2020年、株式会社ビズリーチからグループ経営体制に移行し、誕生したVisionalグループ。「ビズリーチ」や「HRMOS(ハーモス)」といったHR Tech事業を主軸に、サイバーセキュリティや物流など多方面に事業を展開している。そんな組織として成長著しいVisionalに、コミュニケーションデザイン領域を担うチームがあることをご存知だろうか?
2018年に前身組織の「コミュニケーションデザイン室」を発足し、2020年に独自のコミュニケーションデザイン評価モデルを策定。デザイン・フィロソフィーに「We DESIGN it.」を掲げ、プロダクト、組織、体験とすべてをデザインすることで、新たな価値を創造している。さらに、「クリエイティブディレクショングループ」と呼ばれるブランディング集団も発足。事業戦略や経営方針に基づき、効果的なクリエイティブ施策を打ち出すための専門家たちが集う。
コロナ情勢によってコミュニケーションのあり方が変化しているなか、コミュニケーションデザインが今後どのような役割を果たしていくのか。今回、コミュニケーションデザイン部 部長の三井拓郎さん、クリエイティブディレクショングループの田渕将吾さん、清水健太さんに、Visionalでコミュニケーションデザイン、そしてブランドづくりをおこなう意義についてお話を伺った。
あらゆるタッチポイントをデザインする、コミュニケーションデザイン部
――まずはじめに、みなさんのご経歴と現在の業務内容についてお聞かせください。
三井拓郎さん(以下、三井):私は、大学卒業後10年間ほどテレビCMや新聞広告などマス向けの広告畑にいました。その後、外資系ソフトウェアメーカーにクリエイティブマネージャーとして転職。Webサイトや広告、店舗やパッケージ、ロゴなどあらゆるクリエイティブのディレクションを通して、ブランドをつくるには、あらゆるタッチポイントでの一気通貫したコミュニケーションデザインの重要性を痛感しました。2014年に株式会社ビズリーチに入社し、前職までの経験を活かして、カスタマー(求職者)向け広告を担当しました。
三井:当時のビズリーチは、ちょうど広告専任チームが組成されたタイミングで、広告領域に知見のあるデザイナーがまだ社内にはいない状態でした。手探りではありましたが、少しずつ実績を積み重ね、2015年に当時のデザイン組織の部長に就任。2018年に、より専門性を高めるべく「コミュニケーションデザイン室」を発足することになりました。現在は、組織マネジメントや制作物の評価制度づくりといったコミュニケーションデザイン部 部長としての業務と、テレビCMなど大規模なブランド施策のクリエイティブディレクション業務の大きく二つを担当しています。
田渕将吾さん(以下、田渕):僕は2020年にVisionalグループにジョインしました。これまでその時々の流行に合わせて必要なデザインスキルを獲得できる環境に身を置くことで知見を深めていきましたが、デザイン領域がどんどん広がっていくなかで、まだ自分が経験したことのない分野を学べると感じたのが入社のきっかけです。現在はクリエイティブディレクショングループに所属し、ブランドアイデンティティの立案や広告の企画・制作など、会社や事業のクリエイティブを包括的にディレクションしています。
清水健太さん(以下、清水):ファーストキャリアは広告制作会社で、テレビCMや連ドラの企画・監督・脚本をしながら、新規事業(スマホアプリ)の立ち上げ責任者をしていました。その後はIT事業会社で、モビリティ、へルスケア、フィンテックなど幅広い事業のマーケティング、クリエイティブに携わりながら、デザイン組織のマネジメント、コーポレートブランディングを担当しました。そうしたキャリアの中で最も興味を惹かれたのが、新規事業や会社立ち上げ時の「経営に基づいたブランドづくり」です。事業戦略や経営者の思想といった抽象度の高い物事の解像度を高めた上で、アウトプットに落とし込むプロセスに、大きな魅力とやりがいを感じました。
2019年末、ビズリーチがちょうどグループ経営体制に向けて動き始めたタイミングで、想像できないことがたくさん起こりそうな空気感に、直感的に惹かれてジョインしました。入社してからはおもにVisionalグループのブランディング領域を担当し、現在はクリエイティブディレクショングループで人財活用プラットフォーム「HRMOS」のブランディング、マーケティングを中心に担当しています。
――三井さんはコミュニケーションデザイン部、田渕さんと清水さんはクリエイティブディレクショングループに所属されていますが、それぞれの役割について教えてください。
三井:コミュニケーションデザイン部は、ビズリーチと人々のあらゆるタッチポイントをデザインする部署です。具体的には、当部署のメンバーはそれぞれ「ビズリーチ」や「HRMOS」といった担当事業を受け持ち、マーケティングチームと一緒に売上や認知の向上に向けた施策を練っています。マーケティングの数値目標も担っており、事業づくりのいちメンバーとして事業にコミットすることが求められます。広告や印刷物、イベントなどあらゆるクリエイティブを通して、成果を追い求め、一貫性のあるブランドを確立させることが、私たちコミュニケーションデザイン部のゴールです。
クリエイティブディレクショングループもブランドづくりに関わるという点ではコミュニケーションデザイン部と共通していますが、ブランド設計の部分から参画していくことが多いです。はじめにブランドの要件定義からおこなうことで抽象度の高いものをより具体化し、それをサイトや広告など実際のクリエイティブとして表現する。このフェーズでコミュニケーションデザイン部と連携することもあります。田渕さんと清水さんはクリエイティブディレクショングループですが、「HRMOS」のコミュニケーションデザイン部も兼任しています。そのため、戦略からアウトプットまで一貫したブランドづくりを可能にしています。
田渕:コミュニケーション施策で何かブレイクスルーしたいという時に僕たちが呼ばれることが多いですね。既存要件の再定義から始め、Webサイト、バナー広告、取材広告、エキシビションなどさまざまな媒体を使い分けながら、事業の目的達成に最適な施策を提案しています。
人々とのタッチポイントで、一貫性のあるクリエイティブを。
――社内にコミュニケーションデザイン部が発足した経緯について教えてください。
三井:私が入社した当時、広告専任チームがあったのは「ビズリーチ」 だけでした。「キャリトレ」や「HRMOS」などサービスが成長していく過程で徐々に広告のデザインが必要になってきましたが、当時は事業部によって個別最適され、ブランドとしての指針や一貫性が欠けていたように思います。
もちろんサービスによってターゲットや認知度は異なるので、それに応じて施策も変わります。会社や事業が急成長している中で、各サービスの施策にバラバラなコミュニケーションが生まれたり、ブランドリスクのあるコミュニケーションが顕在化してきたことと、デザインの性質上、品質というものが評価しづらく属人化していました。それに対して、中長期を見据えた当たり前品質の基準を会社として定義し、会社全体でブランド毀損やユーザー体験の損失を防ぎ、継続的に品質改善をおこなう仕組みをつくることが必要でした。
まずは、すべてのクリエイティブを私自身が目を通すようにし、そこで承認したものがリリースされるという仕組みをつくりました。もともとこの会社にはレビュー会という文化が昔から根付いていて、毎日レビュー会を行なっています。そこでレビューをもらい品質を高めて、承認会に臨むというフローになります。
それからデザイン品質を可視化して品質の改善サイクルを回すコミュニケーションデザインの評価モデルを作成。「この会社にとって良いデザインとは何か?」を、共通した基準で判断できる環境を整えました。これにより、効果と品質を両立させたクリエイティブを再現性高く生み出せることができるようになったんです。
――デザイン評価を定量化にしたことによって、組織にどのような変化が生まれたのでしょうか?
三井:デザインの評価基準が明確になったことで、デザイナー自身でPDCAを回せるようになったと思います。実は、当時私自身もどんなデザインが良いのかきちんと言語化できているわけではなかったため、デザイナーたちもなぜ承認されなかったのか納得できないまま修正対応していたと思います。
しかし、承認の基準を明確に打ち出したことで、たとえ指摘があったとしてもデザイナー自身の納得度は高まったと思います。この承認会が質の良いクリエイティブを生み出すだけでなく、デザイナー自身が成長するための振り返りや学びにも繋がればと思っています。
確固たるブランドづくりのため、戦略からアウトプットまで一気通貫して描く
――クリエイティブディレクショングループのお二人はこれまでどのようなプロジェクトに携わってきたのでしょうか?
清水:会社や事業のブランディング領域(コミュニケーションデザイン)を中心に、組織が一つになる、同じ方向に進む、事業を加速させるコンセプトやストーリーをつくることが多いです。例えば、2020年、ビズリーチからVisionalグループに経営体制を移行するにあたり、グループ全体の指針となる「Visional Way」というグループミッション・バリューの策定なども行いました。
清水:指針となる言葉をつくる際に大事にしているのは、経営者や事業責任者が自分の言葉として語れるかどうかです。そうしたリーダーたちは、組織や事業が大きく動き出す時、変わる時、説明責任を果たさなければなりません。そこで目指す方向に想いを乗せて語れないと信頼関係はなかなか構築できません。だからこそ、話し手の背景や性格まで汲み取って、生きた言葉に仕立てる必要があります。
特に、昨今はオンラインが主流になり、言葉の熱量が届きづらくなりました。情報が溢れ、空気感を共有できない状況下で、聞き手に好奇心、集中力を持ってもらうためには、スライド資料含め、何をどういった伝え方にすべきか、より想像力が求められるようになったと感じます。
田渕:清水さんは会社や事業部が一つになるための指針や大きな戦略を立てることが得意な一方で、僕は立てられた戦略やコンセプトをビジュアルに落とし込むことを得意としています。ですので、清水さんがクリエイティブディレクター、僕がアートディレクターのような立ち位置でプロジェクトに取り組むことが多いですね。とはいえ、きっちりと役割を棲み分けているわけではありません。状況に応じて互いに役割を変えながら、戦略に紐づいた施策を進めています。
例えば、いま一緒に進めている「HRMOS」は、清水さんが策定したミッション・ビジョン・バリューやコミュニケーション戦略を元に、一緒に製品のターゲットや認知度、業界内ポジションなどの要件を定義し、それから僕がサービスサイトやバナー広告等のクリエイティブディレクションを行っています。
田渕:Visionalのような多くの事業を抱える会社では、事業の性質やフェーズに適したアイデアを出し続けることがクリエイティブディレクターに求められます。特に「HRMOS」は、ターゲットや利用目的の異なる複数の製品が集まったサービス。本質的な目的や課題を見極めて施策を打ち出していかなければ、製品独自の価値をターゲットに伝えることができません。どう伝えるかよりも、まず何を誰に伝えるのかを固めることで、未来のあるべき姿を見据えたクリエイティブになっていくんです。
清水: 先ほど話した説明責任の観点でいうと、私も大きな提案をする以上、さまざまな部署のステークホルダーと対話を重ね、合意形成をとるプロセスがあります。影響度やコストが大きくなれば複雑さや変数も増しますが、そのプロセスデザインもアウトプットの一部ですし、むしろ根幹なので、ここをないがしろにする人が信用を得るのは難しいと思います。ロジック、プラン、熱量、人柄など要素は多岐に渡ると思いますが、すべての始まりは「信じてもらえるかどうか」の一言に尽きるかなと思います。