2015年のグッドデザイン大賞、時代の変わり目を強く意識させる結果に

2015年度グッドデザイン大賞のパーソナルモビリティ「WHILL Model A」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2015年11月4日、2015年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)が発表された。受賞したのはパーソナルモビリティ「WHILL Model A」。「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」という一人の車いすユーザーの言葉から開発が始まったそうだ。スマートな外観が与えられ、誰しも乗ってみたいと思える新しい乗り物という印象で、東京モーターショーでの試乗ブースもとても賑わっていた。

パーソナルモビリティというと、大手自動車メーカーも手掛け、大規模な社会実験も行われているので、単に新しい分野のプロダクトが受賞したのだな、と感じるかもしれない。だが、今年の結果は今までとは明確に違い、時代の変革さえ予感させるものだったと思う。

その理由の一つは、受賞したWHILL株式会社が2012年創業のベンチャー企業であること。そして、大賞選考において次点となったのはexiii株式会社の電動義手「HACKberry」で、こちらも2014年創業のベンチャーであることだ。そして、それぞれの創業メンバーが日産自動車、ソニー、オリンパス、パナソニックという日本を代表するメーカーを経て起業しているという、彼らのプロフィールにも共通項がある。

2015年度グッドデザイン大賞の選出において次点となった電動義手「HACKberry」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2015年度グッドデザイン大賞の選出において次点となった電動義手「HACKberry」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

グッドデザイン大賞とは、その年の象徴として選ばれるデザイン。選出された候補を対象に審査委員や展示観覧者の投票によって決まるので、デザインに関心を持つ人々の集合意識の反映ともいえる。過去の大賞を振り返ると、受賞しているのは大企業や公共的な事業がほとんど。広く共感を得るデザイン、広く影響力を持つデザインは、やはり大きな資本や組織の方が作りやすいということか。

今年の結果は、小規模で歴史が浅くても、今までとは別な方法で共感を集められることを示している。それはたとえば、テクノロジーやデザインを突破口にした新規事業、クラウドファンディング、個人的な思いやデータの共有、最大公約数的な基本を作りながら個別最適も可能にする製品の考え方、等。さらに言えば、グッドデザイン賞のような顕彰制度を利用して、広報やブランディングを効果的に行う手法も含むだろう。

大賞が車いすで、次点が義手という、いずれも社会問題の解決を志向するデザインであったことも重要な視点だ。この種の製品はいつの時代も一定のニーズはあるものの、大きな市場とは言えず、また利用者一人ひとりに応じたカスタマイズが必須なため、ビジネスの対象として見ると簡単とはいえない。そのため、大企業の参入や製品の革新が遅れている分野となっている。

そこに挑んだ若者たちが見事に評価を得た今年の結果。様々な側面で、デザインが、そして私たちの社会が変革の途上にあることを示している。

比較のために、これまでの大賞を振り返ってみよう。

2014年 株式会社デンソー+株式会社デンソーウェーブ、産業用ロボット

2014年度グッドデザイン大賞の株式会社デンソー+株式会社デンソーウェーブ「産業用ロボット」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2014年度グッドデザイン大賞の株式会社デンソー+株式会社デンソーウェーブ「産業用ロボット」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2013年 大賞は該当無し、グーグル株式会社のGoogle マップが「グローバルデザイン2013」というタイトルを受賞

2013年度グローバルデザイン2013のグーグル株式会社「Google マップ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2013年度グローバルデザイン2013のグーグル株式会社「Google マップ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2012年 日本放送協会、テレビ番組デザインあ

2012年度グッドデザイン大賞の日本放送協会のテレビ番組「デザインあ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2012年度グッドデザイン大賞の日本放送協会のテレビ番組「デザインあ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2011年 本田技研工業株式会社、カーナビゲーションシステムによる情報提供サービス 東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」

2011年度グッドデザイン大賞の本田技研工業株式会社、カーナビゲーションシステムによる情報提供サービス 東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2011年度グッドデザイン大賞の本田技研工業株式会社、カーナビゲーションシステムによる情報提供サービス 東日本大震災でのインターナビによる取り組み「通行実績情報マップ」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2010年 ダイソン株式会社、エアマルチプライアー

2010年度グッドデザイン大賞のダイソン株式会社「エアマルチプライアー」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2010年度グッドデザイン大賞のダイソン株式会社「エアマルチプライアー」、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2009年 株式会社ワークヴィジョンズ+岩見沢レンガプロジェクト事務局、岩見沢複合駅舎

2009年度グッドデザイン大賞の株式会社ワークヴィジョンズ+岩見沢レンガプロジェクト事務局、岩見沢複合駅舎

2009年度グッドデザイン大賞の株式会社ワークヴィジョンズ+岩見沢レンガプロジェクト事務局、岩見沢複合駅舎、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2008年 トヨタ自動車株式会社、iQ(アイキュー)

2008年度グッドデザイン大賞のトヨタ自動車株式会社、iQ(アイキュー)

2008年度グッドデザイン大賞のトヨタ自動車株式会社、iQ(アイキュー)、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2007年 三洋電機株式会社、eneloop universe products(ソーラー充電器セット、USB出力付充電器セット、充電式カイロ、充電式ポータブルウォーマー)

2007年度グッドデザイン大賞の三洋電機株式会社、eneloop universe products(ソーラー充電器セット、USB出力付充電器セット、充電式カイロ、充電式ポータブルウォーマー)

2007年度グッドデザイン大賞の三洋電機株式会社、eneloop universe products(ソーラー充電器セット、USB出力付充電器セット、充電式カイロ、充電式ポータブルウォーマー)、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

2006年 三菱自動車工業株式会社、i(アイ)

2006年度グッドデザイン大賞の三菱自動車工業株式会社、i(アイ)

2006年度グッドデザイン大賞の三菱自動車工業株式会社、i(アイ、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org)

2005年 テルモ株式会社、インスリン用注射針ナノパス33

2005年度グッドデザイン大賞のテルモ株式会社、インスリン用注射針ナノパス33

2005年度グッドデザイン大賞のテルモ株式会社、インスリン用注射針ナノパス33、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

10年間で、製品が六点、インターネットサービス・アプリが二点、建築が一点、テレビ番組一点が受賞している。

また、多くの人が利用し社会的な影響力を持つデザインが大賞に選ばれることが多い中で、2014年の産業ロボットの受賞は異色と言える。消費財とは対極にあり、ほとんどの人は決して目にすることがない製品だからだ。今年の結果をふまえて振り返ると、戦後に消費財を対象に始まり、その対象を拡げてきたグッドデザイン賞が行き着いた究極だったと言えるかもしれない。

2015年度グッドデザイン賞ロゴマーク

2015年度グッドデザイン賞ロゴマーク、(C)JDP GOOD DESIGN AWARD http://www.g-mark.org

1957年に始まっているグッドデザイン賞だが、60年近い歴史の中では様々な変遷を経ている。

その年を象徴するデザインを選ぶ大賞が設けられたのは1980年のこと。生活の質の総合的な向上を目指して、消費財に限らず全ての工業製品を審査対象にしたのが1984年。民営化が1998年。デザインの概念を「製品」に限定せず大きく広げる「新領域デザイン部門」の新設は1999年で、「コミュニケーションデザイン部門」の新設は2001年。

そして2008年に、これまでの「産業的視点から審査を行う」という方針から「近未来の生活者の視点に立つ(サプライサイドからディマンドサイドへ)」という方針への転換を打ち出し、大きな改革を行っている。デザイナーが中心だった審査委員の顔ぶれも徐々に変わってきている。

グッドデザイン賞は、世の中におけるデザインのあり方を察知して、柔軟に対応し、変わり続けてきたとも言える。

“近年、デザインはそれ自体が変化するとともに、社会におけるデザインのあり方も大きく変わってきています。身の回りのもののかたちが徐々に失われ始め、対照的に「サービス」や「システム」といった「機能」そのものが生活の中に顕在化しつつあります。この中でデザインは、人々が自らを取り巻く全体的な状況を察する能力を進化させるための、「環境の中における媒質」としての役割を発揮し始めています。今後はこうした視点からデザインの意義をとらえるニーズが高まるものと考えています。“(グッドデザイン賞公式サイトより)

時代の渦中にいると分からないことも多い。来年の今頃、何が大賞に選ばれるのか。そして今を振り返り、何を思うのか。楽しみにしたい。

グッドデザイン賞とは | Good Design Award