楽器メーカーとしてのヤマハのデザイン哲学が生んだ「気持ちのいい音の空間をつくる」スピーカー(1)

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楽器メーカーとしてのヤマハのデザイン哲学が生んだ「気持ちのいい音の空間をつくる」スピーカー(1)

2019年1月に「Make Waves」というブランドプロミス=顧客への約束として、「個性、感性、創造性を発揮し、自ら一歩踏み出そうとするお客様の勇気や情熱を後押しする存在でありたい」と宣言したヤマハ。あらゆる音楽シーンや音のある空間をサポートする製品を通して、「ユーザー(プレイヤー)が心震わす瞬間」を創造している。

音に関わる多彩な事業のなかで、ホテルやレストラン、ショップなどの商業空間用スピーカーは、同社が7年ほど前から本格的に取り組んでいるB to Bの領域だ。商業空間で、BGMを鳴らすために設置されるスピーカーは、顧客体験に大きく影響する大切な設備。楽器メーカーとして始まり、あらゆる音響機器を手がけてきたヤマハだからこそ可能な、空間に溶け込むような音の設計は、どのようなチームでデザインされているのか。

静岡県浜松市のヤマハ本社にて、ヤマハ株式会社音響事業本部開発統括部SC開発部スピーカーアンプグループの吉田祐生さんと、音響事業本部オーディオ事業統括部業務オーディオマーケティング&セールスグループの近藤章太郎さん、デザイン研究所シニアチーフデザイナーの伊藤雅文さん、外部デザイナー(当時同社デザイン研究所)のアーメット・ウスルさんに話を聞いた。

ヤマハ商業空間用スピーカーラインアップ

ヤマハ商業空間用スピーカーラインアップ

楽器メーカーがつくる、小さな設備用スピーカー

––まずはそれぞれのお仕事について教えてください。

吉田祐生さん(以下、吉田):私は開発部門のスピーカーアンプグループというところで、おもにスピーカーの商品企画と仕様決めから開発を進めるところまで、企画チームと設計担当メンバーとの間をつなぐ役割を担っています。

ヤマハ株式会社 音響事業本部 開発統括部 SC開発部 スピーカーアンプグループ 吉田祐生

ヤマハ株式会社 音響事業本部 開発統括部 SC開発部 スピーカーアンプグループ 吉田祐生

近藤章太郎さん(以下、近藤):私はマーケティング&セールスグループの主事として、商業空間の市場でどのようなスピーカーが求められているのかを調査し、ヤマハとしてどんな商品をつくるべきか、吉田などの開発部と一緒に企画立案をしています。さらに、商品が完成したあとのプロモーション企画を考え、全世界の主要な都市にある現地法人のセールス、マーケティングスタッフに、販売戦略などの方針を伝えるのが仕事です。

ヤマハ株式会社 音響事業本部 オーディオ事業統括部 業務オーディオマーケティング部 マーケティング&セールスグループ 近藤章太郎

ヤマハ株式会社 音響事業本部 オーディオ事業統括部 業務オーディオマーケティング部 マーケティング&セールスグループ 近藤章太郎

伊藤雅文さん(以下、伊藤):私はシニアチーフデザイナーという立場で、プロ用音響機器と一部のステージ楽器のデザイン開発に関わっています。複数のプロジェクトを抱えながらデザインの監修と実務を併行して行っています。

ヤマハ株式会社 デザイン研究所 プロダクトデザインPグループ 伊藤雅文

ヤマハ株式会社 デザイン研究所 プロダクトデザインPグループ 伊藤雅文

アーメット:私は4年前にヤマハで働くために日本に来ました。ヤマハではプロフェッショナル機器デザイングループの一員として働く一方で、ミラノデザインウイークのプロジェクトなどに参加してきました。現在はフリーランスとして独立しましたが、パートナーとしてヤマハのデザインに関わっています。

ウスルデザイン/Uslu Design アーメット・ウスル

ウスルデザイン/Uslu Design アーメット・ウスル

––楽器メーカーとしてさまざまな商品をつくるヤマハにとって、スピーカーのデザインについてどのように考えていますか?

近藤:ヤマハは、さまざまな楽器や音響機器をグローバルで展開してきています。「設備用スピーカー」というカテゴリーについては、20年以上前に商品を出して以来、長らくブランクがありましたが、2012年の「ヤマハ商業空間用サウンドシステム」のローンチを機に本格的に参入しました。近年の商業空間のトレンドとして、特にホテルやレストラン、カフェなどにおいては、よりインテリアや家具にこだわるのと同じように、BGMの音の質に対するケアも高まっているということがあります。

デザインコンシャスな空間が増え、それと調和するスピーカーが求められてきているんですね。数多くのメーカーがすでに商品を出しているなかで、今こそ改めて市場に入っていこうという積極的なスタンスで、ヤマハだからこそ可能なたたずまいにこだわったスピーカーを提供したいと考えました。

吉田さん、近藤さん、伊藤さん

吉田:設備用スピーカーの世界ではこれまで、「どれだけのエリアに対して、均一な音量の音を届けることができるか」ということが主眼になっていて、音の質について語られることがあまりなかったんです。設備用スピーカーに関しては素人だったのですが、この仕事をはじめてから店内のBGMの音質がとても気になるようになりました。仕事でもプライベートでも、店に入るとまず天井を見上げる。どのスピーカーが使われていて、どんな音が鳴っているか。そんな経験から商業空間の音質という根本的な問題をメーカーとしてなんとかしたいという思いがありました。

低音、中音、高音といった、帯域のバランスというのもありますし、そもそも鳴っている音の質をよくしたいということです。さらに、必要とされている音量が意外と小さい場所が多く、必ずしも大きいスピーカーである必要はないことにも気がつきました。そこで、“小ささ”をコンセプトに据えられないだろうかと考えました。

近藤:ヤマハの「VXS」シリーズは見た目のデザインと音質の両面から、調和のとれた気持ちの良い空間をつくることをコンセプトにしています。お店をつくるひと、空間をつくるひとたちは、ビジュアルを意識して照明やインテリアを選んでいるケースが多いです。スピーカーに関してもビジュアルが優先されがちなので、ヤマハとして音質にこだわることはもちろんですが、このシリーズではインテリアに馴染むような、あるいはこのスピーカーをつけることで空間の質が上がるようなデザインを追求しました。

「VXS」シリーズの「Fモデル」

「VXS」シリーズの「Fモデル」

「VXS」シリーズの「Mモデル」

「VXS」シリーズの「Mモデル」

吉田:本格参入してから、まずは一般的によく使われている大きさの「VXS」(サーフェスマウントタイプ)「VXC」(シーリングタイプ)を発売し、そこから要素を削ぎ落としてミニマムなモデルを追加していきました。サイズやかたちはさまざまですが、一貫しているのは「心地よい音の空間をつくる」というコンセプトです。

吉田さん、近藤さん、伊藤さん、アーメットさん

あくまでも主役はお店。でしゃばらないヤマハのデザインフィロソフィー

––伊藤さんはチーフとしてヤマハのプロオーディオ製品全般のデザインを監修されていますが、設備用スピーカーのデザインのコンセプトについて教えてください。

伊藤:私たちは1987年から掲げている5つのデザインフィロソフィーを意識しながらデザインをしています。「Integrity(本質を押さえたデザイン)」、「Innovative(革新的なデザイン)」、「Aesthetic(美しいデザイン)」、「Unoftruth(でしゃばらないデザイン)」、「Social response(社会的責任を果たすデザイン)」の5つです。あくまで主役はユーザー(プレイヤー)であると考え、不必要にでしゃばらないデザインを心がけています。

設備用スピーカーとして2016年に発売した「Fモデル」は、現在アメリカ駐在中のデザイナー(大町健謹)が「小型モデルならではの心地の良い存在感」を目指したデザインコンシャスなモデルとして発売しました。壁に取り付けた時に見える余分なものをできるだけ隠したいと考えたのです。関連中型モデルの扇型のフォルムを踏襲しながらも、「ふっくらと焼き上がったパン」のように面の張ったデザインで、設置すると軽やかに空中に浮かぶフロント面から良い音が出てきそうに見えるんですね。

吉田:従来のスピーカーとは違うデザインのものを目指したかったんですね。無骨な四角いものが壁や天井にくっついているのではなく、浮かんでいるような、そんなデザイン。店舗内装に合わせてボディーカラーを選択すれば、主張しすぎることもありません。あくまでも主役はお店であり、そこを訪れるお客様。設備用スピーカーの役割は、自らの存在感をできるだけ消しながら、心地よい空間づくりを演出することなんです。

「Fモデル」のサーフェスマウントスピーカー。正面から見ると、まるで浮かんでいるかのように見える。

「Fモデル」のサーフェスマウントスピーカー。正面から見ると、まるで浮かんでいるかのように見える。

次ページ:1枚のスケッチから、“愛らしい”スピーカーが生まれるまで