Hの減築

「減築」によって庭との関係を再定義した、光あふれる家

デザインコンセプト
担当:木村吉成+松本尚子/木村松本建築設計事務所

【実体の減築、用途の減築】
京都と滋賀を結ぶ県道の山間に、1960年代後半に開かれた住宅地がある。当初は別荘地として分譲された理由から土地区画がゆったりとしており(後に住宅地へと変遷)、居住者層は分譲当時の65歳以上の高齢者世代が4割強を占め、空き家増加の傾向を後押ししている。しかし作家のアトリエやギャラリー、店舗を併設した職住一体型の居住形態をとる住戸も多く、成熟した町の姿も見せている。

その一角で空き家となっていた築35年の木造住宅を、改修の後に販売する計画である。215坪の敷地(その8割が放置気味の木々と植物が占める魅力的な庭)、幾度かの増改築を繰り返した、延べ55坪の建物。町の経緯と建物の前提についての調査・検証を進める中、私たちはそれらが持つ「面積」に注目した。

215坪の土地に55坪の建物。それは子育て中、もしくは子育てを終えたごく一般的な核家族世帯の専用住宅として、また今後予想される町の姿から考えると持て余す面積である。幸い、土地は整形で1辺すべてが接道しているので2区画に分筆・販売することはゆくゆく可能だ。しかし、建物が持つ面積は改修設計をする際に手がけた範囲が建設費に反映され、総体としての金額は増加する。そのためおもな方針として「減築」による改修を選択した。

減築のプロセスとして、2階の大まかなアウトラインをそのまま1階に落として新設の木製建具で囲み、金属ブレースによる構造補強を行うことで「述べ床面積37坪・ほぼ総2階」といった状態を再設定、居住に必要な機能をすべて配した。そしてそこからはみ出た2つのボリューム(ルームA・B)のうち、1つの整形ボリュームは外壁を取り去り、ポリカ波板で覆うことで軒下の外部とした。もう1つのL型ボリュームは外周を木製建具で囲み、内部のまま用途をなくした。

ここで行ったふたつの減築、「実体の減築」と「用途の減築」は、新しい1階に採光・通風をもたらすと同時に、庭との関係を再定義する。また庭と一体でそれらが内在されることにより、働き、使う「生産の場」という性能が建物に上書きされた。最後に、ルームAは建具と建具で挟まれることで木造の校舎・講堂といった公的なビルディングタイプに類似し、私有空間でありながらも他者の出入りを許容してくれそうな性格の重ね合わせを行った。

所在地 滋賀県大津市
設計 木村吉成、松本尚子、伊達都/木村松本建築設計事務所
主体構造・構法 木造
基礎 べた基礎
階数 地下階 地上2階
敷地面積 713.11m2
延床面積 179.91m2(容積率25.23% 許容200%)
設計期間 2014年3月〜6月
工事期間 2014年7月〜12月
撮影 田所克庸