写真についてなにかを語ることは本っっ当に難しい。と、いつも思う。
撮影者が被写体と対峙した時間でしかつくりえない、とてもパーソナルな表現だと感じるからだ。そこに写っているものが読み取れるか?そう問われているような気分にさせられることも多々ある。だからこそ(というのも変だけれど)、敢えて言いたいのは柿本ケンサク氏の写真がとても好きだ。
学生時代から、映画、CM、ミュージックビデオなどで助監督を経験し、中野裕之監督と共に映像制作集団「ピースブラザース」の末っ子として活動してきた柿本ケンサク氏。彼にとって初の個展となる「柿本ケンサク『Translator』展」が、代官山ヒルサイドフォーラムで1月31日まで開催されている。
柿本氏の個展が開催されることを知ったとき、すわ膨大なフィルムワークを集めた展示になるのかと思った。しかし、「Translator」と名づけられた同展に並んでいるのは、静かで柔らかな空気をまとった写真の数々だ。
この5年間で柿本氏が撮影してきた写真は数万点(!)。年間の1/3近くも海外を飛び回り、超がつくほど多忙な仕事の合間にライフワーク的に撮りためていたことはちょっとした驚きだ。
柿本氏は自身の写真表現について、「自分は地球の血液のような感覚でいる、言葉では表現できない空気、体温、感情を切り撮ることを大切にしたい」と語る。
的確なフレームワークや、光の捉え方の巧みさなど、数々のCMディレクションを手がけてきた経験と照らし、テクニック面について語れることはきっといくつもあるだろう。しかし、それよりも個人的に伝えたいのは、自然がつくる圧倒的な美しさへの純粋な驚き、人々の暮らしの痕跡やそこからこぼれ落ちるユーモア、柿本氏の眼差しを通して「translate(翻訳)」された写真は、昔好きだった映画のワンシーンのようにも思えてくる。写真家としての柿本氏は強烈な個性を放つタイプではなく、軽やかに世界をまっすぐ見つめている、そんな印象を受けた。
作家が過ごしたある日ある時を、図らずもドキュメントするおもしろさが写真にはある。もしかしたら、今後は対峙する被写体が変わっていくかも知れない。もう二度とない「初」の展覧会は注目です。
■柿本ケンサク『TRANSLATOR』展
http://www.hillsideterrace.com/art/160116.html