「WOOD FURNITURE JAPAN AWARD 2016」グランプリは飛驒産業の「KISARAGI」に決定

森林資源の循環利用への貢献と、日本の木製家具の魅力を国内外にアピールすることを目的とするアワード「WOOD FURNITURE JAPAN AWARD 2016」。その審査結果の発表と展示が2016年3月4日、5日の二日間、東京のスパイラルホールにて開催された。

表彰式と記念鼎談には150名程の関係者が集まり、その注目の高さを感じさせた。また、魅力的な空間デザインはソーシャルメディア等でも話題になり短い会期であったが展示会場は常に活気で溢れていた。

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

応募総数は、既存製品を対象とするセレクション部門が34社61点、メーカーとデザイナーの出会いにより新たな家具作りを目指すマッチング部門が8メーカーと79デザイナー。そこから、セレクション部門では20点が展示対象として選出され、マッチング部門では4プロジェクトが誕生し2点の試作が完成。2016年1月にはパリで展示を行った。

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「誠実な木材」とは何か、考える契機となる受賞結果

これら22点の家具を対象に審査が行われ7点の受賞が決まった。そのうち6点が国産の針葉樹(ソフトウッド)を使った家具で、うち5点は杉を使った家具である。杉については、戦後、大量に植林されたものの適切な管理がなされないことで大きな社会問題となっているのはご存知の通り。

また、広葉樹(ハードウッド)を使った家具とした唯一受賞した「KARIMOKU NEW STANDARD COLOUR WOOD DARK GRID」も端材扱いだった国産小径木を有効活用するブランドだ。結果として、国産材を使った家具で受賞が占められている。

【グランプリ】 KISARAGI(飛驒産業株式会社)
「素材、技術、デザイン、社会問題への視点など様々な側面から見て、代表とするにふさわしい。実物を前にした審査員各自の投票結果も最高点でした」(審査評)

グランプリ KISARAGI(飛驒産業株式会社)

グランプリ KISARAGI(飛驒産業株式会社)

【ソフトウッド賞】 TETSUBO(株式会社クワハタ)
「杉の柔らかさ温かさという特徴を引き出しています。スチールの軽やかなラインと大らかな杉のボリュームの対比も心地よい。デザイナーとして関わった小泉審査員長以外の審査員の多数決により決定しました」(審査評)

ソフトウッド賞 TETSUBO(株式会社クワハタ)

ソフトウッド賞 TETSUBO(株式会社クワハタ)

【ハードウッド賞】 KARIMOKU NEW STANDARD COLOUR WOOD DARK GRID(カリモク家具株式会社)
「国産の小径木の有効活用から桶の構造に着目したのは海外デザイナーならではでしょう。定番のNTや新進のRito Stoolも最後まで議論の対象となりましたが、古くからあるものに着目して新しいものを生み出している点を評価しました」(審査評)

ハードウッド賞 KARIMOKU NEW STANDARD COLOUR WOOD DARK GRID(カリモク家具株式会社)

ハードウッド賞 KARIMOKU NEW STANDARD COLOUR WOOD DARK GRID(カリモク家具株式会社)

【TAKUMI賞】 KURIKOMA(株式会社ワイス・ワイス)/100年杉の椅子(株式会社KOMA)
「柔らかい杉を家具に活かすために、三層の構造体で解決した「KURIKOMA」と、職人の手ざわで解決した「100年の椅子」。両極端な匠が二つあり、どちらか一方のみを選ぶのではなく二つ賞を出すことにしました。また、こうしたアワードにクラフト系が出てくることは少ないが、これも本事業の特徴と言えるでしょう」(審査評)

TAKUMI賞 KURIKOMA(株式会社ワイス・ワイス)

TAKUMI賞 KURIKOMA(株式会社ワイス・ワイス)


TAKUMI賞 100年杉の椅子(株式会社KOMA)

TAKUMI賞 100年杉の椅子(株式会社KOMA)

【マッチング特別賞】 kinoe(飛驒産業株式会社+貝山伊文紀)
「ウィンザーチェアという定番に笠木の小枝で個性を付与するアイデア。森林の問題や木と向かい合うストーリーへの展開。実験的なアプローチではありますが、技術の蓄積と新しい才能の出会いによる最初の一歩を祝福します」(審査評)

マッチング特別賞 kinoe(飛驒産業株式会社+貝山伊文紀)

マッチング特別賞 kinoe(飛驒産業株式会社+貝山伊文紀)

【海外オーディエンス賞】 O-Bath mugen/infinity(檜創建株式会社)
「パリの来場者に最も評価された家具がこのお風呂でした。西洋の方にとって、お風呂が木でできていることは驚きであり、そのフォルム、加工技術などが賞賛を集めました」(審査評)

海外オーディエンス賞 O-Bath mugen/infinity(檜創建株式会社)

海外オーディエンス賞 O-Bath mugen/infinity(檜創建株式会社)

これら受賞結果と、選出されたセレクション部門20点の家具、メーカー主体で進めたマッチング部門を振り返り、小泉審査員長は総評で以下のように言及している。
「日本の国土は三分の二が森林です。長年、木の道具や建物をつくってきた日本人は、木に対する付き合い方が独自で、優れた技術を培ってきました。本アワードは、こうした技術とデザインを「家具」を通して知ってもらう事業でした」
「こうして展示された家具を拝見し事業全体を振り返ると、事業立ち上げ当初からの問題意識である「誠実な木材」について、ささやかながらの回答を示すことができたのではないかと感じています」

木材、技術、デザインを軸にマーケット視点を加味した審査

展示初日、22点の家具を前に審査員が集合し、一点一点について説明を受けることから審査会は始まった。審査の観点は、木材、技術、デザインの三つを主軸に、価格を含めたマーケットへの適合なども加味したもの。各人が現物を前に採点しそれを元に討議することで各賞を決定した。

パリ展で審査を終えている小泉審査員長を除く4名の審査員は、事務局より説明を受けながら審査を行った

パリ展で審査を終えている小泉審査員長を除く4名の審査員は、事務局より説明を受けながら審査を行った

記念鼎談「日本の家具、デザインにできること」

「WOOD FURNITURE JAPAN AWARD 2016」に選出された木製家具をデザインした川上元美氏、榎本文夫氏と小泉誠氏による記念鼎談が展示初日の表彰式に続いて開催された。それぞれが手がけた杉の椅子を題材に、国産材、特に杉についての問題意識を共有し意見を交換。構造を鉄に委ね杉の温かさを座面に活かした「TETSUBO」、圧縮によって強度を出した杉柾目圧縮材を使った「KISARAGI」、三層の構造で解決した「KURIKOMA」と、三者三様の杉へのアプローチをもとにして、各人のデザインの考え方をうかがうことができた。

「KISARAGI」を手にその特徴を説明する川上氏(中央)、左は小泉誠氏、右は榎本文夫氏

「KISARAGI」を手にその特徴を説明する川上氏(中央)、左は小泉誠氏、右は榎本文夫氏

空間デザイン、コンセプトは「bunshi / 分枝」

家具を引き立て、来場者を魅了した空間デザインは、パリに引き続きエマニュエル・ムホー氏によるもの。様々な樹種を表す色とりどりの小枝に彩られた大空間に、来場者からは感嘆の声が聞かれた。また、「なぜ二日だけなのか?」「巡回して欲しい」などの感想を聞くこともできた。来場者アンケートの結果によると、スパイラルホールという容積を最大限に活用した圧倒的な規模のインスタレーションに感動し、日本の木製家具についての理解が深まったという声が多かったそうだ。

口コミの広がりからか、表彰式やレセプションを行った初日よりも二日目の来場者がはるかに多い状況となり、閉場時間となっても去りがたい来場者は思い思いに写真を撮るなど名残惜しんでいた。

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

Copyright: WFJA2016 / design: emmanuelle moureaux / photo: Daisuke Shima (Nacasa & Partners)

この展示、残念ながら巡回はしないそうだが、展示された家具の情報や展示の様子をまとめたドキュメントブックは公式サイトからダウンロードできる予定とのこと。
WOOD FURNITURE JAPAN AWARD 2016
(山崎)