デザインが社会で“使われる”ために-デザインと社会の幸せな関係 トークイベントレポート

デザインが社会で“使われる”ために-デザインと社会の幸せな関係 トークイベントレポート

地域が抱える課題の解決のために、デザインができること

――ここまでさまざまな質問をさせていただきましたが、視聴者の方から質問をいただいています。一つ目は、それぞれの施設を運営する方に、以下の質問です。大塚さんと藤田さん、いかがでしょうか?

「施設が竣工しましたが、目下の課題があれば教えてください(40代・企画マーケティング職)」

大塚:上勝町は年々人口が減少しているため、一緒に働く仲間を集めることが目下の課題です。私たちが運営しているホテルは全4部屋の小さな宿ではありますが、国内外から多くのお客様に宿泊いただいています。現在少数のメンバーでホテル業務をおこなっているため、旅やホテルが好きな方はぜひともジョインしてほしいですね。

もともとお客さんとして訪れた人が上勝町のファンになってくれて、いまではスタッフとして働いているというケースも多くあるので、興味のある方はぜひ一度泊まりに来てください!

上勝町ゼロ・ウェイストセンター

写真右にあるのが上勝町ゼロ・ウェイストセンター内にある
「HOTEL WHY」(撮影:Koji Fujii/TOREAL)

大塚桃奈

大塚桃奈さん

藤田:木頭も上勝町と同じく、運営側の人員不足が課題ですね。人員不足の一番の原因は、ここで働きたいと思ってもらえても、移住先の住居がないということ。そのため、課題解決のためには木頭の住環境を整えることが先決だと思っています。

現在、戸建てを10棟ほど建てて、移住してきた方たちが暮らせる小さな町をつくるプロジェクトを計画中です。家をつくるだけではなく、どうすればこの村を訪れた人が気持ちよく過ごしつづけられるのかを考えながら、木頭をよりよくデザインしていきたいと思います。

未来コンビニ

撮影:山本慶太/ナカサ&パートナーズ

藤田恭嗣

藤田恭嗣さん

――二つ目は、設計を担当された佐藤さんと中村さんへの質問です。

「これまで関わりのなかった土地の施設を手がける際、毎回大事にしていることはありますか?(20代・学生)」

佐藤:私はよく自分の仕事をカレーに例えるのですが、さまざまなものを混ぜてオリジナルのカレーをつくるためには、混ぜるためのスパイスをどれだけ集められるかカギになります。スパイスを集めるために、できる限り現地まで足を運び自分の目でその土地を観察することを大切にしています。

先ほどお話しした旧小学校の石垣も現地に行ったからこそ手に入れることができたスパイスです。地域性や社会性、現代性から集めたスパイスを足し合わせ、混ぜ合わせることで、土地によってまったく違うカレーを全国につくることが私のゴールですね。

佐藤航

佐藤航さん

中村:私も佐藤さんと同じように、現地に訪れてその地域のことを徹底的に勉強することを大切にしています。地域の文化や産業をリサーチすることはもちろん、地域住民の方とお酒を酌み交わしながら本音を聞くことも、地域を理解する上で重要なことの1つ。こうした地域への深い理解のもと、そこにしかない美しさを今までにない見せ方で表現することが、僕ら建築家の目指すべき姿だと思います。

中村拓志

中村拓志さん

地域活性の1歩目を踏み出した両施設が目指す未来

――最後に、運営側の藤田さんと大塚さんに、それぞれの施設が目指す未来についておうかがいできればと思います。

藤田:木頭の人々が、この「未来コンビニ」で外から木頭を訪れる人々と出会う。そうして自分たちの村を誇りに思ってもらえるような拠点を目指していきたいですね。そして木頭の子どもたちにも、この村を大好きでいてもらいと思っています。たとえ彼らが大きくなって村の外に出ていってしまったとしても、ゆくゆくは故郷に帰ってきてくれる。そんな村にしていきたいですし、「未来コンビニ」がそんな木頭の人々の心のよりどころになれたらと思います。

大塚:この 「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」で働くことの価値を、町の人と一緒に育んでいきたいと思っています。そう思ったきっかけは、夏休みの課外学習で施設を訪れていたある小学生の言葉です。施設での体験を終えて「ここで働くのかっこいいね」と声をかけてくれたんです。その言葉を聞いて、私自身この施設や上勝町をさらに誇りに思うようになりました。だからこそ、誰もがここで働くことに憧れるような施設を目指していきたいですね。多くの人が上勝町に集まることで、結果的にゼロ・ウェイスト活動の後押しにつながれば、これ以上に嬉しいことはありません。

――地域社会に馴染みながら使われるデザインのあり方について、貴重なお話をすることができました。本日はありがとうございました!

トークイベント アーカイブ動画(2023年7月末まで限定公開)

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 編集:石田織座(JDN)