デザインの、その先を展望する―「台湾デザインウィーク2025」「IASDR2025」現地レポート(2)

[PR]
デザインの、その先を展望する―「台湾デザインウィーク2025」「IASDR2025」現地レポート(2)

教育、公共、未来……デザインの実践と研究が交差したIASDR基調フォーラム

台湾デザインウィークと同時開催され、世界中のデザイン研究者が4日間にわたり議論を繰り広げた「IASDR2025」。同会議は20年前に台湾で初開催され、その後世界各地を巡り、2023年のミラノ開催を経て再びこの地に戻ったかたちだ。

本レポートでは、各日の冒頭でおこなわれた基調フォーラムのうち、「Public / Industry Keynote: Achieving Design Impact at National Level」の概要と「Technology Keynote: Aesthetics of Intelligence」の一部を紹介する。

台北のカルチャースポット、松山文創園区に設定されたIASDR会場

まず「Public / Industry Keynote」では、TDRIの院長であるChi-Yi Chang氏が、過去TDRIが携わってきた公共事業を紹介。台湾各地の小中学校におけるデザイン改革、台湾の23地域における都市デザイン、そして選挙システムのリデザインについてスピーチをおこなった。

台湾の教育現場へのデザインの導入は、ちょうど新しい学習指導要領が導入された時期にはじまった。新課程に対応できる学習環境が求められるタイミングで、デザイナーが学校に入り、教師や生徒とも連携しつつ空間をデザイン。グループ学習や生徒の主体性を促進する環境をつくりあげた。その後の対談では、若い世代が大学入学前からデザインに触れ、学ぶ機会をつくることの重要性が話された。

台北の小中学校「New Taipei Municipal Qingshan School」における童軍(ボーイスカウト運動)教室のリデザイン事例

都市デザインにおいては、特に保守的になりがちな政府組織の役人たちをいかに巻き込んでいったのかという問いに対し、自治体職員向けにおこなったデザイン思考のワークショップについてChang氏が説明。縦割りの行政組織において、壁を超えた協力を促し、プロジェクトをデザイン視点で統合していく作業がおこなわれたという。

左からTDRI院長・Chang氏、オランダのアイントホーフェン工科大学 工業デザイン学部長・Lin-Lin Chen氏

また、選挙システムのリデザインについて、対談相手のアイントホーフェン工科大学教授・Lin-Lin Chen氏が「選挙という台湾のすべての市民が体験する行事にデザインを持ち込むということは、デザインを一部の特権階級のものとするのではなく、市民の生活の一部とする意図があるのか?」と問うと、「その通りだ」とChang氏。デザインは社会のため、都市のため、台湾を救うためのものであるべきだと答えた。

左から、台北市コンサルタントTe-Chuan Li氏、バージニア工科大学 建築・芸術・デザイン学部長・Lu Liu氏、Chi-Yi Chang氏、シンガポール国立大学 インダストリアルデザイン学科長・Cees de Bont氏、Lin-Lin Chen氏、台湾の国立清華大学 芸術デザイン学系 教授・Fang-Wu Tung氏

さらに「デザインを通じた国力の向上」へと話題は移り、バージニア工科大学で建築・芸術・デザイン学部長を務めるLu Liu氏は、台湾の産業界や社会におけるデザインの評価が確立されていない現状と、経済へのインパクトが目に見える数字として表れていないことを課題として挙げた。

また、地域によって国家レベルのデザイン組織の有無は分かれるが、そもそも国家や政府組織によってデザインがなされるべきか、企業の内部にデザインが組み込まれるべきかといった問いも生まれるなかで、国家機関の役割は「政策」と「企業文化」の橋渡しにあると語った。

「Design Next」とは何か?科学技術の観点から答える

3日目の基調フォーラムのテーマはテクノロジー。驚くべきスピードで進化し続けるAIをはじめとしたテクノロジーに対し、私たちはどのように従来のままの身体性を統合していくべきか、また、もはや人間の理解が追いつかない領域まで発達する技術に対し、いかに美的価値を見出すかといった議論がなされた。

左から、国立台湾科技大学のデザイン科准教授であるRung-Hui Liang氏、コンパル・エレクトロニクス社のSVPであるShiKuan Chen氏、アイントホーフェン工科大学 工業デザイン学部 正教授のStephan Wensveen氏、オランダのデルフト工科大学 工業デザイン工学科 教授のPeter Lloyd氏、TDRIの研究開発担当副院長であるShyhnan Liou氏

そのうえで、最後にIASDR2025のテーマである「Design Next」について問われると、パネリストとして登壇したコンパル・エレクトロニクス社のShiKuan Chen氏、TDRIのShyhnan Liou氏、国立台湾科技大学のRung-Hui Liang氏の3名は以下のように答えた。(一部を抜粋)

Chen氏「これまでは『規模の経済(大量生産)』のためのデザインに取り組んできましたが、AIと3Dプリンティングのような技術により、一人ひとりのために製品を瞬時につくれる『個の経済』への移行が現実になろうとしています。専門職としてのデザインが、いままでと同じように必要であるかを自問しています」。

Liou氏「AIという新しく強力な『知的エージェント』をどう使うかだけではなく、それによっていかに私たち自身を触発し、『意味のイノベーション』を起こせるか。私はこの可能性を非常にポジティブに捉えています」。

Liang氏「新しい世代が生成AIと共に育つ中で、自分たちの主体性(エージェンシー)をどう保つかが大きな課題です。AIの出力に身を委ねるだけの『危険な状況』をどう避けるか、ポスト生成AI時代の教育が重要になります」。

盛況のなか幕を閉じた「台湾デザインウィーク」「IASDR」

ガラ・パーティの様子

「IASDR」開催3日目の夜には豪華なガラ・パーティが開催された。会場では台湾らしい屋台の装飾や映像を用いた華やかな演出がされ、デザインウィークのキュレーターや関係者、IASDRの登壇者、メディア関係者らが台湾の食事を楽しみながら交流を深めた。

2024年には「AIと人間の創造性を探る」というテーマで開催された台湾デザインウィーク。2025年のテーマ「Design Next」とともに、デザインの切り口から未来を展望し、ますます前進しようとする台湾デザイン界の姿が垣間見れた。

また、今回の運営・実施を担ったTDRIは、産業や社会をより良くするためのデザインプロジェクトを政府レベルで次々と実行してきた。その一方で、デザインの力を専門家だけのものとせず、市民へと広めることで社会全体の発展を目指す姿が印象に残った。地方創生や高齢化社会といった、日本と同様の社会問題を抱える台湾。その動向に今後も注目したい。

台湾デザインウィークInstagram
http://instagram.com/designintaiwan/
IASDR2025
https://iasdr2025.org/
台湾デザイン研究院(TDRI)
https://www.tdri.org.tw/en

取材・執筆:萩原あとり(JDN)