印刷から加工まで一貫して製造する、東京・立川市に創業して50年以上の福永紙工。2006年からはデザイナーや建築家などと組んだプロジェクト「かみの工作所」では、紙の可能性を追求したさまざまなプロダクトを世に送りだしてきた。「かみの工作所」にとって初となるコンペ、『「ペーパーカード」デザインコンペ2015』が昨年開催された。テーマは「気持ちを伝える」。
同コンペは、これまで「かみの工作所」で製品をつくってきたデザイナー・建築家を審査員に迎え、紙ならではの可能性をより広げたいという想いからスタートしたもので、気持ちが伝わるメッセージカードをデザイナーや学生と一緒につくり、製品化を目指すものだ。
これまで開催前のインタビューと審査会のレポートの2回にわたって取材をしてきた。この記事はいわば成果発表のまとめのようなものだといえる。
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コンペへの応募は約200組、その中から選ばれた”12の提案”を展示する、「気持ちを伝えるペーパーカード展」が「マルノウチリーディングスタイル」で3月22日から4月15日まで開催された。「マルノウチリーディングスタイル」が入店する「KITTE」は、旧東京中央郵便局の局舎を一部保存・再生した施設で、昭和モダニズムを踏襲した外観が特徴的。”「気持ちを伝える」メッセージカード”を展示するにはぴったりの場所だと感じる。
また、『「ペーパーカード」デザインコンペ2015』は前述のとおり、入賞作品の製品化を前提としてきた。今回の「気持ちを伝えるペーパーカード展」では、グランプリ「clink clink」、優秀賞「旅の標本カード」と「星空の封筒」の入賞作品3点が新製品となり、早速会場でお披露目された。「気持ちを伝えるペーパーカード展」期間内に先行発売された。
入賞作品を含む12の提案はどのようなポイントが審査会で評価されたかを少し説明しておくと、製品化を考えたときの伸び代、つまり可能性の部分への評価に重きが置かれている。当然のことながら、紙であることの必然性とコストが見合うかも求められた。また、既存商品に似たものがないかもチェックしながら審査が進められた。
これまで「かみの工作所」にはいくつもの提案の持ちこみがあったが、ブランドを確立することに注力したため門を閉ざしてきた。立ち上げから10年が経とうとしている今だからこそ、間口を広げるきっかけとして同コンペをスタートしたが、審査結果発表から製品化までの短い期間には試行錯誤と苦労があったそうだ。
基本的には入賞した3点は作家自身がブラッシュアップしていくのだが、福永紙工側でサポートしたのは製品化までの道筋を立てること。つまり、それぞれのペーパーカードが持っているメッセージを伝えるための調整作業だ。紙の選定、印刷加工の技術などでのサポートはもちろんだが、コストの部分や、売り場での見え方など、売っていくときの「価値づけ」の部分での話し合いを重ねた。
上記のようなプロセスを経て、これまでの「かみの工作所」とはひと味違う3製品が誕生した。先行発売での売れ行きはかなり好調な模様。
「ペーパーカード」デザインコンペ2015 グランプリ受賞
「Clink Clink (クリンク クリンク)」
デザイン:八谷英俊・八谷友子
ガラスのような手触りの、紙でできたメッセージボトル。メッセージをつめ込んで、ポストに投函する。「あたらしいしらせ」(Salty white)、「うれしいきもち」(Coral pink)、「すなおなおもい」(Jade green)の3色展開。
中身が見える透ける素材としてトレーシングペーパーを使っているため、印刷する色を決めるのに苦労したそう。ベタで印刷にするか、グラデーションで印刷するかに、製版ギリギリのタイミングまで迷い、グラデーションにしようと決めたのは印刷当日だとか。
「ペーパーカード」デザインコンペ2015 優秀賞受賞
「旅の標本カード」
デザイン:進士遙
旅に出て感じた空気や何気ない風景、その発見や驚きを標本のように閉じ込めて送ることのできるカード。採取した日時や場所などを記入できるシールがついていて、ちょっとした演出も気が利いている。いつどういうシーンで購入されるのが良いか?売り方のストーリーを考えるのもおもしろい製品だと思う。
「ペーパーカード」デザインコンペ2015 優秀賞受賞
「星空の封筒」
デザイン:塚田萌
封筒の中をのぞくと、そこには小さなの星空が広がるというロマンティックなもの。塚田さんは京都の大学に通う学生なので、距離的な制約があるなかで製品化が進められた。この作品が審査会で特に可能性の部分を評価されていた。門戸を開いた福永紙工、学生である塚田さん、双方にとって意義のある経験になったのではないだろうか。
“12組の提案”は短い言葉で気持ちを伝えるための工夫にそれぞれ個性があり、「最近どう?」とか「おめでとう」、あるいは旅先の思い出、そういうちょっとしたことをカタチにした時に、紙という物質が持つコミュニケーションを促す力のようなものを感じた。
展示期間内の4月7日には、「ペーパーカードをデザインする」と題された審査員と出展者によるトーク&交流会が行われ、コンペ立ち上げの経緯や製品化までのプロセス、出展者からはコンセプトやこだわりのポイントなどが語られた。
また、「気持ちを伝えるペーパーカード展」の会場では12組のペーパーカードの人気投票を実施。投票結果は4月末頃に「かみの工作所」のサイト上で発表される予定だ。会場の展示構成は「かみの工作所」のディレクターのswitch designが担当、投票用紙を天井から吊るして華やかな空間演出に。会場内にはポストも設置され、購入したカードをその場で送ることができるような工夫もされている。
昨年の6月にコンペで作品募集を開始してから約10か月、ここでいったんプロジェクトはひと区切りとなる。今後の製品化の可能性や、次回のコンペの開催などは未定だが、10年走り続けてきた「かみの工作所」のこれからにも期待したい。
瀬尾陽(JDN編集部)
「ペーパーカード」デザインコンペ2015
http://www.kaminokousakujo.jp/compe2015/