丹青社の高い技術力とノウハウが支えた「2020年ドバイ万博日本館」(2)

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丹青社の高い技術力とノウハウが支えた「2020年ドバイ万博日本館」(2)

海外案件ならではの課題を乗り越えたチーム力

──海外だから苦労されたことや、新しくチャレンジされたことなどがあれば教えてください。

阪田:海外プロジェクトの場合、日本で選んだ素材を現地にある素材に置き換えなければならない場合があるのですが、今回も資材調達は課題のひとつでした。映像やミストの演出があるので、布素材ひとつとっても、光沢や透け感がちょっと違うだけで、見え方がかなり違ってきてしまうんですよね。それで、クリエイターや設計者の意図を理解したうえでどの素材に置き換えられるか、現地の会社からサンプルをいろいろ取り寄せ、何度も検討を重ねました。

山中:これまでの万博プロジェクトでは、日本の協力会社と一緒にやることが多かったのですが、ドバイ万博では展示から演出・システム関係の工事や機材の調達、保守管理まで、すべてを現地の協力会社とともに取り組みました。それはけっこうチャレンジングだったと思います。

ドバイ万博 日本館 外観

山中:あとはコミュニケーションの部分で壁はありましたね。特に文化の違いはすごく大きく、見積もりの依頼の仕方や契約までのプロセス、契約後の追加請求など、考え方や方法論の違いで戸惑うことが多くありました。ひとつひとつの交渉をシビアに進めていかないといけませんでした。

阪田:海外の会社との考え方の違いは、私も感じました。あるケースをつくってもらったら穴の位置が違ったので、「つくり直してください」とお願いしたんですね。そうしたら後日、同じケースに穴をもうひとつ開けたものがあがってきて、「最初につくった穴が見えちゃうじゃん!」と(笑)。そのあとも3往復くらいしてようやく完成した、ということがありました。

山中:驚くこともあったけど、そもそも僕らが思う「普通」と、相手が思う「普通」が違うから仕方ないんだよね。ルールや習慣がお互いに違うという前提で、協働できるような環境を整える必要があるのだと思います。また、日本の協力会社だったら、阿吽の呼吸でちょっとしたトラブルなら対応してくれたりもするけど、海外でそれは通用しない。なので、自分たちでカバーできるようにマニュアルをつくるなどして乗り切りました。

小林:テクニカルな面で対応したことのひとつは、「制御に関連する機材をインターネット経由で遠隔操作できるようにする」ということでした。日本館の中に演出全体を制御する機材があるんですが、これをリモートで操作できるように環境を整えました。さらに、人の動きを見る運営用のカメラとは別に、演出装置の監視に20台以上のリモートカメラを展示空間に取り付けました。

演出装置の監視の様子。日本にいても現場での作業とほぼ同じ操作が可能になった。

小林:このカメラを設置することで、映像が会場内でどう見えているか、照明が作動しているかといった会場の様子をリモートで確認できるようになりました。宿泊先のホテルや日本に帰国し自宅からでも、パソコンやスマホで現場にいるのとほぼ同じ操作が可能なシステムを組むことができました。これは今までの日本のプロジェクトでもやっていたことなので、培ってきたノウハウや経験を活かすことができました。

阪田:ハプニングやトラブル続きのなか、丹青社の良さが活かされた点といえば、やはりチームワークに尽きると思います。相手のことを思いやりながら仕事をするメンバーがそろっていた。それは、すごく大きなことでした。

石橋:僕自身は万博に関わるのははじめてで、いわば未踏の地を歩くようなものでしたが、小林さん、山中さん、阪田さんがいろいろフォローしてくれたから、最後までやり遂げることができました。

あと、僕はオープン直前の1カ月ほど前まで日本にいたのですが、日本とドバイでこれだけの距離や5時間の時差があっても、Web会議をはじめいろいろなデジタルツールを活用して、隣にいるかのように現場とコミュニケーションが取れた。こういうやり方がスタンダードになっていくんだなと、改めて感じたプロジェクトでもありました。

誰かの記憶に残る博覧会をめざして

──個性豊かな6つのゾーンを音声ARシステムでエスコートしてくれる日本館は、想定を上回る人気パビリオンになったそうですね。展示デザイン部門での金賞受賞も、ミラノ万博に続いての快挙となりました。

山中:会場にお越しいただいた多くの方が「Amazing!」「Fantastic!」と言ってくださいました。感想を言ってくれる人は、悪いことは言わないのかもしれませんけどね(笑)。

シーン3会場の様子

──2025年に大阪・関西万博が開催されますが、今回の経験を経て、これからの大型展示会などに向けての展望や意気込みをお聞かせください。

山中:海外企業との協働という点では、今回の現場を経て、みんな確実にレベルアップしたと思います。大阪・関西万博でもし外国のパビリオンに関わる機会があれば、今回とは逆の立場になるのでおもしろいだろうなと思いますね。今度は日本がホスト国になるということで、さらにモチベーションを高く持てるんじゃないかなという期待もあります。

石橋:僕も今回は多くのクリエイターの方々と一緒に仕事ができ、そこで得られたプランニングの考え方や実践力など勉強になった部分が多々ありました。この経験を血肉として、次の仕事に活かしていきたいと思います。

小林:今回は最新技術で来場者の興味や関心をビジュアライズしたりして、それを熱心に見てくれる人ももちろんいたんですが、みんながみんなそういう方というわけではないんですよね。子どももいれば、おじいさんやおばあさんもいて、単純に「映像がきれいだな」「この模型すごいな」って楽しんでいる人もいました。

また、ドバイ万博全体を見ても、LEDパネルを使った豪華な展示だからいいというわけではなく、小さなパビリオンでも丁寧につくった映像がおもしろいところもありました。これはドバイ万博に限らず、いつも思うことですが、やっぱり「来場者が喜んでくれているか?」が、まず大切なんですよね。仕事を進めていると、予算や工程を優先しがちですが、そういう初心は忘れずにいたいなと思っています。来場者が楽しい思いをしているか、そこで何か感じるものを与えられているか。もし大阪・関西万博に関わる機会があるとしたら、そのことを最優先にして関わりたいなと思っています。

阪田:私はこれまでミラノ万博や日本での地方博など博覧会の仕事に多く携わってきて、プロジェクトのなかでも博覧会が一番好きなんです。クライアントや協力会社の年配の方々にも、「子どもの頃、大阪万博に行ったことが忘れられなくて、この仕事をやっているんだ」という方がけっこういらっしゃって、それってちょっと素敵だなと思っていて……。

万博って、誰かの記憶にずっと残っていく仕事なんですよね。この先、また万博に関わる機会があるとしたら、子どもたちに「すごいな」「大人になったらこういうものをつくってみたいな」と思ってもらえるものをつくっていけたらいいなと思っています。

文:矢部智子 写真:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)
ドバイ万博日本館写真撮影:Jon Wallis Photography

丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/