すべてのプログラムが新作、まちの営みに創造性を吹き込む社会的な実験「さいたまトリエンナーレ2016」

すべてのプログラムが新作、まちの営みに創造性を吹き込む社会的な実験「さいたまトリエンナーレ2016」

127万の人々が住まう「生活都市」さいたま市で、世界に開かれた創造と交流の現場をつくりだす国際芸術祭「さいたまトリエンナーレ2016(以下、さいたまトリエンナーレ)」が9月24日から79日間にわたって開催される。テーマは「未来の発見!」。開幕まで約半年と迫った3月25日に記者発表会が行われ、ようやくその全貌が明らかになった。

DSC00279

事業構成・コンセプト

「さいたまトリエンナーレ」は、与野本町駅~大宮駅周辺、武蔵浦和駅~中浦和駅周辺、岩槻駅周辺の3つの主要エリアで展開。ディレクターが直轄し、先進的な活動を展開する国内外のアーティストによるインスタレーション、映像や、演劇・ダンス・パフォーマンスなどの身体表現を主な手法とするプロジェクトなど、さまざまなアートプロジェクトが市内各地で展開される。そのほかの実行委員会主催事業としては、地質、植生、気象、歴史、文化など多方面から、さいたま市を横断的、即地的に見渡す地域研究を行う「さいたまスタディーズ」がある。

info-map-j

また、さいたま市実施の関連事業として、開催テーマ「未来の発見!」に沿った演劇、音楽、パフォーマンス公演やアート作品の展示を行う公募型のプロジェクトを実施するほか、市内の文化芸術団体などと相互協力・連携して、プロジェクトを展開する。

このトリエンナーレのユニークさ、あるいは取り組みの新しさは、その場所性にある。これまでの多くの芸術祭は、都市かあるいは少々辺鄙な土地において展開されてきたものが多い。ここで、ディレクターの芹沢高志のメッセージを引用する。

“まちとはただの建物や道路の集積ではなく、歴史や文化といった時間的な過程をも含めた、人々の営みの総体です。その意味で、私はこのトリエンナーレを「ソフト・アーバニズム」=「柔らかな都市計画」と考えたい。文化、芸術を核として、まちの営みに創造性を吹き込むための社会的な実験です”

「ソフト・アーバニズム」=「柔らかな都市計画」がまさに肝となる部分だろう。日本有数の生活都市さいたまの特徴の異なる3つのエリアで、このトリエンナーレが終わった後にどのような取り組みを残せるかに注目が集まる。

キービジュアルを担当したのはさいたま市出身の野口里佳

キービジュアルを担当したのは、さいたま市の見沼区で生まれ育った写真家・野口里佳。ここに写されているのは、さいたま市を流れる多くの川のうちの一本、芝川だ。

野口里佳撮影の芝川の写真をキービジュアルとして使用した 「さいたまトリエンナーレ」のポスター

野口里佳撮影の芝川の写真をキービジュアルとして使用した
「さいたまトリエンナーレ」のポスター

ディレクターの芹沢高志は、野口里佳が撮影した一枚に対して、こうコメントしている。

”なんでもない風景が見たこともない神秘性を露わにし、忽然と輝きはじめる。これこそ、私がアートに求める力そのものであり、魔術的と言ってもいい。川はいつもそこにあり、こんな瞬間があることさえ、多くの人は気づかない。静寂と予感に満ちた一瞬の表情。これに気づくことこそ、私が想う「未来の発見!」に他ならない”

何でもない風景に見過ごされた美しさを捉える力は確かに魔術的だ。この静かな存在感はトリエンナーレのイメージを決定づけるように思える。

また、タムくんことウィスット・ポンニミットが描く、マムアンちゃんはさいたまトリエンナーレ公式ウェブサイトのマスコットキャラクターとして登場。マムアンちゃんのイラストを随所に展開し、展示会場をつなぐサインとして機能させる。先日の記者会見まで、なかなか全容があらわにされなかったさいたまトリエンナーレだが、マスコットキャラクターのおかげで一気に親しみやすさも倍増した。

ウィスット・ポンニミットが描く、さいたまトリエンナーレ公式ウェブサイトのマスコットキャラクター「マムアンちゃん」

ウィスット・ポンニミットが描く、さいたまトリエンナーレ公式ウェブサイトのマスコットキャラクター「マムアンちゃん」

現在のところ、およそ40プログラムを展開予定。そのすべてが新作となる。アーティストはさいたま市に訪れてリサーチしたうえで、ディレクターと話し合いを重ねてひとつずつを丁寧につくっていく。各エリアの特徴とどのようなプログラムが展開される予定か紹介する。

特徴の異なる3つの展示エリア

■与野本町駅〜大宮駅周辺
参加アーティスト:チェ・ジョンファ、岡田利規、大友良英など
さいたま新都心駅周辺のほか、彩の国さいたま芸術劇場など、広域的に集客できる機能があり、流れる時間が早い。それを逆手に、常設の会場を設けつつ、エリア全体に恒常的ではない大型のアートイベントを点在させる手法を取っていくそう。

チェ・ジョンファ: 展示(インスタレーション)

チェ・ジョンファ: 展示(インスタレーション)

大友良英「千住フライングオーケストラ」:音楽ライブなど

大友良英「千住フライングオーケストラ」:音楽ライブなど

■武蔵浦和駅周辺〜中浦和周辺
参加アーティスト:ダニエル・グェティン、鈴木桃子、髙田安規子・政子など
生活都市さいまたの特徴をよく表したエリア。現在も活発に住宅開発が進む武蔵浦和駅周辺からJR埼京線に沿って歩きはじめ、閑静な住宅地に入り、別所沼公園、中浦和駅に至る散策ルートを設定。とくにルート中盤に位置する4棟の旧埼玉県部長公舎には大きく手を入れて、アート展示と休憩のためのサイトをつくる。

鈴木桃子「Untitled Drawing Project」:パフォーマンス、展示(インスタレーション)

鈴木桃子「Untitled Drawing Project」:パフォーマンス、展示(インスタレーション)

ダニエル・グェティン《THE GO BETWEEN》 © Haus für konstruktive und konkrete Kunst, Zürich; Daniel Göttin, Basel photo: Alexander Troehler :展示(インスタレーション)

ダニエル・グェティン《THE GO BETWEEN》 © Haus für konstruktive und konkrete Kunst, Zürich; Daniel Göttin, Basel photo: Alexander Troehler :展示(インスタレーション)

■岩槻駅周辺
参加アーティスト:目、マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ、アピチャッポン・ウィーラセタクンなど
岩槻駅からおよそ1.5kmのところにある旧埼玉県立民俗文化センターは、東京都市圏外縁を走る国道16号線近くの、今は使わなくなった時間と空間のエアポケットのような魔術的な空間だ。ここを主要展示サイトに選び、圧倒的な非日常空間を創出する。さらに岩槻駅周辺にはアーティスト・イン・レジデンス・プロジェクトの拠点も置き、アーティストが住民と交流しながら触発を得て、作品を制作、展示していく。

目:展示(インスタレーション)

目:展示(インスタレーション)

マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ《Moon Plain》: 展示(インスタレーション)

マテイ・アンドラシュ・ヴォグリンチッチ《Moon Plain》: 展示(インスタレーション)

最後に、「ただ鑑賞するだけでは十分ではない。”俺たちこそ主役、アーティストこそサポーター”と鑑賞者が自ら楽しめるような企画を連発していく」という、総合アドバイザーの加藤種男(公益社団法人企業メセナ協議会専務理事)の熱いコメントでしめたい。

いくつもの芸術祭が開催される2016年、そのユニークな取り組みがどのような影響を及ぼすか楽しみだ。

さいたまトリエンナーレ2016
開催期間:2016年09月24日~2016年12月11日(日)
https://saitamatriennale.jp/