丹青社の高い技術力とノウハウが支えた「2020年ドバイ万博日本館」(1)

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丹青社の高い技術力とノウハウが支えた「2020年ドバイ万博日本館」(1)

「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」をテーマに、2021年10月から2022年3月まで開催された「2020年ドバイ国際博覧会(以下、ドバイ万博)」。新型コロナウイルスの影響により1年の延期となったものの、190以上の国・地域が参加し、総来場者数は約2,410万人と前回のミラノ万博を上回った。

空間づくりのプロフェッショナルである丹青社は、1970年に開催された大阪万博のパビリオンづくりの実績を契機に躍進し、愛知万博、上海万博、ミラノ万博などの空間づくりに携わってきた。

今回日本館の展示施工と保守管理は、丹青社と株式会社ムラヤマがコンソーシアムとして担当。本記事では、プロジェクトの中心となった丹青社のプロジェクトメンバー4名に、これまで培ってきたテーマを具現化する技術力や、多くの企業やクリエイターを束ねるマネジメント力をどのように発揮したのか?また、海外の展示ならではの課題やこれからの展望などをうかがった。

音声ARとミスト演出がもたらす幻想的なパビリオン体験

──はじめに、みなさんの普段の仕事内容と、ドバイ万博日本館では何を担当されたかを教えていただけますか?

山中裕介さん(以下、山中):現在は企業ショールームや展示会などに携わるコミュニケーションスペース事業部制作統括部に所属しています。それ以前はテーマパーク関係の仕事に携わることが多かったです。今回のドバイ万博では、日本館の制作責任者を務めました。

山中裕介 株式会社丹青社 コミュニケーションスペース事業部 制作統括部 課長

石橋遼太朗さん(以下、石橋):私は営業職を経て、2020年からクロスメディアイノベーションセンター(CMIセンター)に所属し、おもにデジタル演出が含まれる案件に携わっています。日本館では、ソフトの領域でクリエイターとともに推進のマネジメントを担当しました。

石橋遼太朗 株式会社丹青社 CMIセンター 空間メディアプロデュース室 課長

小林勇さん(以下、小林):私もCMIセンターに所属していますが、石橋がソフト寄りなら私はハード寄りで、演出技術部に在籍しています。日本館では、映像や音響、照明、特殊効果など演出システムの施工を担当しました。

小林勇 株式会社丹青社 CMIセンター 演出技術部 チーフテクニカルディレクター

阪田まゆ子さん(以下、阪田):私は今年からデザイン部門に新設されたデジタルデザイン局で、博覧会や企業ミュージアムなどのデザインやディレクションをおこなっています。日本館では、制作側の立場からデザイン・ディレクションを手がけました。

阪田まゆ子 株式会社丹青社 デザインセンター デジタルデザイン局 クリエイティブディレクター

──みなさん展示空間をつくる上で重要な役割を担当されていますね。では、今回の日本館の展示概要や見どころを教えてください。

阪田:日本館のテーマは、「Where ideas meet(アイディアの出会い)」でした。未来に向けて地球的視野で「アイディアの出会い」を生む結節点となり、それを融合させることで、世界に向けてより良いアクションを生み出していこう、というビジョンを掲げてつくっていきました。

ドバイ国際博覧会日本館 会場映像

阪田:三角形のパビリオンは、6つのゾーンからなる展示空間になっていました。「シーン1/日本との出会い」、「シーン2/出会いの歴史としての文化」、「シーン3/現代日本のテクノロジー」と続き、「シーン4/私たちの今と課題」で二手に分かれる通路のような空間を通ると、360度スクリーンの円形シアターがある「シーン5/アイディアの出会い」に入ります。最後の「シーン6/いのち輝く未来社会のデザイン」では、2025年大阪・関西万博の紹介をおこなうという構成でした。

(左)シーン1(右)シーン2

(左)シーン3(右)シーン4

(左)シーン5(右)シーン6

阪田:日本館の特徴のひとつになったのは、音声ARシステムです。音声ガイドの最先端バージョンのようなもので、館内で貸し出す専用スマートフォンを使い、その場所にふさわしい音の演出をおこないました。

もうひとつの特徴は、パナソニックの「シルキーファインミスト」を使った空間演出です。展示空間には極微細のミストがひんやりと漂っていて、その霧にも映像をプロジェクションすることで、映像の中に入り込んでいくような幻想的な感覚を味わえます。ほかのパビリオンが15~20分で見終わるところが多いなか、日本館は40~60分という滞在時間の長いパビリオンとなりました。

デジタルアートからミニチュア作品まで、個性豊かな展示ゾーン

──音声ARシステムによって、来場者はどんな体験ができるのでしょうか?

山中:傍からはよくある展覧会の音声ガイドのように見えますが、来場者が自分で選択して音声を流すのではなく、あるエリアに来たら自動的に耳元のイヤホンから展示にまつわる解説や音響が流れてくるシステムになっていました。

来場者に配られた音声ARシステム。来場者が言語選択をしてスタートするので、解説は自分が一番親しんでいる言語で聞くことができる。

小林:このシステムは屋内にGPSの人工衛星を浮かせているようなもので、展示空間のどこにいてもリアルタイムに詳細な位置情報を取得することができます。「この展示の前ではこの音声を流そう」「この照明を当てよう」といった、ピンポイントな演出を提供することができて、さらに来場者の行動によって演出の内容を少しずつ変えたりもできます。株式会社バスキュールが開発したソフトで、さまざまな企業の技術と組み合わせることで、世界的にも例のない演出手法になりました。

山中:またこのシステムでは、行動履歴から来場者の興味や関心を集めることができます。そのデータをもとにグラフィックアートが作成され、「シーン5」のクライマックスに結びつくのも見どころのひとつになっていました。演出手法でいうと、複数のシーンで活用した「シルキーファインミスト」もやはり特徴でしたね。

小林:ほかのパビリオンでもミストの演出はありましたが、「シルキーファインミスト」は隣の人が見えないくらい真っ白になりますので、幽玄な雰囲気になるんですよね。

「シーン5」の会場の様子。「シルキーファインミスト」は通常より粒子が細かく、噴霧後にすばやく気化するため、ミストが充満していても濡れる感じが少ないという。

山中:「シーン1」では、ストリングススクリーンといって糸状のスクリーンに映像を映したのですが、ミストの効果もあり、スクリーンと空間が境目なくつながる、没入感の高い空間を演出できました。この演出は来場者に刺さったみたいで、開幕当初から反応はよかったですね。また、ミニチュア写真家の田中達也さんと協働した「シーン3」はテーマに沿ったミニチュアのアート作品が並んだ展示で、熱心に見ている来場者が多かったように思います。個人的にも好きな空間でした。

──「シーン3」は阪田さんが担当されたそうですね。

阪田:はい。「シーン3」は現代日本のテクノロジーをテーマとしていましたが、それらを説明的に紹介するのではなく、日常にあるもので見立てた模型作品として表現し、約120の作品を「都市」「大地」「宇宙」「海」という4つのテーマに分けて展示しました。ほかのパビリオンでも映像を使った演出が多かったので、小さなものが密度高く集まるアナログな展示空間は、新鮮だったと思います。

ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さんとの協業による「シーン3」。キッチン用品や生活雑貨など日常にあるものを街など別のものに見立てた作品がたくさん並んだ。

阪田:田中さんの作品は、日本で仮組みしてイメージを固めたあと、材料を現地に送り、田中さんを含めた4人のスタッフで10日間かけてつくっていきました。田中さんは気さくな方で、私も楽しく仕事を進められました。

次世代型展示を支えた、丹青社の知見とノウハウ

──ドバイ万博で丹青社は、おもに展示施工と保守管理を担ったと聞いています。半年という長い会期でしたが、振り返ってみていかがでしょうか。

山中:会期の長さに加え海外展示ということもあって、大変だったことがまず先に思い出されます(苦笑)。今回は完全予約制で、1組36人のグループを20分おきに展示エリアに送り出す運営方法を取っていたんですが、途中どこかで不具合が起きてしまうと、そのあとのグループに影響が出てしまうので、この流れを止められないというプレッシャーがありました。だから毎日開館時間より早く現場に行き、立ち上げ作業として何度もランスルーをして不具合に対処する、ということを繰り返しました。

それでも、プロジェクターが動かないといったトラブルはどうしても起きるので、その場合は閉館時間以降に交換作業をおこなったり……。シフトを調整してなるべく一人一人に負荷がかからない体制にしましたが、運営形態の性質上、そういった保守管理の方法にせざるをえませんでした。

小林:音声ARシステムが予想以上に複雑だったんですよね。会場では3グループ、待機しているグループを含めると5~6グループが同時に稼働することになるのですが、グループごとにスマートフォンを制御しながら、全体を動かすトータルコントロールもしないといけない。それがすごく難しく、最初の頃は音や映像に不備が出たりと細かなトラブルはたくさんありました。

発生したトラブルと解決方法は詳細に記録し、蓄積しました。その内容はチーム全員に共有し、同種のトラブルが発生した場合も素早く対処できるようになりました。情報の整理と共有は非常に重要です。

──今回は、多くの企業やクリエイターとの協力が必要なプロジェクトでもありました。マネジメントの面ではいかがでしたか?

石橋:そうですね、今回は総合プロデュースをおこなった電通ライブさんをはじめ、パナソニックさん、DNPさん、ともにコンソーシアムを組んだムラヤマさんを筆頭に、映像制作のモンタージュさん、CEKAIさん、先ほども名前が出たバスキュールさんやワントゥーテンさんなど、さまざまな分野のトップクリエイターの方々も参画されていたので、毎週のようにおこなわれた展示関係の打ち合わせも10~20人という大所帯でした。

そんななか関係者をひとつの方向に向けて進めていくのは、やりがいと共にコントロールの難しさを感じましたね。

山中:特に今回は丹青社が初めて組む会社ばかりだったこともあり、さまざまな意見を粘り強くまとめ、完成へと導いた石橋くんの功績はすごく大きかったと思う。シビれましたよ。

石橋:ありがとうございます(笑)。これほど本格的な博覧会の演出に携わることは今回が初だったのですが、とても良い経験ができたと思っています。

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