「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

家具が製作される過程を可視化したブースデザイン

岐阜県高山市で毎年開催されている見本市「飛騨の家具フェスティバル」。伝統技術を持つ家具メーカーが、それぞれの持ち味や得意分野を活かして生み出したデザインと匠の技を紹介しています。

本記事では、2022年に開催された同見本市のメインブースをご紹介。設計を担当したSYAの矢萩智さんに、ブースデザインのコンセプトや特徴についてコメントをいただきました。

■背景

飛騨地方の家具メーカーの見本市「2022 飛騨の家具フェスティバル」のためのメインブース。毎年秋に行われている飛騨木工連合会主催の同見本市は、コロナ禍の影響でメイン会場を設けず規模を縮小していたところ、今回3年ぶりのメイン会場での開催となった。

2022年の見本市は、同会が定める飛騨デザイン憲章の第1条に立ち返り、「自然との共生」をテーマとしていた。森から伐採される原木や製材された木を使って、家具へと製作される過程を同見本市に訪れる人に届けられるような空間にしたいと相談をいただいた。

■コンセプト

時代とともに生活様式が変化し、家具の需要は、座卓や花台などの和家具からテーブルや椅子などの洋家具が主流となっていった。また、国産家具は、9割以上が国外の輸入材であり、職人による加工を経て製作されている。外国産の材料を使用する背景には、広大な土地で育つことによる木材の品質の安定や、大量に仕入れるため単価を抑えられるという利点がある。

その中で変わらないものは、代々受け継がれていく職人の技術力であった。それらは各地域に今も根付いており、家具の品質を保ち続けている。

そこで手がかりとしたのは、この地域に暮らす人の営みと遠くに望む稜線の起伏であり、工場に積まれた家具用材の山。家具の製作の過程を可視化するために、その板材を積み上げ、グリッドの隙間に植物を配置することで、家具の材料と自然が重なり合うような空間を目指した。このブースを訪れた人に、家具の原始的な体験を味わってもらえるのではないかと考えた。

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース。板材を積み重ね、隙間に植物を配置することで「自然との共生」を表現

動線から余分にはみ出すように計画することで、山のように積み上がった中で丘に座る感覚で、腰掛けたり、ブースに併設されたカフェの飲み物を飲んで談笑したり、商談ができる広場のような空間となった。

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

■課題となった点、手法、特徴

それぞれ680mm、840mm、1090mmと異なる3つの高さの丘に、製作された椅子を配置して、周囲にはその椅子の製作の途中の材料や素材を展示している。椅子を支える板は実際にその椅子の製作時に使用される板材を配置しており、家具が製品になるまでの連続性を意識した。当初は、より高く積み上げていく構想があったものの、安全性を優先して目線程度の高さを一杯として、板の接合や高さに関して議論を重ねた。

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

製作の過程をビジュアル化したサインも展示

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

家具に使用される木材・素材

家具工場の倉庫に保管されていた2mの杉材を800mmと1200mmに切断した板とあわせて、3種類の長さの木材で全体を構成した。緑色のPPバンドで仮留めすることにより、加工を最小限に抑え、閉会後に家具用材としての使用を可能にしている。

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

仮留めに使用されたPPバンド

テーブルは、各家具メーカーの工場にあった端材を再利用して製作した天板と、実際に各家具メーカーから販売されている脚を組み合わせて構成されている。寄せ集めの材とすることで各社が愛着を持ち、長く使用されるよう意図した。

「飛騨の家具フェスティバル」メインブース

各家具メーカーの工場にあった端材を使用した天板

今回の見本市のオープニングイベント後、白川郷を訪れた際、合掌造の「駒尻」と呼ばれる屋根の斜材の端部が妙に気になった。駒尻は端部を金物や紐などで固定しないことで、雪や風により微動し、応力を分担する役割を担っているものだ。

このブースに積まれた板材に座った際、仮留めしたことでわずかに動く板材に、この駒尻のような先代の工夫が偶然重なったように感じた。風にふかれて木立がしなやかに揺れる光景が、このブースでも感じられていたらうれしい。

所在地 飛騨・世界生活文化センター/岐阜県高山市千島町900-1
設計 SYA + kamikami
制作ディレクション 飛騨の森でクマは踊る
設営 協同組合 飛騨木工連合会、飛騨の森でクマは踊る
敷地面積 100m2
開催日 2022年10月22日~10月26日
撮影 飛騨木工連合会
ブース内イベント企画・運営 飛騨の森でクマは踊る
カフェ企画・運営 FabCafe Hida