――以前からANAはマイレージを利用した社会貢献プログラムを展開していましたね。
梶谷:それは深堀が発案した「BLUE WING」のことですね。彼と私は、ともに航空宇宙工学を学んできた5年来の親友であり、組織や部門を超えて3つほどの事業を一緒に立ち上げてきたビジネスパートナーです。
そのうちの1つであるBLUE WINGは「社会起業家のフライトを支援する」取り組みで、具体的には航空券の1%の料金やマイルの寄付ができるというプログラムです。飛ぶことによって世界がより良くなるというモデルを描いています。
深堀:BLUE WINGを2012年に立ち上げたのは、エアラインのANAが「航空移動で世の中の社会問題を変えていこう」としたのがきっかけです。例えば、社会問題の解決のための活動しているNGOや政府系の人たちというのは、運営資金の大部分が移動費で消えてしまっているのです。フライトを使って私たちのお客さんを巻き込みながら、最も効率的に社会問題を解決していこうというプログラムがBLUE WINGです。
梶谷:そのプログラムを立ち上げる最中、クラウドファンディングに似た要素があることに気づきました。組織レベルだと何億とか何千万という投資が必要な支援でも、個人ならばみんなが1000円ずつ出せば結構なお金が集まりますから。BLUE WINGを立ち上げた当時、クラウドファンディングの市場がすごい勢いで伸びていました。いまではエンジェルの投資を上回って、そろそろベンチャーキャピタルも超える規模感になっています。
世界銀行の予測によると、2020年までに9兆円のマーケットに成長するというデータも出ているんですね。重要なポイントは、これまでは組織が投資する世界から、個人が投資する世界に変わるということです。
――具体的にWonderFLYからプロダクト化に向けて動き出しているプロジェクトにどのような例がありますか。
深堀:第1回の受賞作(テーマ「旅の常識を覆すモノ」)だと、お茶を抽出する「SHIZUKU」、電動車いすの「SCOO」、今治タオルでつくった着物のブランケット「Kimonoket」などがあります。
梶谷:ストーリーとしては「SHIZUKU」が好きです。氷出し緑茶をつくる機械なのですが、本当に氷に茶葉を入れて待つだけという感じ。氷出しだとお茶にすごい甘みが出る。ただ、おちょこ一杯ぐらいをつくるのに3時間かかってしまうそうです。
機内にいる時間は、ともすると苦痛の時間になりかねないのですが、あえてその時間をワクワクするような時間に変えられないかと。たっぷり時間があるので「3時間もかけてやっと抽出できた美味しい緑茶をご褒美にする世界観」をつくりたいというアイデアで。もちろん飛行機だけではなく、仕事でも3時間ごとにちょっとしたご褒美が飲めるというストーリーが素晴らしいなと思って。
これは名古屋工業大学の学生がエントリーしてサクセスしたアイデアです。その後、何度も「学生なので事業化は諦めたい」といったメールが届いたのですが、何度も応援して、やっとパートナーが見つかって量産のところまで持っていって、いまはチャレンジャーの学生が起業し、大学の支援まで取り付けたそうです。
深堀:私は個人でも支援者になっています。まだ完成品のリターンが届いていないので他の支援者にはご迷惑をおかけしていますが、今からとても待ち遠しいです。プロダクトとして本当に世の中に出てくると綺麗なサクセスストーリーになるので「SHIZUKU」を応援しています。
――最後に今後の目標を教えてください。
梶谷:先日、WonderFLYの発足1周年を記念したイベントを開催しました。日本らしいエコシステムが本当に成長しているという感想を持ったんですね。ワークショップやハッカソン、アイデアソンといった出会いの場がたくさんてきているし、スキルがあってチャレンジしたいときはコンペに応募もできるし、スタートアップの支援体制もでき上がってきました。クラウドファンディングはWonderFLYだけではなく、いろんなサービスやプロバイダーがあるので、資金調達とファンづくりもできるし、もちろん販売の出口もあります。
まだ1年しか経ってないので少しずつではありますが、深堀と描いていた当初のビジョンに近づいてるのかなと思います。まずは不可能と言われてた一連のサービスができたので、嬉しく思っています。これからWonderFLYの認知度を上げてANA会員以外の方にも広く知ってもらい、事業スケールを大きくさせるのが次の課題ですね。
取材・文:神吉弘邦 撮影:葛西亜理沙
WonderFLY
https://wonderfly.jp/
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