マルヒロオフィス “おうち”

築86年の古民家になるべく手を加えず、大胆に印象を変えたリノベーション

日本家屋に設置された大きな鏡が印象的なこの建物は、波佐見焼の陶磁器ブランドを運営するマルヒロのオフィス「おうち」です。

木造の日本家屋の既存部分を活かしつつも大胆に印象を変化させたのは、設計事務所のDDAA。本プロジェクトが始まるまでの背景や空間の特徴などについて、公式サイトに記載された内容をもとに紹介します。

■背景

マルヒロのオフィス「おうち」は、マルヒロが波佐見焼を通してつながったアーティストと共につくる公園「HIROPPA(ひろっぱ)」のすぐ裏手にある、築86年の日本家屋のリノベーションプロジェクトです。

長崎県波佐見町の地場産業である波佐見焼。マルヒロは波佐見焼の企画から販売までを手がけており、「HASAMI」や「ものはら」など複数のブランドを運営しています。2021年10月1日にオープンする「HIROPPA」は、マルヒロが直営店に公園の機能を付加することで、顧客だけでなく地元の人たちにも利用してもらうための広場として計画されています。その公園に隣接した古民家に、オフィス機能だけでなくショールームや公園で食べるお弁当をつくる厨房、アーティストなどとのコラボレーションのためのレジデンススペースをつくる計画を行いました。

■コンセプト

プロジェクトがちょうどスタートしたころ、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大しましたが、屋外用途の公園のプロジェクトはアフターコロナにも有効であると考えたため、クライアントはプロジェクトの継続を決めました。ただし、将来の予測がむずかしいいま、組織のあり方としても会社経営としても、フレキシブルであることはとても重要です。そのため、僕たちは当初の予算の半分でできることを提案しました。

目指したのは、現状のものにできるだけ手を加えないで、大胆に印象を変えること。また、機能やコンセプトを固定させない空間をつくることです。そもそも、木造の日本家屋はフレキシブルに増改築を繰り返すことができるつくりになっています。竣工時にピークを迎えるのではなく、少しずつ状況に合わせて姿を変えられるところが、日本家屋の特徴とも言えるのです。今回対象となった日本家屋もその例にもれず、キッチンや倉庫、玄関などが増築されていました。

結果的にDDAAからの提案は、できるだけ既存の状態に手を加えず、畳の敷かれていた部屋の床を抜く、それだけでした。

■特徴

床を取り払い、現れた立派な束石を残しつつ、土間にコンクリートを打ちました。土間と合わせてコンクリートの立ち上がりを設け、もとの床の高さのテーブルの脚にしました。畳の上で椅子を使うと畳を傷めてしまいますが、畳を取り外すことでその問題を解消し、同時に床が下がったので天井高も確保されました。

マルヒロオフィス “おうち”

床を取り払い束石を残し、テーブルの脚は元の床の高さに。

畳に座ったときに庭を眺められるよう、下部にガラスがはめ込まれた雪見障子は、ガラスと障子紙をすべて取り外しました。床が下がったことで椅子に座ったときの視線の高さに庭園が広がり、少し高くなった床の間も椅子に座ることの多い現代の生活の目線にフィットしています。

マルヒロオフィス “おうち”

ガラスと障子紙をすべて取り外した雪見障子

さらに既存の障子枠を使い、エントランスのサインも兼ねた、転がる丸い鏡の建具を設えました。

マルヒロオフィス “おうち”

エントランスに可動式の丸い鏡の建具を設置

2階は、アーティストのレジデンススペースとして、畳を板に敷き直しています。長押より下の壁面に床と同じラワン合板を貼り、それより上には手を加えていません。

マルヒロオフィス “おうち”

2階/レジデンススペース

関係性を少し変えるだけで、元々の意味を変化させることができる。これは空き家など、既存のストックを活用するための手法として、有効な手立てだと考えています。竣工後には早速、オフィスだけでなく公園に隣接するお茶屋さんにする、ポップアップショップやレンタルスペースとして使うといった計画が浮上し、これからの変化が楽しみになっています。

施主 マルヒロ
主要用途 事務所、住居、店舗
主要構造 木造(既存)
延床面積 408.24m2
設計 DDAA
プロジェクトチーム 元木大輔、角田和也
家具製作 studio arche
施工 上山建設
竣工 2021年3月
撮影 長谷川健太