「かみの工作所」による初のコンペ開催、「気持ちを伝える」メッセージカードの製品化を目指して

「かみの工作所」による初のコンペ開催、「気持ちを伝える」メッセージカードの製品化を目指して

印刷から加工まで一貫して製造する、東京・立川市に創業して50年以上の福永紙工。2006年からはデザイナーや建築家などと組んだプロジェクト「かみの工作所」では、紙の可能性を追求したさまざまなプロダクトを世に送りだしてきた。多くのファンを持つ「かみの工作所」にとって初となるコンペ、「ペーパーカード」デザインコンペ2015が今夏開催された。テーマは「気持ちを伝える」。

同コンペは、これまで「かみの工作所」で製品をつくってきたデザイナー・建築家を審査員に迎え、紙でしかできない可能性をより広げたいという想いからスタートしたもので、気持ちが伝わるメッセージカードをデザイナーや学生と一緒につくり、製品化を目指すものだ。

今回の募集で届いた作品数は約150点。整然と並べられた

今回の募集で届いた作品数は約150点。整然と並べられた

まず、「かみの工作所」がはじめてのコンペを開催した理由について、以前に福永紙工の山田明良氏と山田祥子氏に行ったインタビューから抜粋してお伝えする。

「コンペという形をとっていますが、今まではブランドを確立させることに必死だったので、持ち込みもいっさい閉ざしていました。でも、立ち上げから10年が経とうとしている今だからこそ、そろそろ間口を広げる話をかみの工作所プロデューサー萩原修さんともしていて。あえてストライクゾーンを広げることで、可能性も広がるのではないかと考えたんです」

かみの工作所プロデューサー萩原修氏(左)と山田明良代表取締役(右)

かみの工作所プロデューサー萩原修氏(左)と山田明良代表取締役(右)

【関連記事】紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い
https://www.japandesign.ne.jp/interview/150729_kaminokousakujo.html

審査員は、前述のとおり「かみの工作所」と縁の深い、デザイナー・建築家を中心とした9組。萩原修氏(かみの工作所プロデューサー・審査委員長)、スイッチデザイン(かみの工作所ディレクター)、寺田尚樹氏(建築家)、鈴野浩一氏(建築家)三星安澄氏(グラフィックデザイナー)、和田恭侑氏(ペーパークラフト作家)、粟辻美早氏(グラフィックデザイナー)、山野英之氏(グラフィックデザイナー)、宮田泰地氏(福永紙工・紙工ディレクター)。

真剣に作品を審査する山野英之氏

真剣に作品を審査する山野英之氏

今回の募集で届いた作品数は約150点。審査会場に全作品が一堂に介した時のエネルギーは筆舌につくしがたい。作者の「想い」が浮かび上がってくるようだ。

審査会はおおよそ以下のような手順に沿って進められた。まず審査員それぞれが10作品程度に付箋を貼って選んでいく。ここまでおおよその1次選考になる。そこから付箋がついた作品を別のテーブルに移し、審査員同士で作品について意見を交わし、投票を繰り返しながらの選考となった。

審査員それぞれが10作品程度に付箋を貼って選んでいく

審査員それぞれが10作品程度に付箋を貼って選んでいく

ここで面白いのが票を多く集めた作品が、必ずしも最終的に受賞作品にならない点だ。逆に意見交換されるうちに頭角を現してくる作品もある。最初におおまかに選んだ時点では、仕掛けやグラフィックの部分で目を引くものに票数が集まりがちだが、応募者なりのテーマへの読み解き、「かみの工作所」からリリースする意義、そして製品化を念頭に置いているのでコスト面など、さまざまな角度から協議され審査されるのだ。

グランプリおよび優秀賞の決定は少々難航。忌憚なく意見が交わされた

グランプリおよび優秀賞の決定は少々難航。忌憚なく意見が交わされた

実際のところグランプリおよび優秀賞の決定は少々難航した。審査員それぞれが「かみの工作所」への「想い」を持ち寄ったためだろう。しかし忌憚なく意見が交わされる様子は、新しい製品が生まれる前段階を楽しんでいるようにも見えた。その雰囲気を少しでも伝えるため、個人的に気になった(はっとさせられた)意見やコメントを紹介したい。それぞれの立場で着目する視点が異なるのが印象的といえる。

「紙をレザーカッターで加工するのはめずらしくなくなりました。だからこそもうひとつアイデアが求められる。気持ちを伝えるには、”ウィット”とか”ロマン”みたいなものも必要」(寺田尚樹氏)

「もらってうれしいものであるのと同時に、送る側に少しの手間やつくる行為が発生するとおもしろいと思う」(和田恭侑氏)

「シリーズになりうる可能性はけっこう大事。シンプルでそれだけで成立するおもしろさに注目している」(鈴野浩一氏)

「届いた時のグラフィックの美しさに加えて、かんたんな仕掛けで伝わるものが良いですね」(山野英之氏)

「紙を加工することで何が伝えられるか?ではあるけれど、製品化するためにはグラフィックデザインの力も問われると思います」(萩原修氏)

「不器用な人でもつくれたり、送った時に壊れないとか、そういった点もトータルでクリアしたおもしろさを評価したい」(宮田泰地氏)

「お店で見た時にどれだけの人が喜ぶか?売れなくても驚きのあるものも欲しい。売る立場からすると、魅力があれば価格設定が高くても可能性はある」(山田祥子氏)

「かみの工作所」らしさ、これからの可能性、それらを鑑みた結果は皆が納得のいくグランプリと各賞が決定した。審査結果は以下のとおり(敬称略)。

■グランプリ「clink clink 」八谷英俊/八谷友子

グランプリ「clink clink 」

グランプリ「clink clink 」

■優秀賞「旅の標本カード」進士 遙
■優秀賞「星空の封筒」塚田 萌

優秀賞「旅の標本カード」(左)、優秀賞「星空の封筒」(右)

優秀賞「旅の標本カード」(左)、優秀賞「星空の封筒」(右)

■萩原 修 賞「コトバ缶」Papermania & ko.
■スイッチデザイン 賞「キモチのしゃぼんだま」加藤 彩香
■寺田 尚樹 賞「夜に届く手紙」アオミドリ(小名木 哲・江原 理紗)

萩原 修 賞「コトバ缶」(左)、スイッチデザイン 賞「キモチのしゃぼんだま」(中)、寺田 尚樹 賞「夜に届く手紙」(右)

萩原 修 賞「コトバ缶」(左)、スイッチデザイン 賞「キモチのしゃぼんだま」(中)、寺田 尚樹 賞「夜に届く手紙」(右)

■鈴野 浩一 賞「an innocent dog」 菅井 好恵
■三星 安澄 賞「ふつうはがき」 神崎 奈津子
■和田 恭侑 賞「紙を織る」KANTARO

鈴野 浩一 賞「an innocent dog」(左)、三星 安澄 賞「ふつうはがき」(中)、和田 恭侑 賞「紙を織る」(右)

鈴野 浩一 賞「an innocent dog」(左)、三星 安澄 賞「ふつうはがき」(中)、和田 恭侑 賞「紙を織る」(右)

■粟辻 美早 賞「ichirin」人見 久美子
■山野 英之 賞「Egg」熊谷 英之 (イラスト:熊谷奈保子)
■宮田 泰地 賞「Peel so good」薄上 紘太郎

粟辻 美早 賞「ichirin」(右)、山野 英之 賞「Egg」(中)、宮田 泰地 賞「Peel so good」

粟辻 美早 賞「ichirin」(右)、山野 英之 賞「Egg」(中)、宮田 泰地 賞「Peel so good」

後日、福永紙工で受賞者と製品化に向けた面談が行われ、今後のスケジュール、お披露目となる展示場所の候補などが伝えられた。

グランプリを受賞した八谷英俊さん/八谷友子さんには、製品コンセプトや、製品化に向けた意気込みなどを伺った。おふたりは夫婦であり、プロダクトデザイナーとしてそれぞれ東京と大阪で働かれている。頻繁にメールのやりとり、週末にプロトタイプを持ち寄って制作を進めたという。

面談では製品コンセプトや展開の仕方などについて意見が交わされた

面談では製品コンセプトや展開の仕方などについて意見が交わされた

「福永紙工さんは本当におもしろいことをされているので、これは応募するしかないと僕から提案しました。でも、アイデア段階でけっこう迷ってしまい、ギリギリまで時間がかかってしまいました。やっぱり最終的にふたりで納得したのが、今回のテーマである「気持ちを伝える」の部分です。想いのこもったメッセージをだということを伝えられるかどうか、という点ですね。実際に製品になることを考えると、まだ細かいところの調整は必要なので、皆さんからアドバイスをいただきながらつくっていきたいです」(八谷英俊さん)

「アイデアは5つくらいあったのですが、今回の応募作の「clink clink」以外はもっと押しが強かったんです。「clink clink」はポストに入って素直に「わあ、うれしいな」と思えるものを目指しました。カードの有り様として「ちょうどいいね」と思える落としどころを探すのが難しかったです。ふだん、紙のデザインに関わっていないので無知な部分もありますが、ほかの形やカラーなどのアイデアもあるので、このあとも色々と試してみようと思っています」(八谷友子さん)

これから年内いっぱいパッケージも含めたブラッシュアップを重ねていく。かみの工作所のディレクター・スイッチデザインからのサポートもあるが、基本的には受賞者が責任を持ってデザインをする。

いよいよ製品化に向けて動き出した本プロジェクト。幾度かの試作と検証を重ねて、2月には製造を開始する。そして世にお披露目されるのは3月。かなりのハイペースで進んでいく。コンペの受賞を経て、どのように世に出ていくのか、この流れを引き続き追っていきたい。

「ペーパーカード」デザインコンペ2015
http://www.kaminokousakujo.jp/compe2015/