挑戦する人の “翼” として―全日空がクリエイティブアワード+クラウドファンディングを手がける意味(1)

挑戦する人の “翼” として―全日空がクリエイティブアワード+クラウドファンディングを手がける意味(1)
全日空(ANA)が2016年10月に立ち上げた「WonderFLY」は、毎回決まったテーマが設けられるプロダクト・サービスデザインの「クリエイティブアワード」と、寄せられたアイデアを支援する「クラウドファンディング」の両方を組み合わせたユニークなサイトだ。プロダクトのアイデアを持つ人々と、その実現をサポートしたい人々を結びつける場を、航空会社であるANAが提供する理由とは?同サイトの立ち上げと運営を担う2人に聞いた。

――ANAが独自にクラウドファンディングのサービスを立ち上げて、しかもクリエイティブなアイデアのアワードを組み合わせたのは意外でした。あらためてWonderFLYというサービスにはどういう狙いがあるのですか。

梶谷ケビンさん(以下、梶谷):本質的にやりたかったのは、イノベーションへのアイデアや技術、想いがあっても、これまでチャンスがなかった人たちに対して「誰もが夢を持てるプラットフォーム」を提供することです。課題を与えた企業の側だけが得するオープンイノベーションとは異なるかたちで、チャレンジャー(=WonderFLYにプロダクトやサービスのアイデアを寄せた人)が成功することができたら、ANAも、社会も、みんながハッピーになるという世界観を描こうとしています。

それまでに他のクラウドファンディングで「ファンディングは成功したものの、結局は量産できなくて失敗した」というケースを見かけていました。そのため、WonderFLYでは私たちANAの強みを生かし、アイディエーション(アイデア創出とプロトタイプ製作)、ファンディング、プロダクション(製品・事業化)、ディストリビューション(流通・販売)までを一貫して手がけるサービスをつくろうと考えました。

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ イノベーション・リサーチャー 梶谷ケビンさん

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ イノベーション・リサーチャー 梶谷ケビンさん

――なぜ、そうしたサービスを航空会社が手がけようとしたのでしょうか?

梶谷:もし、私たちの持っているエアラインとしてのブランド力だったり、3000万人の会員組織だったり、マイルという仕組みをうまく組み合わせて新しいお金の流れをつくれたら、隠れた技術やチャレンジャーを応援することができるかもしれないという仮説がありました。

「WonderFLY」公式サイト

「WonderFLY」公式サイト

プロダクションの面では、ANAはメーカーではないのですが、企業契約というネットワークで各社とお付き合いがあるので、そこでうまくマッチングできるような機能は考えられます。

また、ANAが持っているお客様との接点でいうと、機内販売、空港売店、ECサイトもありますし、ラウンジや機内誌を通じたアプローチもできます。カーゴのビジネスもあるので、将来的には実際にプロダクトを運ぶところでも支援ができますから、アイデアの出口まで将来的にお手伝いできればいいなと思っています。

WonderFLYの特徴

WonderFLYの特徴

――そのとき、ANAならではの特徴はありますか。

深堀昴さん(以下、深堀):私たちANAはたったヘリコプター2機を持つ純民間航空会社として始まった時代から、いかに多くの人たちをつなげるかをビジネスにしています。現在のグループ経営理念も「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します」というものなんですね。そのように夢を持ってチャレンジする人たちをつなげ、夢を実現させる応援をしたい、という大きな目的が1つあります。

それと同時に私たちがゴールとして持っているのが「新しい航空需要の創出」なのです。日本から海外へ行くきっかけ、海外から日本に来るきっかけをつくりたい。世界中の人たちが日本に来てビジネスをやろうと思う、そういった根本的な盛り上がりがない限り、エアラインとしての将来は描けないですから。

だから、WonderFLYというサービスを通じて、日本のビジネスや日本自体を盛り上げたいという想いがベースにあります。私たち二人で用意した最初の企画書にも「ジャパノベーション」というタイトルが付けられていました。

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター 深堀昴さん

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター 深堀昴さん

梶谷:日本発のイノベーションという意味ですね。日本の良いものをアワードとクラウドファンディングの組み合わせから生み出せないだろうか。例えば、第1回のアワードテーマはわかりやすく「旅」をテーマにしましたが、伝統工芸との接点を探ろうとしていました。

第1回テーマ「旅の常識を覆すモノ」

第1回テーマ「旅の常識を覆すモノ」

――アワードのテーマ設定にユニークさを感じていましたが、そのような背景があったのですね。

梶谷:日本中にある良い品物や技術には、プロダクションのスケールが小さくて世界に展開するのが難しいものが多くあります。それをクラウドのプラットホームをうまく活用して、まずはANAが持っているオーディエンスに向けて、いずれは世界に広く発信してもらおうと思っているんです。

――立ち上げてから1年弱の期間で4回のアワードを開催しました。最近の「温泉の新しい楽しみ方」というテーマを振り返ってどうでしたか。

梶谷:全部で241件、幅広いエントリーがありました。選考していて、毎回ビックリするようなアイデアもたくさんあります。何かを改善するアイデアも多くて、現状の課題が見えてくるのが特徴です。数あるアイデアの中から、プロダクトとして実現可能性のあるものをファイナリストに選出しています。

深堀:私がなるほど、と関心したのは、動物の耳になるタオルのアイデア。日本の伝統で、湯船に浸かったらタオルを頭に乗せますよね。それがいろんな動物の耳になっていて、まるで動物が温泉に入っているように見えるという。これはなかなか考えたなと思って。

第4回の受賞作、“体温調節+かわいい”新しい入浴体験「どうぶつ温泉タオル」(kayoooshi)

第4回の受賞作、“体温調節+かわいい”新しい入浴体験「どうぶつ温泉タオル」(kayoooshi)

梶谷:温泉という、基本的に誰もしゃべらない空間で、ひょっとしたらこのタオルをきっかけにコミュニケーションが生まれるかもしれない。まさに温泉の新しい楽しみ方というシーンまでちゃんとストーリーがあったので、素晴らしいアイデアだなと私も思いました。

深堀:一般の人が大人数で考えると、すごくいいアイデアが集まると実感しています。発想が柔軟なので、温泉会社などからは出なそうなアイデアばかりなんです。

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