作品を“つくること”ではなく、“見せること”に視点を置いた作家「竹岡雄二 台座から空間へ」

作品を“つくること”ではなく、“見せること”に視点を置いた作家「竹岡雄二 台座から空間へ」

埼玉県立近代美術館で開催されている、ドイツ在住の芸術家・竹岡雄二さんの作品はちょっと変わっている。いわゆる洋画や日本画、彫刻などが“作品”であると思っている人にとって、常識を覆す作品を彼は約30年間突き詰めて制作してきた。

竹岡さんが注目したのは、作品を“見せる”際に必要となる「台座」の存在だ。台座そのものをモチーフとし、厳選された素材や形、色彩で制作。そうしてつくられた台座は、不思議なことに彫刻的な雰囲気をまとった作品としてあらわれる。制作が進むにつれ、ガラスケースやショーケース、棚など、陳列するための仕組みをモチーフとした作品に加え、陳列のための空間に眼を向けた制作を手がけていく。こうして“見せること”を探るために台座から始まった問いかけは、展示される空間・場所・環境へとひろがっていった。

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《インターナショナル・アート・マガジン・ラック》1997年/個人蔵:カラフルな色彩で構成されたマガジン・ラック。彩度が高い色ばかりを使わないところに、竹岡さんのセンスがうかがえる

本展は日本で彫刻を学んだのち、26歳の時にドイツにわたった竹岡さんの約30年間の活動を、20点あまりの代表作で振り返るものだ。一目見た時に、「えっ、これが作品なの!?」と一瞬思うが、その形や色の使い方、ギリギリまで要素をそぎ落とされた作品の佇まいに惹かれてしまう。“つくること”ではなく、“見せること”に視点を置いた唯一無二の作家の片鱗をこの記事で紹介する。

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(写真左)《無題》1996年/マンツ・コレクション,シュトゥットガルト:中に実は何か入っているのではないか…?という気持ちになるガラスケースの台座

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《オレンジの台座》2000年/個人蔵:オレンジ一色でつくられた台座。余計なものが一切ない佇まいは、とても堂々としています

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《カラヴァッジョ》2007年/個人蔵:壁につけられたまるごと真鍮でできた作品。波のようなラインに思わず触れたくなる

本展は今年1月から3月まで大阪の国立国際美術館で開催されたが、巡回先の埼玉では埼玉県立近代美術館と埼玉県川島町の遠山記念館の2館により、同時開催されている。遠山記念館では6点と作品数は少ないものの、遠山邸という和風建築を舞台に、またちがった空間を楽しめるだろう。また、埼玉県立近代美術館では今回の展示からドローイング15点も特別出品されている。作品に込められたコンセプトが伝わってくるので、お見逃しなく。

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《クリーン・ルーム・ジャパン》1997/2016年/作家蔵:展示作品のなかでひと際大きく、存在感がある一点。作品単体というよりは、作品と空間、見る人の関係性について考えられたような作品

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《プロトタイプ-クリーン・エアー・ルーム》のプラン 1991年/作家蔵:きれいな空気を提供する部屋を構想したドローイング

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《七つの台座》2011年/国立国際美術館蔵:角が丸まった四角い台座や丸形のものなど、形状を突き詰めた7つの台座

余計なものを一切そぎ落とし、自分の思う道を追求しつづけた竹岡さん。展示作品を見ていると、派手な仕掛けや飾りなどは作品に必要ないのではないか?もっと自分の考えをシンプルにできるかもしれない…と原点回帰させてくれるようなものばかりだった。日本の美術館では初個展で、これだけの規模で竹岡さんの芸術が紹介されるのはとても貴重な機会だ。会期は9月4日まで、お早めに足を運んでいただきたい。

石田織座(JDN/デザインのお仕事)

■竹岡雄二 台座から空間へ
会場:埼玉県立近代美術館
会期:2016年7月9日(土)~9月4日(日)
時間:10:00~17:30(入場は閉館30分前まで)
http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=333