地域・人・ものづくりに触れる「工場の祭典」。イベントを通して成長する、地域としての“おもてなし力”の高さ(2)

地域・人・ものづくりに触れる「工場の祭典」。イベントを通して成長する、地域としての“おもてなし力”の高さ(2)

庖丁工房 タダフサ

家庭用の刃物やプロ用の刃物、蕎麦切り庖丁を多く製造するタダフサ。プロダクトデザイナーの柴田文江さんがデザインを手がけた「パン切り庖丁」が人気で、ブランドロゴを見れば知っていると気付く人も多いかもしれない。

dsc03298

プロダクトデザイナーの柴田文江さんがデザインを手がけた、パン切り庖丁の工程見本

dsc03293

会期中はパンの試し切り体験や、庖丁研ぎ直し教室も行っていた。すべての製品にブランドロゴが入っている

dsc03318

庖丁を成型するシーン。振り下ろされるスプリングハンマー(鍛造機)で徐々に庖丁のかたちに仕上げていく

写真がなくて残念だが、現在入社4年目の星野達也さんはなんと工場の祭典の第1回目に参加したことがきっかけとなって働くことになったそう。「昔はキッチン用品のデザインをしていたのですが、つくるほうに興味があって。工場の祭典で中の様子を見学でき、入るきっかけをもらいました」という星野さん。現在はベテランの職人だけでなく、若い職人も多く働いているそうだ。若いパワーにも圧倒されるが、2代目の忠一郎さんが作業を行う場面では、来場者から感嘆の声があがっていた。

dsc03352

柄入れという、刃と持つ部分になる柄を合わせる工程。取材時に柄入れをおこなっていたのは、2代目の曽根忠一郎さん。迷いなく木槌を振る様子はとてもかっこいい…!

三条特殊鋳工所

金属を型に流し込んで製品をつくる鋳造(ちゅうぞう)の技術を見学できたのは、世界一軽いホーロー鍋を製造する、三条特殊鋳工所。1961年に創業し、「サントク」の愛称で機械部品などさまざまな鋳物製品を製造している。2014年から自社商品「UNILLOY」の発売を開始した。

dsc03380

自社商品の「UNILLOY」。ほかのホーロー鍋とちがう点は、なんといってもその軽さ。黄色や淡いピンクなどカラーバリエーションも豊富にそろう

dsc03377

鍋の砂型(鋳型)に鉄を流し込むシーンは圧巻。1500℃の鉄は水よりもさらさらだという

撮影NGの工程もあったので全部はお届けできないが、金属を流し込むシーンでは来場者のほぼ全員が驚きの声とともに写真を撮影していた。

dsc03362

今回のメインビジュアルに使われた工場ということもあり、たくさんの来場者が列をなしていた

ヤマダガレージ

めったにできない自動車の塗装体験を行っていたヤマダガレージ。事故などで破損した自動車のへこみや変形した部分を復元してから、自動車と同じ色の塗料を調合して塗装し、きれいな状態に直している。新車のような色を再現するために、職人は空気中のほこりを抑えた塗装ブース内で作業している。

dsc03391

自動車塗装体験を実施。取材時はちょうど子どもたちが興味津々で体験していた。ピンク色の自動車を白く塗り替えていた

dsc03398

ヤマダガレージ・外観

岡村葡萄園

新潟県=ブドウというイメージはあまりないが、すごくおいしいブドウに出会ってしまった。ウィンクやシャインマスカット、バイオレットキングなど岡村葡萄園が育てるブドウの種類は数多くある。そのなかでも、生産者の岡村直道さんがおすすめしてくれた「ウィンク」は、はじめて聞いた名前だったが、皮のだぶつきがないくらい中身がパンパンにつまっている贅沢感のある一粒だった。

dsc03415

みずみずしいブドウがお出迎え。おいしいブドウの見分け方は、全体的に色味が濃く、一粒一粒が大きいものを選ぶのが吉だという

dsc03419

たくさんの木からブドウがなっているように思えるが、実際は2本の木しか生えていない

dsc03403

生産者の岡村直道さん。「さくら」と名付け、大切に育てている木についても温かい表情で教えてくれた

燕三条駅観光物産センター 燕三条Wing

燕三条駅の改札を出てすぐの場所にある、情報発信拠点。燕三条の観光情報と、優れたデザイン性と高い品質を誇る燕三条産品の展示販売を行っている。駅にこんなに立派な発信スポットがあることはめったにない。町や市をあげてのバックアップ体制を感じた。

dsc03423

三条スパイス研究所

まちの交流の場である公共施設「ステージえんがわ」に併設された、三条スパイス研究所。東京の押上にある「スパイスカフェ」の伊藤一誠シェフ監修のもと、「スパイス=異なるものをミックスして新しい何かを生み出すこと」という考え方に沿って、街や暮らしを再編集していくことを目指している食堂だ。ここにしかない独自のスパイス料理の提供を通して、訪れる人たちと共に「暮らしの調合」について学ぼうとしている。

dsc03426

あいにくの雨だったが、多くの方が縁側に集まって話をしたり、カフェで買った飲み物を飲んだりしていた

dsc03427

地域の人たちが交流する「ステージえんがわ」にはイベントカレンダーがあり、歌を唄う会や演劇教室、1か月に一度開催される朝市に合わせた朝ごはんを食べる会など、こどもからお年寄りまでさまざまな人が気軽に訪れることができるイベントが記されていた

dsc03434

dsc03437

筆者はタイミングを逃して食べられなかったが、おすすめメニューはターリーセットや、ジンジャースパイスエールなど。すごくおいしいと評判…!

dsc03439

縁側には猫も遊びに来る

工場の祭典の影の立役者である、三条市経済部商工課主任の渋谷一真さんはイベントについて、「第1回目の開催のときは、私たちがお願いして参加してもらった企業もありました。でも年々、参加企業側が“もっと良くしたい”という気持ちが強くなり、来場者にわかりやすいように工程図をつくったり、作業の音で説明が聞こえづらくないようにイヤホンを通して説明をしたりしています。工場の祭典のキービジュアルである蛍光色のストライプTシャツも、最初は『こんなの派手すぎて恥ずかしい…』と言っていた方もいましたが、最近ではイベントがない普通の時に着用している方もいます(笑)。だんだんみんなポジティブに、参加する理由も積極的になってきていて、地域としての“おもてなし力”が上がってきていると実感しています」と、まったく淀みなくイベントについての率直な感想を話してくれた。

難しい点について伺うと、「初年度は各場所への回り方に苦労しました。そこで2回目からはバスツアーを組んで来場者がより回りやすいようにしました。次の第2回の改善点は、宿泊客が少なかったこと。そこで3回目の開催時には夜にイベントやレセプションを設定したりして、2日くらいかけてじっくり回ってもらえるようにしました。そして今回の4回目にはメーカーだけでなく、農家の方やショップの方にも参加してもらい、もっと燕三条のちがう一面を見てもらうことにしたんです」と、話す。すでに工場の祭典は数々のイベントとくらべても「大成功」と言っていいと思うが、現状に決して甘んじず、つねに来場者はもちろん、地域の人たちのことも考えてより良いイベントになるよう考えている姿勢に感銘を受けた。来年も、新陳代謝と成長を続けるこのイベントに期待したい。

工場の祭典
http://kouba-fes.jp/