2025年2月7日から2月11日にかけて、ドイツ・フランクフルトで世界最大級の国際見本市「アンビエンテ 2025」が開催された。
アンビエンテは毎年2月に開催されている、1949年にスタートした歴史のある見本市。「Meet up at the Market」をテーマに、世界中の企業がさまざまな形態の取引や流通チャネルにわたる商品を展示した。今回はクリスマス商材を中心に扱う見本市「クリスマスワールド 2025」と画材やハンドクラフト用品がそろう見本市「クリエイティブワールド 2025」も同時開催され、さらなる賑わいを見せた。
本記事では、編集部が感じたアンビエンテの特徴と、日本企業に聞いた出展メリットや出展に関する反響などを伝えていく。来場できなかった方はもちろん、次回の出展を迷っている方に向けてレポートする。
グローバルな来場者と、わかりやすい会場構成
会場となるドイツ・フランクフルト国際見本市会場は、フランクフルト市内の中央に位置する、世界で3番目に大きい展示会場。展示面積は東京ビッグサイトの約4倍の広さ。会場は全12ホールで、「キッチン用品」「インテリア」「オフィス家具」「ステーショナリー」などホールごとにジャンルが分かれ、目的の商品を見つけやすい構成となっていた。

広大な会場には、東京ビッグサイトのように動くエスカレーターが設置されている(Messe Frankfurt Exhibion GmbH / Jens Liebchen)
なかでも人々の注目を集めていた「Ambiente Trends 25+」は消費財のトレンドを示す特別展示で、ドイツのデザインスタジオ「スティルビュロー・ボラ・ヘルケ・パルミザーノ(Stilbüro bora.herke.palmisano)」の監修のもと、アンビエンテ出展者からの公募により選出された製品が展示された。

Ambiente Trends 25+

日本からは、アッシュコンセプトの剣山タイプの花器「ミチクサ」などが展示されていた
長くは20年目という出展者も。日本からの出展企業
3見本市合計で、出展者数は4,660社、来場者数は前年を上回る14万8,000名、参加国数は170カ国・地域と速報があった。
開催地のドイツに次いで来客数が多かったのは、イタリア、中国、オランダ、フランス、アメリカ。全体的な来場者の満足度は、前年に比べ2ポイント上昇し、95%という数字を記録した。日本からの出展者は73社。以下、注目を集めていたブースを一部紹介する。
■アッシュコンセプト株式会社
「デザインを通じて社会を元気にする」を掲げるアッシュコンセプト株式会社は、13回目の出展。「アニマルラバーバンド」や「カオマル」を生み出してきた「+d(プラスディー)」の商品をはじめ、衣食住にかかわる多様な商品を展開していた。
特に注目を集めていたのは、小さなスペースでも生け花を楽しめる剣山タイプの花器「ミチクサ」シリーズ。こちらは消費財のトレンドを示す特別展示「Ambiente Trends 25+」でも紹介された。また、ブースでは多孔質セラミック製造の技術により紙フィルターを使わずにコーヒーが楽しめる「cerapotta セラミックコーヒーフィルター」を使ってハンドトリップの実演をおこない、来場者にコーヒーをふるまう様子も印象的だった。
代表取締役の名児耶秀美さんは今回の出展に対して、「今年のアンビエンテは、ついに展示会にも春が戻ったような風が吹きました。世界各国のバイヤーが来場され、購入意欲も高く、2019年以前に戻った感覚でした。ヨーロッパの展示会は、まさにフランクフルトとコペンハーゲンに集中するのではと感じます」と、コメントした。
■KIT/日本コパック株式会社
店舗什器の企画・製造・企画販売を中心におこなう日本コパックによる、オリジナルブランド「KIT」。拡張性のある、シンプルなジョイントで構成された組立式の家具を製造している。商品展開は、サイドテーブルやハンガーラック、シェルフ、ワゴンなど。日本コパックが持つ業務用什器のノウハウと、プロダクトデザイナーのイトウケンジさんのデザインが合わさっている。
ポイントは、すべてネジで組み立てられるところ。組み立てが苦手な人も、説明書なしで組み立てられるという。ノックダウン式でコンパクトなため、発送コストが抑えられるという点も特徴だ。日本コパックの古川孝一さんは、今回の出展に対して以下のようにコメント。
「カラーバリエーションが豊富で、天板の色と脚の色を選んでいただけるようになっているので、いろんな空間に合わせられます。海外の見本市は今回が初めてです。日本ではある程度反応を知ることができていたので、海外に持って行った時にどういう反応があるか、生の声を聞きたいと思い、参加しました。
KITのデザインはヨーロッパでも評価が高く手ごたえを感じられました。秋には都内の海外の人も多く来るエリアにKITの店舗を開業するので、海外の人にもより知ってもらえるブランドにしていきたいと思います」。
■足立道具店/株式会社カブ・デザイン
2,000社以上の町工場が点在する東京都足立区の「足立道具店」も初出展。暮らしの道具をデザインするブランドで、ステンレスハンガーやカラビナ、S字フックなどを製造・販売している。

商品展示の什器やアクリルもすべて足立区の職人によるもの(photo by oui-imja design/ Jay Mehta)
足立道具店がつくる製品は、シンプルかつ丈夫で長く使えることを重視しており、職人の技術が伝わってくる。見た目は普通でも、使うことで特別に感じられる製品づくりを目指しているという。デザイナーであり足立道具店店主の一戸樹人さんは、出展について下記のようにコメントした。
「これまで足立区が支援する海外販路支援事業を利用し、シンガポールや香港の見本市に出展してきました。今後はヨーロッパ市場への進出を考えています。ヨーロッパでは手工業品に親和性があり、足立区のものづくりを広める機会として期待しています。
ドイツの人はきっと足立道具店のステンレスアイテムを好きになってくれるのではないかと思っていたのですが、実際にそのとおりで『自分は好きなプロダクトだ』とストレートに表現してくれる方が想像以上に多くいらっしゃり、とてもうれしい気持ちになっています。とはいえこれからが本番のビジネスなのでしっかり開拓していきたいと思います」。
■buoy/buoy株式会社
海洋ゴミを素材にしたインテリア雑貨ブランド「buoy(ブイ)」は、日本各地のビーチクリーン団体からプラスチックゴミを購入し、それを美しい製品へとリサイクルしているブランド。
会場では、コースターやソープディッシュ、歯ブラシスタンド、掛け時計などさまざまな製品を紹介。製品には、どこの土地で回収されたゴミなのかや、回収者の情報などがQRコードで確認できるようになっている。製品の色や模様はゴミの内容により異なり、唯一無二のデザインが楽しめる。buoy代表の林光邦さんにブランドについてコメントをいただいた。
「ブランド名の『buoy(ブイ)』は、海や湖などの水上に浮かべておく目印のための浮体から来ています。みんな環境に対してまったく無関心なわけではありませんが、生活を圧迫してまで環境問題に取り組めないというのが実態だと思うんです。
そういう人を縛るのではなく、楽しい方向で何か考えられないかなと思っています。環境が大事!というよりはきれいなプロダクトだとか、この地域に行ってみたいと思えるとか、そういうポジティブな部分をこの活動を通して伝えていけたらと思います」と、話した。
■カワイ株式会社
福井県小浜市で若狭塗箸や漆器の企画・製造・販売をおこなうカワイ株式会社。若狭塗箸は400年以上の歴史をもつ伝統技法で、貝殻や卵の殻を使った螺鈿(らでん)の美しさが特徴だ。
若狭塗り箸の良さをさらに伝えるべく生まれた「KURABI」シリーズのほか、5つの製造元が若狭塗箸の名のもとに集まり、それぞれのつくり手がもつ素材・形状・技を駆使した「十膳十色」シリーズなどが展開された。

「JAPAN STYLE」企画ブースで出展となったカワイ株式会社
グローバルセールスを担当する小島さんは出展について、「ヨーロッパに限らずアジアや中東などの来場者も多く、世界的に注目されている印象です。初日だけでもビジネスにつながる話がありました。
カワイ株式会社の塗箸は、食事を口に運ぶ道具としての役割を超えて、食事をよりおいしく感じられる食卓を彩る重要なパーツです。今回の展示会を通して、より多くの方に弊社の箸が持つポテンシャルを感じていただけたと思います」。
■株式会社セラミック・ジャパン
1973年に設立された、愛知県瀬戸市の陶磁器メーカーのセラミック・ジャパン。デザイナーの才能と瀬戸の高度な技術力を融合させ、シンプルで存在感のある製品を生み出している。今回の出展では、テーブルウェアを中心に商品展開のイメージがふくらむブースづくりをおこなっていた。

写真提供:セラミック・ジャパン
2011年以降、連続して出展を続けている同社。代表の大橋正之さんに出展を続ける意義について、「1回出展して反応が振るわず辞めてしまう方もいますが、続けて出して覚えてもらうことが大事だと感じます。弊社も4回目から注文が増えていき、海外でも認められたと感じました。昨日来たお客さんで10年前にいらっしゃった方が覚えていてくれて注文につながるなどもあります。
今年も、たくさんの方々に弊社の製品を実際に手に取って、その魅力やこだわりを感じていただけたことを大変嬉しく思います。お客さんとの会話から得た新たな気づきを活かし、これからも価値ある製品を提案していきたいです」と、話してくれた。
■yup!/丸眞株式会社
1966年に名古屋市内で創業した丸眞株式会社は、ポップでカラフルなブースが来場者の目を引いていた。タオル事業で基盤を築き、1980年代にはキャラクターライセンスビジネスにもいち早く着手した同社。寝装品・贈答品・インテリア・雑貨など幅広い繊維製品の商品企画・卸販売業務のほか、新たにゴルフ商材やアパレル商材の商品企画もおこなっている。
キャラクターライセンスビジネスが主軸のなかで、自社で開発したのが「yup!」という食品をテーマにしたオリジナルブランド。さまざまな果物や野菜、缶詰、ケーキなど思わず微笑んでしまう形の商品がポップなブースに並んでいた。取締役の加納美月さんは、2回目の出展に際して以下のようにコメントした。
「フランスのメゾン・エ・オブジェや香港のギフト&プレミアムショーにも出展したことがありますが、アンビエンテはよりグローバルなお客さまが多く、世界中の方々に商品を見ていただけています。ヨーロッパのお客さまはこういったユニークな商品を好まれるのでご好評いただいています。
ブースや商品の世界観に魅力を感じていただき、お客さまの売り場でも「yup!スーパーマーケット」を表現し、商品販売をしたいというお声をいただきました。また、商品のデザイン・品質を評価いただき、店頭での採用を決定いただくバイヤーの方と巡り合うこともできました」。
■株式会社キングジム
ラベルプリンターの「テプラ」や「キングファイルシリーズ」で有名な株式会社キングジム。2024年度のグッドデザイン賞を受賞したリングノートの「LASENO(ラセーノ)」や、氷のような透明素材のパーツでつくられたスタンプ「氷印」、キングジムの文房具が小さくなった「キングミニシリーズ」、貼ってはがせるマスキングテープ「SODA」など幅広い商品を紹介した。

写真提供:株式会社キングジム
取締役 専務執行役員の原田伸一さんは出展について、「当社は3年連続出展していますが、本年も国内外の主要メーカーが出展しています。特に当社をはじめ文具メーカーが出展したホールは盛況で、本年も多くの既存、新規有力顧客と商談できました。
規模や来場者数で考えても、アンビエンテは世界で最も大きい文具関係の見本市だと思います。ヨーロッパの見本市ですが、アジアのバイヤーさんが多く来場されるのでグローバルな意見を聞くことができ、ビジネスに直結すると考えています」と、コメントした。
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