これからのクリエイティブな働き方を“考える”―上西祐理×小林一毅×脇田あすか トークイベントレポート

これからのクリエイティブな働き方を“考える”―上西祐理×小林一毅×脇田あすか トークイベントレポート

独立のきっかけやタイミング、それを経て変わったこと

――次のテーマが「独立」についてです。先ほども少しお話が出ましたが、改めてきっかけやタイミングを聞かせてください。脇田さんがいちばん最近でしょうか。

脇田:そうですね。でも上西さんと2ヵ月違いくらいで、ほぼ同じですね。みなさんやっぱり独立したいと考えていたんだなと、今日話してみて思いました。

上西:やっぱり定年が嫌だなと思って。61歳から仕事がなくなるなんて悲しいし、ずっと仕事をしていたいとすると、いいタイミングで独り立ちして自分の看板を掲げないとだなと思っていて、それは一体いつなんだろうとずっと考えていました。

トークイベント配信中の様子

――上西さんは11年電通に勤務されていましたが、想定より長かったですか?

上西:長かったです。新人賞を獲れたのが2016年でその時点で6〜7年経っていました。辞めるために獲ろうとしていたので準備は整ったのですが、でも大きい会社だからこそできる経験などのやり残していた仕事もあったし、環境もしばらくは良かったので在籍していました。でも昔どこかの授賞式でお会いした他社の先輩に、「みんな10年か11年で辞めて独立している」ということを言われて、それはずっと頭に残っていたんです。

コロナ禍やオリンピックも重なってタイミングを図りかねていましたが、10年・11年というのはデッドラインとしてイメージしていました。小林さんはどうして4年で辞めようと決めていたんですか?

小林:僕は先生の言葉があったので律儀に(笑)。自分の中でも区切りに思っていたタイミングでしたし、最初からそういう計画でいたので、その通りにいくようにしていた部分もあって。だから会社に独立したいと伝えたのもちょうど1年前でした。でも会社もありがたいことに根回ししてくれて、独立後も一緒に仕事をさせてもらっています。

上西:ちなみに辞めてよかったですか?

小林・脇田:よかったです。

上西:辞める前と後で何が変わりましたか?

脇田:責任が全部自分にのしかかるっていう意味では、大変な部分もありますよね。あとは時間の使い方がいちばん変わったと思います。いまは仕事場を借りていますが、自宅で仕事していた期間はひたすら引きこもっていました。そのうちオンラインでの打ち合わせが増えて人と対面で会う機会がますます減り、それで辛くなって場所を借りることにしました。

小林:いまオフィスをシェアされていますよね。

脇田:そうですね。「人と話すのって最高!」と思いながら仕事できています!

脇田あすか

上西:私も一回オフィスを借りたんですが、通勤が向いてないことに気づいて半年でリリースしました。そうやって自分の働き方を試行錯誤しながらつくっていける感じも、フリーランスのおもしろい面ですよね。

小林:そうですよね。自分の性格がだんだんわかってきたりして。

仕事とプライベートのバランスの取り方

――次は「デザイナーの働き方について」というテーマで、いま話されていたことの延長かと思います。仕事とプライベートの切り分け方を伺いたいのですが、小林さんは特徴的な働き方をされていますよね。

小林:いま2歳の子供がいて、大学の教員としても多摩美と女子美でそれぞれ教えているのですが、週に2回大学に通って残りの5日で仕事と育児をやっています。それで、5日のうち3日は子どもと一緒に過ごすようにしていて、残りの2日、基本的に火曜日と日曜日は仕事に当てています。

やっぱり子育てしながらだとすごく疲れるので、夜中の作業はかなりパフォーマンスが落ちてしまうんです。だから朝5時半には必ず起きて洗濯やゴミ出しをおこない、6時〜7時半くらいまで仕事、みんなでご飯を食べて8時〜9時半までまた仕事をして、その日の仕事はそれで終えて子どもと公園に行ったりします。

小林一毅

脇田:それはご夫婦で話し合って決めたんですか?

小林:そうですね。やっぱり生活や家庭あっての仕事で、どちらかに理不尽がないようしっかり平等になるようにしています。パートナーは妊娠している時からの育児があるし、僕の方が多少比重が重いくらいじゃないと割に合わないなと。なので、そういうバランスをとったなかで仕事ができる方法を模索しています。無理してでもガツガツ働くのは20代でやってきて、その働き方ができることはわかったので、逆に仕事をしないで回せるような働き方を身に付けたいと矯正しているところです。

――上西さんは1ヵ月お休みする期間を決めていると聞きました。

上西:最近あまりできていませんが、創作活動って入り込む分すごく疲れますよね。意欲のコンディションを保つためにも、どこかで息抜きのタイミングがないとうまく回っていかないので、会社員時代からその年の1月は丸々休むということをやっていました。ユーラシアや南米など、ゆるくエリアを決めてバックパッカーのように自由な一人旅も多いんですが、色々な文化の価値観を知れて、人間の営みの相違と普遍に気づいたりと、かなりリフレッシュできるんです。普段の仕事とはまったく違うけど、繋がってくる気もしています。

小林:休むタイミングは1月と決めているんですか?

上西:1月からすぐにはじまる仕事は意外に少ないので、単に休みやすかったんですよね。1週間単位でペース配分を決める働き方もあれば、私のように1ヵ月休んで残りの11ヵ月をがむしゃらに働くというやり方もあるでしょうし、自分にとってのいいペースを常に考えながらやっています。

上西祐理

――脇田さんはいかがですか?

脇田:私も土日と祝日は休むようにしています。家を仕事場にしていた時はずるずる仕事をしていましたが、場所を借りてからは「移動する」というハードルが一つできたので、週末は休みたいと思うようになりました。あと、「今日は友達とご飯に行く」と決めたら自分のペースで切り上げたりできるのはフリーランスの醍醐味だなと思います。

視聴者の質問から、デザイナーとしてのキャリアを考える

――今回、視聴者の皆様からもたくさんの質問をいただいていまして、いくつかお答えいただきたいと思います。ひとつめが「新卒で具体的な目標が見えずモヤモヤしています。デザイナーとして毎年の目標やキャリアの考え方を教えてください(20代クリエイティブ職)」ということなのですが、いかがでしょうか?

小林:僕は20代の頃は仕事に対する劣等感も結構あって、それを打開するためにがむしゃらに仕事していました。

脇田:私はこういうことをやりたいと思ったら、そのために少し動いてみます。例えば、会社にいた時はキャラものの仕事が多かったので、哲学書など少し硬めの仕事をやりたいと思って言い続けていたら担当させてもらえたことがあります。

上西:言うと叶うことってありますよね。

小林:そういう意味では僕は定期的に展覧会を開き、その中で「今後こういうことをやりたい、できます」ということをアピールして、仕事につながるような種まきをしています。いまというより、1年後や2年後にどうありたいかを意識しながらやっていて、例えば2022年の夏はおもちゃの展覧会を開きました。そうすると数ヵ月後に「こういう仕事をやりませんか?」という依頼をいただいたりするのですが、いまちょうど依頼がきていて。そんなふうにゼロイチをつくることができれば、仕事の幅が広がるかもしれません。

小林さんが夏に展覧会で展示したおもちゃ

――続いての質問は、「自分の〈売り〉や〈武器〉をつくるためには何が必要ですか?(20代クリエイティブ職)」ということですが、いかがでしょう?

脇田:自分がつくりたいものとできることは少し差があると思うんですが、自分と向き合って得意なこと不得意なこと、やりたいことをどうすり合わせていくかが大事になってくるのではと思います。

小林:僕の場合は自分の好きなものをつくりたいと思い、そのために自分らしい表現を身に付けようと、もともとあるものを少しずつ拾い集めて地道にやってきました。インスタントにつくれるものってなくて、時間をかけて地道に続けながら、結果的に「自分らしさ」みたいなものができ上がっていくと考えると、売りや武器をつくるって実はかなり地味なプロセスなんじゃないかと思います。

上西:例えば「あの仕事を手がけた人にお願いしたい」という理由で仕事がくることは多いと思うので、アウトプットがデザイナーの最大の説得力だとすると、目の前のことを一つひとつ頑張ってやり遂げたところに何かが宿っているのかもしれません。広告的な仕事になればなるほど自分の作風はわかりにくくなる時もありますが、その中に自分が筋道を立ててやってきたことがあれば、目に見えやすい形でなくても必ず作風として出ているはずです。そういうことを意識していれば、気づいたら自分の武器ができているかもしれないですね。

――次は、「小林さんは手描きで制作を続けていると読みましたが、何かきっかけやルールはありましたか? 上西さんと脇田さんも制作において鍛錬していることがあれば教えてください(40代クリエイティブ職)」という質問です。

小林:僕は自分にできることにそんなに目立ったものがなかったので、とにかくほかから吸収しようというのがきっかけですね。ルールは楽しく続けられることを大切にしていて、仕事後に家でやるので、15〜30分頑張ればOKなボリューム感にしていました。ちゃんと紙に焼き込む、物質として残すというのも最初から決めていましたね。

上西:私はたとえ失敗しても経験になるので、失敗はないのではと思っています。なので若いうちにできるだけ多くの新しいことに挑戦して何でも吸収したいと思っています。InDesignのようなソフトもそうですし、空間の仕事や未経験のジャンルの仕事など。毎日に流されず、そういう意識でやっていくことが鍛錬につながっている気がします。

脇田:鍛錬しているようなことは取り立ててありませんが、人当たりをよくすることですかね。仕事先で「いつもニコニコしていて全然怒らないですよね」と言われることも多いのですが、気持ちよく仕事をしたいので、実は怒っていてもいかに表に出さないということはかなり意識しています。だからメールでも対面でも、目指す方向が違った時にどう伝えてこちら側に寄せていくかは、自分の中で毎回鍛錬ですね。

「LAKE IN MY HEART」自主制作のリソグラフ印刷のポスター

脇田さんの自主制作であるリソグラフ印刷のポスター「LAKE IN MY HEART」

――さまざまな角度の鍛錬がありますね。次の質問は、「今後デザイナーに求められることは?(30代クリエイティブ職)」ということですが、いかがでしょうか。

上西:AIが出てきてなくなる職業もある一方で、人にしか生み出せないものも絶対ありますよね。この人にしかできないデザインや造形を求めたい、この人と一緒に何かつくりたいと思ってもらえれば仕事は続くと思うので、代替がきかない存在になれるかどうかだと思っています。

脇田:これは若干スピリチュアル寄りな話ですが、何百年単位で入れ替わるサイクルの中で、2年前から「風の時代」といわれていて、それまではチームワークや年功序列を大事にする時代だったのが、これからは「個」の時代になるそうです。それがすごくいいなと私は思っていて、上西さんが言われたように、デザイナーだけでなく何の仕事でも、自分自身を指名してもらえることが今後強みになってくるんだろうなと思います。

小林:僕はバブル期の小物など、古いものを集めるのが好きなんですが、単なるノベルティでもとても凝ったつくりのものがあって、それはやっぱりデザイナーのいいものをつくりたいという視点があったからこそだと思うんですよね。だから僕自身も何かをつくる時は、後世に残ってもいい佇まいでありたいと思ってつくっています。

上西祐理、小林一毅、脇田あすか

ものづくりの上でのモチベーション

――なるほど。そういったことがモチベーションの一つになると思うんですが、みなさんのモチベーションはなんですか?

脇田:私は完全に自分がほしいと思うものをつくっている感じです。早く完成させて自分が持ちたいとか飾りたいとか、それがモチベーションですね。

小林:僕の場合は個人の飲食店の仕事がとても多いんですが、店を開くってかなり覚悟がいることじゃないですか。バイトして貯金して、最終的にやっと店を開くその最後の部分に関わることになるので、彼らが今後何十年と背負っていけるものをつくりたいと思いますし、それが責任と同時にモチベーションになっていますね。

上西:私もとても共感します。あと言えることは、仕事は一人ではできないので、「お願いしてよかった」と言われることもモチベーションですね。世の中の反響などももちろんありますが、仕事はやっぱり人と人の関係性なので、そういう二人三脚で一緒に頑張って作り上げるみたいな感じは大きなモチベーションの一つになっている気がします。

小林:その言葉はやっぱり嬉しいですよね。

上西:嬉しい。徹夜とかしたけどよかった~と思います(笑)。

上西祐理、小林一毅、脇田あすか

これからのクリエイティブな働き方を“考える”アーカイブ動画

写真:高比良美樹 文:開洋美 編集:石田織座(JDN)