もうちょっと「考える」―上西祐理インタビュー10問10答

もうちょっと「考える」―上西祐理インタビュー10問10答

JDNの創刊25周年を記念し、昨年秋に3回にわたって開催したトークイベント「デザインを 『つくる』『使う』『考える』」。JDNのタグラインである「つくる」「使う」「考える」を各回のテーマに据え、さまざまなジャンルで活躍するクリエイターのみなさんを招いてトークセッションをおこないました。

「考える」をテーマに、グラフィックデザイナーの上西祐理さん、小林一毅さん、脇田あすかさんの3名に登壇いただいた第3弾。トークイベント開催にあたって読者のみなさんから質問を募集したところ、配信時に答えきれないほどのたくさんの質問が届きました。

本記事では、トークイベントから漏れてしまった質問について3名に追加インタビュー。10問10答形式でお届けします!

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https://www.japandesign.ne.jp/report/25th-talkevent-kangaeru/

1. 学生の頃、課題外の制作はしていましたか?(20代)

私は多摩美術大学(多摩美)に通っていたのですが、2年生まではデザインの授業があまりないので、コンペに取り組んだり芸術祭の展示に励んだりと、デザインしたい気持ちを課題以外に向けるようにしていました。

3年生からはデザインの授業に追われる日々になっていくのですが、1つ1つの課題とていねいに向き合うようにしていました。授業で先生がみてくれるわけですし、長期間で課題数も少ない中での作品を疎かにするのはもったいない。先生に突っ込まれた点をもう1回納得いくまでやり直してみたり、テーマに対して自分なりの納得いく答えを模索することは学生の内ならではの時間の使い方かと思います。同じ課題を用いながら、まったく違う案などでつくり直したりすることもしていました。

就職活動も迫ったタイミングでは、新聞賞のコンペへの出品作を作ったりもしましたが、基本的には課題のブラッシュアップをし続けていました。課題って結局は成績のためのものではなく、その道のための勉強だったりするので、終わりがなくやれてもしまうものですよね。

採用面接官をやったときなどにも感じましたが、社会に出て聞かれるのは「あなたは何ができる人なのか?何が好きなのか?」という話だと思うんですよね。大学の課題だと、先生からいい評価を得るための正解や型を探ろうとする子がいますが、社会に出たあとはクライアントも多様ですしまさに異種格闘技戦。何が正解かもさまざまです。自分が得意なことを探ったり、好きな世界観を作っていくとか、自分と向き合っていくことを大学時代から突き詰めていってみるといいんじゃないかな。

2. デザイナーとして普段からどういう情報収集の仕方をしていますか?(30代)

自分以外の方のデザインを見るのも好きですが、誰かの影響下でアウトプットされることになってしまうので、デザイン外からの刺激を大事にしています。映画を見たり音楽を聞いたり、ただの散歩でもいいと思います。そういうところから自分が何を感じ得るかが大事です。好きなデザイナーの方がつくった本や写真集や物などももちろん買いますが、情報を得るというよりはストレス発散や趣味に近いんですよね。どちらかというと自分の仕事に活きるのは、デザイン外から受ける刺激で、それをどうデザインに落とし込むかで新しい何かが生まれるのではないかと思います。

一つひとつのおこないを考えていくと無限にデザインのヒントはある気がしていて、「生きる」ことを考えながら丁寧に生活してみることが意外と大事かなと。自然のなかにも色やかたち、光のヒントはたくさんありますし、だらっと何にも考えずに生きないことですかね。普段何気なくしていること一つひとつにヒントがあり、たとえば部屋の植物を見ているだけでも「毎日成長してどんどん葉っぱの色が変わっていくな」とか、「太陽の光が冬になって変わったな」とか。そういうことにちゃんと気づいて、思いを巡らすことが重要なんじゃないかなと思っています。

4. ご自身のデザインの強みはなんだと思いますか?(30代)

答えづらい質問ですが、「強いワンビジュアルをつくること」が得意なんだろうなと思います。1つのビジュアルで、いかにそこにメッセージを込め、ノンバーバルでも人をはっとさせる強いインパクトのあるビジュアルをつくり出せることは強みかなと思います。

あともうひとつは、しゃべれるということですね(笑)。美術やデザインという共通言語がない人にも、ちゃんと説明してかみ砕いて、自分が何をしようとしているかをちゃんと伝えるようにしているところですかね。もともと話すのが好きだということもありますが、前職の会社の特質上、若いときから一人でしゃべらされていたということもあります。

二つ挙げましたが、自分らしさや強みというのは私の作ったものを見た人が教えてくれたりしますね。自分で個性や強味を出そうとするとすごくプロモーショナルな自分ができていきますが、目の前の仕事にきちんと向き合って答えを出したり、自分にうそをつかずにいたり、自分の部屋に置いても嫌じゃないものをつくり続けていれば、それを受け取った人たちに「こういう姿勢でやっている人なんだ」というマインドの部分も伝わるし、こういう色とかフォント好きだよね、こういう雰囲気出すの上手だよね、これが上西っぽいということを教えてくれる気がします。

4. 仕事を受ける/受けないの基準はありますか?(30代・クリエイティブ職)

共感できる仕事は全部やりたいです。あと、どうしても自分に依頼したいという強い想いを伝えてくださる仕事は、とてもありがたい話ですし受けたいと思います。

ただ、やっぱりフリーランスで一人体制なのでキャパの問題や、生きていかなければならないからお金も稼がないといけないですし、そういう部分ももちろんありますが、基本的にはやりたいと思うかによるところも大きいですね。

5. クライアントとのミーティング中、その場でアイデアを生むことや完成に近いイメージをラフで書き出し、クライアントに共有することは得意でしょうか?もしコツや勉強法があれば教えてください(20代・クリエイティブ職)

ミーティング内のその場でアイデアを出すことはありますが、完成に近いイメージはそこであまり約束しすぎたくないですね……。撮影現場でぐっとよくなる魔法の部分や、レイアウトをやってみての思いつきなど、実際に手を動かしながら良くなっていく“余白”の部分も残しておきたいので、先に細部まで決めすぎちゃうのはどうかなと。そういう意味では、ミーティングではもうちょっと概念の部分を共有したり、事前に準備した上での決定の場にするようにしています。

もちろんクライアントから「その場でアイデアがほしい」と言われたときは、その場でも考えて出すようにしますが、基本的には責任が持てることしか言わないようにしています。アイデア出しが苦手だなと思ったら、「1回持ち帰らせてください」と対応するのも誠実じゃないかな。

デザインの専門家に頼んでいるわけだから、やっぱりちゃんと信頼してもらって、今この場ですぐに完成に近いイメージを出せって言われない流れにしたいですね……。一旦考えてから責任持って提案したいですし、検証材料とかをみながらお互いにディスカッションしながら決めましょうとかだったらすごくいいと思うんですけどね。自分が得意なやり方で勝負するってことでいいんじゃないかと思います。

私はその場でラフを描いてディティールを決めすぎることはあまりしたくないから、そこをがんばって勉強しようと思ったことはないかもしれません。アイデアを生むということに関しては何でも浮かぶほうですが、それはさっき言ったよう日々考えるという癖づけをするのがいいんじゃないかなと思いますけどね。

6. クライアントからのお戻しで、自分の意図と外れてしまうご指示が入った場合はどのように対応していますか?(30代)

まず、「なぜこの指示なのか」というところを聞き、会話をします。先方には先方の事情があると思うし、自分の意図が正しく伝わっていない可能性もあるので、向こうの意図をいったん聞くことが重要かなと。その指示の具体的な内容より、その大元の原因を聞いたほうが、「それならこういう方法がありますよ」というような提案もできて前向きに解決もできるので、具体的指示よりも根本の原因を聞いて考えるのが必要だと思います。

7. 制作や仕事をしていくなかで壁に当たった際、どのような思考や行動を取って良い状態にしていきますか?マイルールなどがあれば教えてください(20代・教育関連)

寝ます(笑)。リセットですね。あとは走ったりお風呂に入ったり、おいしいもの食べるとかもありますね。むしゃくしゃすると私はウーバーイーツで高価なパンケーキを頼んだりもします。まず、自分の状態が良くなければいいサイクルや思考に切り替えられないはずなので、ずるずる作業するくらいだったら1回大きく切り替えたほうが後々のことを考えるといいと思います。

8. 仕事において、モチベーションを上げる方法はありますか?(20代)

仕事が生活のために“やらなければいけないこと”になってきたら、モチベーションを上げるのは超大変だと思うんですよ。買い物や美味しい食事など、追加の自分へのご褒美を設定したりしないと、なかなか上がらないですよね……。でもよくよく考えると、絵を描くのが好きだとか、ものをつくるのが好きだとか、デザインすることが好きでこの仕事を選んでいるはずだから、好きなことをやっているはずなんですよね。

クライアントに満足してもらえたときにすごく幸せを感じたり、自分の手がけたものが世の中で反響があったときもうれしいはずだし、もっといいもの作れるようになりたい探究心とか、仕事が「やらなければいけないこと」ではなく、やりたくてやっていることだと改めて思えば楽しくなるんじゃないかなぁと思います。

あと、どんな仕事でも楽しい部分は絶対あると思うんですよね。はじめて関わった仕事のときは、印刷機を使えるだけでうれしかったですね。「インクジェットじゃない!特色を選べる!」みたいな(笑)。反対に楽しくない仕事のときは、そういう自分の学びになる要素を1個入れればいいんですよ。箔を試してみようとか、やったことのないレイアウトや書体を練習してみようとか。それらは全部経験として自分に返ってくることだから、モチベーションが自然と上がりますよね。全部の仕事について、今回は何を学びとってやろうくらいの気持ちでやってみるといいのかもしれません。

9. ご自身のこれまでの経験から、デザインの楽しさや魅力はどんなところだと感じますか?(20代・教育関連)

やっぱり毎回同じことがないところじゃないでしょうか。すべての仕事でスタディがあって、だから大変なこともありますが、同じように知識や経験が生かせるところもあれば、全然うまくいかないと思いながら学びとっていくものもあり、必ず新しい学びが全部にありますよね。

デザイナーは知的好奇心が尽きない仕事だと思っていて、同じことを繰り返したとしても差異はあるし、決まった正解が意外とないので、大なり小なりずーっと実験している感じというか。でもそれがクリエイティブの楽しいところなんじゃないかなぁ。

たとえばCDデザインを専門にしている人だとしても、毎回何かしら新しさはあると思うんですよね。要は、見つけているか見つけていないかという設定の話というか。常に新しい何かが必ずあり、飽きないところが魅力です。

10. 今後の夢があればお聞きしたいです(30代)

夢なんて大層なものはないですが(笑)、この仕事って定年がないなーと思っているので、できる限り長く楽しく、ずっと作っていたいなと思います。そうしたらたぶん飽きないと思いますよね。常に新しさと学びがあるっていうことだから、いろいろなことを知って勉強して挑戦して、それをずっと長ーくやりたいです。浅葉克己さんは80歳を超えているし、永井一正さんなんて90歳過ぎですよ……!なるべく、年を重ねても新しい気持ちで働いていたいなと思います(笑)。

取材・編集:石田織座(JDN)