の山並みに馴染み浮遊する大屋根を架けることにより、内外を問わず敷地全体が競技カヌーの振興になると同時に、レジャー・観光にも資する施設として機能しています。

湖の駅さめうらカヌーテラス外観画像

湖面への眺望を獲得する中央の開放的な伽藍堂空間は、土佐町のアウトドアアクティビティや農業・自然体験などのガイド拠点として、フレキシブルな活用を受容する場です。大きな軒下空間はそれらの休憩やコミュニケーションに寄与するさまざまな中間領域を生み出します。施設運営者や利用者がこの場所を使いこなし、町が目指す競技カヌーの振興とスポーツ観光のさらなる発展に繋がることを願っています。

湖の駅さめうらカヌーテラス

所在地 高知県土佐町
設計 伊原慶+和久田幸佑/TA+A+和久田幸佑建築設計事務所+三愛設計 設計共同体
施工 早明浦建設
構造 鉄筋コンクリート造、一部木造+鉄骨造
敷地面積 1363.48m2
延床面積 412.0m2
竣工日 2020年9月
撮影 小川重雄